第四章 世界の仕組みを知る頃

御使いと8人の従者

「ようこそおいで下さいました!」

 と商会長が俺達の姿を見るや両手を広げてそう言った。


「ああ、おはようエギル商会長」

 と俺は右手を上げてそう言った。


 月曜日の朝9時。


 俺とティアとシーナ、そしてミリカとイクスの5人は先週の約束通り、色々な商材を持って商会に来た。


 ライドとメルスは外で待機をさせている。


 早朝から足漕ぎ自動車を商会の建物の陰に隠してシートを被せていたのだが、今は建物の前で俺からの合図を待ってる訳だ。


 俺達5人は、前回と同様に2階に案内されたが、今度は一番手前のさらに広い部屋へと通された。


 扉の横には背の高い男が立っていて、部屋の中には、受付嬢が一人と、フードを被った女が一人、そして、ガイアと名乗る「噂の商人」がそこには居た。


 この部屋には楕円形の大きなテーブルがあり、片面だけで8人は座れそうだ。


 俺達は部屋に入って左奥に座るガイアとその助手から一つだけ席を空けて、左手の手前から、ミリカ、イクス、シーナ、ティア、俺の順で席に着いた。


 向かいの席にはサルバ商会長が座り、その後ろに受付嬢が立ったまま控えていた。


 サルバが俺達の顔を見回し、


「今日は素晴らしい取引のお話が出来そうですな!」

 と言ってニコニコしている。


「さて、まずはご紹介をしておかなければなりませんな」

 と言ってサルバは俺達の事をガイアに紹介し、ガイアの事を俺達に紹介した。


 一番奥の商人がガイア。そしてその手前のフード女は「テラ」と名乗った。


 ガイアにテラね・・・

 まるで「地球から来ました」と名乗っているかの様じゃねーか。


 と俺は思った。


「さあ、では今日の本題、ショーエン殿の商材をお見せ頂きましょうか!」

 とサルバが言いながら俺の顔を見た。


 俺はミリカの方を見て

「ミリカ、まずは衣装の話から始めてくれ」

 と俺が言うと、ミリカは持参したサンプル衣装を商会長の背後にある壁に次々と掛けて並べていった。


 ミリカは一通りの作業を終えると、

「こちらの衣装をご覧ください。左から、貴族様向けの男女の衣装。次に神官用の男女の衣装、更には執事とメイドの衣装。更にここからは庶民の部屋着とお出かけ用の服になっております」

 とまくし立てる様に説明をした。


「貴族や神官の服はバティカの資源で生産可能な生地を使用していますが、庶民用の衣装はこの街の資源から生産が可能な生地を使用しています」

 とミリカの説明は続く。


「更に・・・」

 とテーブルの上にトランクスやショーツ、タイツやソックス等を並べてゆき、

「下着の文化を広めて、見えない所にまで気遣う事で、日常生活でも仕事をする時でも、人々の生産性が向上する効果が期待できますよ」

 と、言って締めくくった。


「さあ、お手に取って品質を確かめて下さいな」

 とミリカが促すと、サルバは目をキラキラさせて一つ一つの衣装を丹念に見て回った。


「ほう・・・、これは見事な生地と仕立てですな・・・、更にこの下着という物。伸縮性に富んで、腰紐を必要とせぬというのか・・・」

 とサルバは深く息をつきながら驚きを隠せない様子だ。


「それに、心なしか良い香りがするのですが、これは一体どのような仕掛けで?」

 とサルバが、部屋に漂う香りに気付いて言った。


 お、気づいたな。


「ああ、それには俺が答えよう」

 と俺は立ち上がり、ティアとシーナが持ってきた袋から、バスサイズの石鹸を次々と取り出した。


 石鹸の色は概ね乳白色をしているが、一つ一つで香りが異なっている。


 テーブルの上には6種類の石鹸が並べられ、それぞれが爽やかで微かに甘い香りを放っていた。


「以前に言っていた、これが石鹸ってやつだ」

 と俺は言い、「商会長が良い香りがしたと思ったのは、ミリカの身体から石鹸の香りがしたからだろう」

 と続けた。


「何と! これが人肌から香るものと言いましたか!」

 とサルバは目を丸くして言った。


「ティア、シーナ。立ち上がって、そこの受付嬢に肌を触れさせてやるといい」

 と俺が言いながら、受付嬢にこちらに来る様に促した。


 受付嬢はエギルの顔を見て、エギルは

「良い、触れてみよ」

 と言った。


 そして受付嬢がテーブルを回りこんでティアとシーナの腕に触れてみる。


 すると受付嬢は驚いた様に

「何て事でしょう・・・、とても滑らかな肌をして、触れるととても良い香りがします」

 と言った。


 俺は、受付嬢の反応に頷きながら、貴族用に用意していた石鹸の一つを手渡し、

「この石鹸を試してみるといい」

 と言って、サルバにも花の香りがする石鹸を一つ手渡した。


「使い方は簡単だ。誰か桶に水を入れて持ってきてくれないか?」

 と俺が言うと、サルバが受付嬢を見て

「持って来なさい」

 と言った。


 受付嬢は「はい」と返事をして部屋を出て、しばらくすると二人の受付嬢が水を張った桶を持って来た。


 俺はサルバと受付嬢に使い方を教え、服の袖を捲らせて、手首から肘までを石鹸で洗わせる事にした。


 そしてメルスが二人に布切れを手渡し、二人が濡れた腕を拭きとった。


「少しの間そのままにしていれば、肌も乾く事だろう。肌が乾いてから、自分の肌に触れてみると分かりやすいぞ」

 と俺が言うと、二人はしばらく肌が乾くのを待って、自分の腕をさすってその感触を確かめていた。


「おお・・・、なんと滑らかな・・・。 しかも少し甘い香りもするのですな」

 とサルバは言いながら「これを貴族の婦人方に売れば、さぞかし喜ばれる事でしょう」

 と続けた。


 俺は頷き、

「これでお分かり頂けたかな?」

 とサルバを見ながら言った。


「いや、これは驚きましたぞ!」

 とサルバは席に着きながら言い、「このセッケンというものの製造権まで売って頂けるという事で宜しいのしょうな?」

 と訊いて来た。


 俺は頷き、

「そうだ。これをこの国の名産品として、あまねく世界に広めるがいい」

 と言い、「そして、これはバティカにもまだ無い物だ。メチルの名産としてバティカに売れば、バティカの国民は勿論、王城の者までがこの石鹸を求めるに違い無いぞ」

 と両手を広げて見せた。


「ショーエン殿、これはすぐにでも契約を結びたい。作り方のレシピまで我々が得るという事で相違ありませんな?」

 と商人らしく確認をしてくる。


 俺は頷き

「その通りだ」

 と言い、「しかし、メチルに広めて頂きたい商材はこれだけではない」

 と続けた。


「おお! まだ何かあるのですな?」

 とサルバは嬉しくて堪らない様だ。


「イクス、頼む」

 と俺はイクスの方を見て言った。


「はい」

 と言ってイクスが立ち上がり、テーブルの上に乾燥したパスタの束を置いた。


「はて、これは?」

 とサルバが首を傾げている所に、今まで黙っていたガイアが口をはさんだ。


「それは、スパゲッティですか?」

 とガイアが言い、テラも

「パスタよね」

 と言った。


 サルバは驚いた様に

「何と、ガイア殿もこれが何かご存じだと?」

 とガイアの方を見た。


 やはりそうだ!

 ガイアもテラも、地球の事を知っている!


 俺はガイア達の方を見て、

「お二人の言う通り。これはパスタの一種でスパゲッティと言う」

 と俺が言うと、二人は俺達を見て


「地球から来たのか?」

 と訊いて来た。


 地球!


 このワードがここで聞けるとは思っていなかったが、二人を紹介された時の名前が「ガイアとテラ」と来れば、やはり俺はこいつらと地球の関係を気にせざるを得なかっただけに、こんなに早く結論に至れるのは嬉しい誤算だ。


 俺はガイアの質問に対しては首を横に振り、

「いや、違うと言った方がいいだろうが、その件については後程お前達と話さねばならないだろう」

 と俺は言い、「この後で時間を貰えるか?」

 と訊くと、ガイアとテラは黙って頷いた。


「何ですかな? ガイア殿はショーエン殿と同郷の者という事ですかな?」

 と気にしている様子だ。


 俺は両手を上げて

「いやいや、そうとも言えるが、これはメチル王国とは関係の無い事。この話はここまでにしてもらおうか」

 と俺はサルバを制しておいた。


「で、このスパゲッティだが、これは小麦粉から作った保存食だ。熱湯で10分程度茹でる事で食べる事が出来る。それをここで実演して見せよう」

 と俺はイクスを見ると、イクスはテーブルの上にジューンに貰った小型コンロを置き、鍋にボトルに詰めた水を入れて湯を沸かしてパスタ料理を作らせた。今回作らせたのはチーズをふんだんに使ったカルボナーラだ。


 それを見ていたテラが

「カルボナーラ!」

 と言って「私も食べてみたい・・・」

 と指を咥えている。


 しばらく調理の様子を見ていたサルバは、カルボナーラの事も気になるのだろうが、小型のコンロの方に目を奪われている様子だ。


「商会長よ、この調理器具はバティカの技術だ。これの商権についてはバティカから仕入れるがいい」

 と念のため言っておいた。


 サルバは少し残念そうだったが、頷きながら

「バティカにはこんな技術もあるのですな・・・」

 と呟いた。


 ほどなくして、イクスは持参した食器にカルボナーラを盛りつけ、サルバの前に料理を出した。


 サルバはフォークを手に持ち、不器用そうにパスタを掬おうとするのを見て、イクスがフォークに麺を巻き付ける食べ方を伝授する。


 イクスのレクチャーに従って一口食べたサルバは、しばらくカルボナーラを味わいながら、飲み込んだ。

「これは・・・、王宮の料理としても出せるかも知れませんな」

 と言いながら、もう一口食べている。


 それをガイアとテラが見ながら、ゴクリと唾を飲むのを俺は見ていた。


 この二人もデバイスを装備しているという事は、プレデス星から来たに違いない。


 しかし、俺と同じ様に転生したのかどうかが解らない。


 これは後で直接訊いてみるしか無いだろう。


 サルバはカルボナーラを半分程度食べたところで手と止め


「いや、これは素晴らしい料理ですな。これが保存食というのも素晴らしい。ぜひともこの製造権を買い取らせて頂き、街の料理人にレシピを開発させたいところですな」

 とサルバは商売人らしくビジネスモデルについて試案している様子だ。


「ああ、そうして頂くのがいいだろう」

 と俺は言って、部屋の窓際まで歩いて、カーテンを開けて窓を開けた。


 窓の外から見下ろした所にメルス達の姿が見えた。


 俺はデバイスで「自動車を一台準備しろ」とメッセージを送った。


「さて、商会長。最後にもう一つ御覧頂きたい商材があるのだが」

 と俺は窓際からサルバを見て言った。


「ほほう! まだ他に何かがあると申しますか!」

 とサルバは目を輝かせている。


「これは製造権を売れるものではないのだが、我々の商品をこの商会でご購入頂きたいと考えている」

 と俺は言いながら、「この窓の下に準備をさせているので、ご覧になるといい」

 とサルバに窓際まで来る様に促した。


 サルバは立ち上がって窓際に立ち、窓からライド達が準備した足漕ぎ自動車の方を見た。


「あれは・・・?」

 とサルバは見た事の無い車両の姿に興味を持っている様だ。


 俺はデバイスでメルスに「運転をして、そのあたりを走ってみせてくれ」とメッセージを送る。


 するとメルスは自動車に乗って、自動車を走らせて見せた。


「なんと! 馬も使わずに、ひとりでに走る車とは!」

 とサルバは石鹸を見せた時以上に驚いている。


「あれは足漕ぎ自動車と言って、馬を使わずとも人間の足の力で走る車だ。しかも、荷物を積んで走る事も出来るので、この国が行うバティカまでの道路工事にも活用できるだろうし、王都までの荷物の運搬にも役立つ事だろう」

 と俺が言うと、サルバは何度も頷いて、


「良いでしょう! あれも買わせて頂きますぞ!」

 と、実物に触れる事も求めずに即決してしまった。


 これまでに見せた商材に対する信用もあって、もう俺達を疑う事を忘れているのだろう。


 この国屈指の商会の重鎮をここまで盲目的に信用させるのだから、石鹸にしろパスタにしろ、この国の産業の発展の青写真をこの男の頭の中に描かせるには充分なインパクトだったという事だろう。


「さて、ガイアとテラといったかな? 俺達の商材の紹介はここまでだが、お前達の商売の邪魔になるものはあったかな?」

 と俺はガイア達を見て訊いた。


 ガイアとテラは顔を見合わせてから頷き、

「いや、大丈夫だ」

 とガイアが答えた。


「よし! では商会長。契約の準備を進めてもらおうか」

 と俺が言うと、


「すぐに準備しますぞ!」

 とサルバは受付嬢たちに書類の準備をする様に指示をしたのだった。


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 商会の館を出た俺達は、ガイアとテラをメルス達に紹介した後、俺はティア達に

「先に宿屋に戻っていてくれ。俺はガイア達と話があるんだ」

 と言って、商会の館の前で解散する事にした。


 ティアとシーナは俺と一緒に残りたそうにしていたが、

「ティア、シーナ。何かあればデバイスで連絡するので、ここは俺に任せてくれ」

 と言って、しぶしぶティア達は宿屋の方へと歩いていったのだった。


 俺とガイアとテラは、商会の館から街に戻る途中にある酒場に入って話をする事にした。


「ほんと、ファンタジーな世界だよな」

 と俺が言うと、

「ああ、ほんとにね。僕はお酒なんて飲みたくないのに、この星は日本食の定食屋みたいな店は無いみたいだし」

 とガイアが言いながら、店員に蒸し鶏の香草焼きを注文していた。


 定食屋ね・・・、2018年ならアメリカでも日本食が浸透していた頃だな。


 などと考えながら、

「で、俺もそうだけど、お前らも色々聞きたい事あるよな」

 と俺はガイアとテラの顔を見て言った。


 ガイアとテラは二人並んで椅子に座り、俺と向かい合っている。


 俺はライチに似た果物の香りがする果実酒と豚肉の串焼きを注文しながら言った。


「お前らは地球から来たのか?」


 俺の言葉に二人は頷き、


「って事は、あんたもそうなんだね」

 とガイアが言った。


「ああ、そうだ」

 と俺が言うと、ガイアはふうっと息を吐いて、


「僕は、こいつと一緒にクレアって星に居たんだ」

 とガイアが言った。


 ガイアの話はこうだ。


 2018年のアメリカで大学生をしていたガイアは、ミシガン州のランシングという街でテラと一緒に生活をしていたらしい。


 前世の二人の名前は、マイケルとジュリアだそうだ。


 さすがアメリカだな。中学校の教科書に出てきそうな名前だぜ。


 テラは大学で出来たガールフレンドで、ガイアと同じアパートメントの住人として他の学生達と一緒に生活をしていたらしい。


 1年のクラスを一通り終えて夏休みになった時に、アパートの住人みんなでミシガン州のサギノーという街までキャンプをしに行ったそうな。


 アパートの住人は8人居て、友人のロバートという男が車を出して、みんなで出かけたという事だ。


 で、夜にキャンプファイヤーをしながらみんなで酒を飲み、酔った友人が「肝試ししようぜ」と言って、男女2人組のペアで順番に森の中を歩いて10分経ったら戻って来るって遊びをしたらしい。


 しかし、ガイアとテラのペアの順番が回ってきて、懐中電灯を持って森に入って行って数分歩いた所で、懐中電灯の電池が切れてしまったそうな。


 仕方が無いのでスマートフォンのライトを頼りに歩いていたけど、森の中で迷ってしまって、しまいにゃ二人のスマホのバッテリーも無くなってしまったらしい。


 で、真っ暗闇の中で身動きが取れずにいたら、森の中にぼんやり輝くものを見つけたんだそうな。


 テラは「ゴーストだ!」ってビビってたけど、ガイアはその光に誘われる様に近寄って行って、そして1冊の本を見つけたらしい。


 なるほどな、ここでも「あの本」か。


 で、ガイアはその本を手にして、本が放つ微かな光を頼りに森を抜けたものの、そこは仲間が居る場所とは別の場所だったらしい。


 で、仕方が無いから森の外で夜が明けるまで過ごそうという事になって、とりあえず枕になる様にとこの本を開いて、ガイアとテラが頭を乗せた途端に頭がぐちゃぐちゃになる程の色々な情報が頭の中に入り込んできて、気が付けば二人とも気を失っていたんだそうな。


 で、目が覚めたら近くに知らない車が停まっていて、3人の大男が俺達をロープで縛ってピックアップトラックの荷台にガイア達を放り込んだと。


 車は走り出してどこかに向かっていたらしいのだが、ガイア達は誘拐されると思って、荷台から飛び降りて逃げようとしたらしい。


 ところが、ロープで縛られていたせいでうまく着地が出来ず、受け身も取れずで、その後の記憶は無いと。


「多分、僕達はあの時に死んでしまったんだと思う」


 とガイアはそう言って締めくくった。


「なるほどな。で、目覚めたらクレア星に居たと?」

 と俺が訊くと、ガイアは頷いた。


 クレア星のマテルという国で生まれたガイアは、燃料資源を採掘する事業者の家の子として生まれたらしい。

 2年間は意味も解らず過ごしていたが、2年後にテラが生まれた。

 そして、テラは生まれてすぐに俺を見て「マイケル?」と声に出して言ったんだそうで、それがきっかけで二人は同じ家の子として生まれた事を知ったんだそうな。


「恋人同士が兄弟に転生するなんて、どうなんだ?」

 と俺は興味本位で聞いてみたが、


「ずっと一緒に居る事が出来るのは、むしろ良かったと思ったよ」

 とガイアは言った。するとテラが

「そうね。だけど、まだ子供の身体だったし、おかしな事にはならなかったけどね」

 と言った。


「で、ガイアはこの世界ではいま何歳なんだ?」

 と俺が訊くと、

「25歳だよ。3年前に学園を卒業したんだ。Dクラスだったけどね」

 と言って、「テラは昨年卒業したばかりの23歳だね。彼女も僕と同じでDクラスだね」

 と言った。


 おお、年上だったのかよ。


 全然そうは見えなかったぜ。


「じゃあ、俺の話もしておこうか」

 と俺は、これまでの事をかいつまんで話した。


 2035年の日本に居た事。


 ガイア達と同じ様に「あの本」を見つけた事。


 インターネットカフェで眠ってから、目が覚めたらプレデス星でショーエン・ヨシュアとして生まれてた事。


 そしてクレア星に移住して学園に通い、史上最高の成績を残して現在は学生の身分のまま「特別研修生」という扱いになっている事。


 更にテキル星では「龍神の使い」でありながら「旅の商人」として世界を改善しながら旅をしている事などを、順を追って話した。


「俺はこの力を情報津波と呼んでるんだけど、お前らは何て呼んでるんだ?」


 と俺が訊くと、

「そんな力が使えるのかい?」

 とガイアが不思議そうな顔で訊いて来た。


 え?

 どういう事?


「僕達にはそんな力は無いよ。あえて言うなら、僕達はこの世界の言語を最初から理解できたって事くらいだね」


 いや、そんな筈ないだろ?


「あの本」の力で色々な知識を呼び出せるんじゃないのか?


 そもそも、この世界の言語なんて、俺でも最初から理解できてたぜ。


 そして俺はハッとした。


 そうだよ。


 何でこいつらはんだ?


 情報津波を使えば学園の試験問題なんて簡単に答えられる筈だ。


 なのにそう出来なかったって言う事は、やはりのだろう。


「それに、聞き間違いかも知れないけど、ショーエンが居たのは、2035年の日本って言ったかい?」

 とガイアとテラは俺を見てそう訊いた。


「ああ、それが何か?」

 と俺が言うと、


「前世で僕達は1997年生まれだから、2018年には21歳だった。そしてクレアで生まれ変わって惑星開拓団の事を知って、一生懸命勉強をして学園に入ったんだ」

 と言って立ち上がり、

「僕達はクレア星の惑星疑似体験センターで、ガイア星と呼ばれる惑星が地球だと気付き、僕達は地球に帰る為に学園で頑張る事にしたんだ」

 と力説しながら俺を見た。


「で、結局は移住者グループにしかなれず、昨年の移住者募集の際に、少しでも地球に近い星に行こうって事でテキル星に来たんだ」

 と言ってガイアはまた席に着いた。


 なるほど。


 ガイアもテラも、俺よりも早くこの世界に転生してきたみたいだが、地球ではうんと年下だった訳か。


 人生経験も、この世界と合わせてやっと40年程度。

 つまりは少年少女の時代を40年続けて来たという事だ。


「俺はな、地球では1975年生まれで2035年まで生きた記憶がある。なので、今は合わせて75年目の人生を送っているところだ」

 と俺が言うと、


「おお、スゴイですね」

 とテラが言った。「私達が知らない未来の地球を知っているんですね」

 と続けた。


 俺は2018年以降の世界情勢について話をしてやり、2023年から2026年まで続いた第三次世界大戦の事も話した。


 二人は「まさかぁ! 冗談でしょ?」と笑いながら言って、世界大戦が起こった事実をなかなか信じられない様だったが、俺が詳細な話をしていくうちに、だんだんと顔色が変わってゆき、いつしか真面目な顔で話を聞いていた。


「驚きました・・・、まさかそんな恐ろしい事を体験してきた人だったなんて・・・」

 とガイアは少し俯いた。


 しかしテラは俺の顔を見て少し明るい表情になっており、

「だから沢山物知りだし、パスタも作れるし、色々できるのね」

 と納得した様に言い「ねえガイア」

 とガイアの顔を見た。


「私達、ショーエンさんと一緒に行動した方が良くない?」

 とテラは真面目な顔で言った。ガイアはしばらく考え込んでいたが、


「僕達がこの星で出来た事は、クレアで学んだ石油精製だけです。あのランタンもイスラ王国の工房で作ってもらったものだし、何とかこの星でも生きていける様に頑張ってはいたんです」

 と言って両手を肩の高さまで上げると、「でも、今日のショーエンさんが商会で見せた商材には驚きました。これはとても敵わないってね」

 と言って苦笑した。


 そしてガイアは姿勢を正して俺の方を向いた。


「ショーエンさん、その旅に僕達を同行させて貰えませんか?」

 と言ったのだった。


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「ただいま」

 と俺は宿屋の部屋の扉を開けて中に入った。


 ティアとシーナが「おかえり!」と言って飛びついてくる。


「無事で良かったのです」

 とシーナが俺の左腕に顔をぐりぐりと押し付けている。


 ティアも俺の右腕に絡みついて

「デバイスで事情を聞いて驚いたわ」

 と言って俺の顔を見て「まさかあの二人を仲間にしちゃうなんてね」

 と言った。


 そうなのだ。


 俺はデバイスでみんなに「ガイアとテラを仲間にする事にした」と伝えておいたのだ。


「ああ、あいつらは、イスラ王国にも詳しいし、アルコールと灯油の精製が出来るらしいから、俺が作れる物の幅も広がるしな」

 と俺は言ってベッドの縁に座り、


「それにあいつら兄妹は、話してみれば悪い奴らでは無かったよ」

 と言った。


「あの男、ガイアって名乗ってたよね」

 とティアが言う。


「ああ、なんて偶然だろうとは思うが、あいつらもガイア星を目指してるみたいでな。ガイアの食事について詳しいのもそういう事だったみたいだ」

 と俺が言うと、商会でガイアが「スパゲッティ」と言っていた事についてティアとシーナも納得した様だった。


「さて、商会にも話は通したし、例のお貴族様との約束も果たさねばならんだろうな」

 と俺が言うと、ティアが

「魔王退治ってショーエンが言ってたやつね?」

 と言った。


「ああ、そうだ。 レプト星から来た罪人達が作り上げた国とやらがどんな国かは分からんが、この国を豊かにする準備が整ったら、次は東の大陸とやらの様子を見に行きたい」

 と俺はティアとシーナの顔を交互に見ながら言った。


「何か、他に武器を作る必要はある?」

 とティアが訊いた。


「そうだなぁ・・・」

 と俺は腕を組んでしばらく考えた。


 ファンタジーの様な世界で「魔王退治」なんて言ってると、まるで剣と魔法で戦う様なイメージしか湧かないが、魔王の正体はレプト星から来たハイテク満載の罪人で、強欲で傲慢であるならば、兵器の一つや二つは作っていてもおかしくない。


 訪れた商人に「魔境」と呼ばせるような国家の状況を想像するに、おそらく現地人には想像も出来ない兵器があって、それが「恐ろしい魔法」に見えているという事ではないだろうか。


 ならば、こちらもそれに対抗できる兵器があった方がいいかも知れない。


「ティア、シーナ。武器を作る必要はあるだろうが、どんな武器を作るかは、敵情を偵察をしてからの方がいいと思うんだが、二人はどう思う?」

 と俺は質問で返した。


「その方が、何を作れば良いかが分かるのです」

 とシーナは言い、ティアも頷いた。


「よし、ならばエギル伯爵の処へ行って、偵察隊を組織してもらおう。そして、偵察隊は、俺達3人で指揮をすればいいだろう」

 と俺は言って立ち上がった。


「さあ、今日も神殿に貴族達が集まって来る。それまでに昼食を済ませておこう」

 と俺が言うと、ティア達も「はい!」と言って立ち上がったのだった。


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「本日も、メチル王国を支える貴族の皆様が集いし事に感謝を申し上げます」

 

 いつもの神殿の中の光景だ。


「おお! 龍神クラオ様の御心が今日も安らかなる事に感謝を!」

 と神官が言うのに続き、貴族達も声を合わせて

「龍神クラオ様の心が今日も安らかなる事に感謝を!」

 といつもの通りに言った。


 神官はこちらを振り返り、

「本日は、これまでで最高に喜ばしい話がありますぞ!」

 と言った。


 そして神官は

「龍神の御使いが、東の魔境を統べる魔王の首を討ち取って下さるとのお告げがあったのです!」

 と言って、両手を広げた。


 すると貴族達に「おおおー-!!」といつもより大きな騒めきが起こった。


「その御使い様は、既にこの街に入られたとの話も聞こえております。天よりバティカの神殿に降り立ち、伝説の通り、空を飛んで来たのだという街の者もおりました」


 と言って両手を天に向けて突き上げ

「我々の声が! 祈りが! 想いが! 龍神様に届いたのです!」

 と言って、神官はむせび泣き出した。


 おいおい・・・

 あれって俺達の事だよな。


 エギル伯爵から伝わった話なのだろうが、ちょっと話が大袈裟になってやしないか?

 それにあの神官の演技みたいに大袈裟な身振り。

 まるで演劇を見せられてる気分だぜ。


「そして御使い様は、近いうちにこちらの神殿にも姿を現し、皆様にも御使い様の姿を拝顔頂く事となるでしょう!」

 と神官は涙ながらに語り、いつもの様にお辞儀をして

「では、皆様の心ばかりのご寄付を・・・」

 と言って賽銭箱の横に控えた。


 貴族達が立ち上がり、1列になって賽銭箱に金貨を入れてそのまま出口へと向かっていく。


 俺とティアとシーナも列の最後尾に並び、今日は金貨2枚を入れて神殿を出た。


 すると、人混みの中からエギル伯爵がやってきて

「ショーエン様! 本日も神殿にお越しになっていたとは!」

 と言って頭を下げた。


「エギル伯爵、今日の神官の話を聞くに、随分と情報が早いと思って驚いたぞ」

 と俺は、商人ではなく御使いとして接する事にした。


「勿論でございます。希望に溢れたお話は、出来るだけ早く皆に伝えなければなりません。でなければ、他の貴族がショーエン様に近寄って甘言で惑わすなどの危険も御座いますからな」

 と、もっともらしい事は言っているが、要は「嬉しくて我慢できませんでした」って事だろう。


 子供か、こいつは。


 別にもう、広まっちゃったんなら仕方ないけどな。


「まあ、ここで会えたのは丁度良かった。エギル伯爵に頼みたい事があってな」

 と俺が言うと、

「何なりと」

 とエギル伯爵が返す。


「今朝、商会に行っていくつかの商材をこの街で広めてもらう契約を行ってきたんだ。そのサポートを伯爵に頼みたい」

 と俺は言った。


「サポートと言いますと?」

 とエギルは首を傾げる。


「細かい事はサルバ商会長に訊いてくれ。 殆どが世界中に広める商材で、当然バティカにも売り込むから、貴族の連携は必要だ。土地の管理を貴族がしてるんだから、工房の拡充をするのも貴族の協力があった方がはかどる」

 と俺は説明した。


「なるほど、承知しました」

 とエギル伯爵は言って、頭を下げた。


「あ、そうだ」

 と俺はひらめいた事があって声を出した。


「せっかくだから、明日は神殿で、俺達が皆に姿を見せてやるとしよう」

 と俺は言った。


 すると、エギル伯爵はみるみる顔を輝かせ、

「それは素晴らしい! ならば今から神官長に私から話を通しておきますぞ!」

 と言った。


 俺は「いいだろう」と頷き、

「では、明日は俺達は9人で現れる事にする。神官長にはそう伝えておくがいい」

 と言った。


「承知しました!」

 とエギル伯爵は、そのまま神殿の中へと戻っていくのだった。


 ほんと、ここの貴族は勤勉だね。


 クラオ団長が言う様な、強欲や傲慢な態度は見られないし、野蛮な遺伝子だなどと、この街に来てから思った事は一度も無い。


 しかし、東の大陸にあるという魔境とやらにはそういう連中がゴロゴロしているかも知れない。


 もしそいつらがその元凶なら、俺が叩き潰すまでだ。


「よし、俺達は宿に帰ろうか」

 と俺はティア達と共に宿屋に帰ったのだった。


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 俺はガイア達にも事の事情を話しておき、明日の神殿で壇上に立つ事の承諾を得た。


 メルスやイクス達には、ティアとシーナが事情を説明してくれ、皆が一様に賛同してくれた。


 特にミリカは

「ならばバティカで作った特製の衣装で壇上に上がりましょう!」

 と、例の特別な衣装をみんなに着る様に言い、「ガイアさんとテラさんの分を今から作りますね!」

 と言うので、ガイア達のおおまかな体形の情報をデバイスで送信しておいた。


 ティアとシーナは何やら武器を作るんだとかで、発電機を持ってメルス達に何かを依頼しに行った。


「ふうっ」

 と俺は息を吐いてベッドに寝転がった。


 これでこの街の商業や流通は、あとは商会と貴族に任せておけばいいだろう。

 メルスやライドにしか作れない物はあるが、街の工房には材料の作り方は伝授したらしいので、技術者を育成してやればあとはこの街も発展していくだろう。


 最もバティカと近い位置にあるメチル王国を中心に、イスラ王国、ノシア王国、オスラ王国とももっと交易出来るようになれば、いずれバティカとの交易も盛んになるだろう。


 そうなれば、貴族達の「遺伝子争奪戦」など必要が無くなるし、この大陸全土にその豊かな経済が巡ってゆく事になるだろう。


 豊かな経済は人々の心も豊かにしていくものだ。

 やりがいのある仕事は、その人の自尊心を高めるものだ。

 そうして社会の歯車が回りだし、やがてこの世界は、皆が満足できる一生を送れる様になってゆくのだろう。


 しかし、今ある懸念が「東の大陸の魔王」の存在だ。


 それも自ら「レプト」と名乗っているというのだから、レプト星からの脱走者だと名乗っている様なものだ。


 しかも、それの意味が解るのは、俺達の様な移住者だけだ。


 つまり、誘っているのだろう。


 プレデス星で純粋培養された人間を。


 技術力が高く、しかしコミュ力が低い「従順なカモ」を。


「ハハッ、そうはいくかっての」

 と俺は声に出して言い、


「魔王とやらが何を企んでいるのかは知らねーが、俺はそう簡単にやられねーぞ」

 と独り言を言った。


 俺達がこの星の秩序を正し、そして俺は、地球に行ってこれまで感じていた謎を全て解いてやるんだ。


 そして地球で起こっていた事を知り、地球で今も生きているだろう人間達を救いたい。


 そうだ。


 この旅は、そういう旅なんだ。


 俺はそんな事を考えながら、いつしか眠っていたのだった。


 -----------------


 翌朝、目が覚めるとベッドにはティアとシーナがパジャマ姿で眠っていた。


 俺もいつの間にかパジャマ姿になってるあたり、ティア達が着替えさせてくれたのかも知れない。


 なんだ、全然気付かなかったな。


 ティア達はまだ眠っているので、俺はガイア達にデバイスで「昼食をこちらの宿屋で一緒に取ろう」と送っておいた。


 ほどなくしてガイア達から「了解」と返信があった。


 俺は服を脱いで風呂に入る事にした。


 昨日はいつの間にか眠っていたから、風呂に入れてなくて、少し身体が汗ばんでいたしな。


 俺が風呂から出ると、ティア達が目覚めたところで


「おはよう、ショーエン」

 と言ってティアが俺を見ている。


「ああ、おはよう、ティア」

 と俺は返し、シーナにも「おはよう、シーナ」

 と言った。


「おはようなのです」

 とまだ眠そうにしながらシーナは起き上がり、


「昨日は頑張ってショーエンの武器を作ったのです」

 と言った。


「おお、何を作ってくれたんだ?」

 と俺が訊くと、


「これなのです」

 と言ってキャリートレーに乗っていた1メートル位の長さの筒を持ち上げた。


「それは?」

 と俺が訊くと


「特別なレールガンを作ったのです」

 と言った。


 ティアとシーナの説明によると、これまでのレールガンの様に磁力で弾丸を飛ばすのではなく、レーザー光を飛ばして対象物を焼き切る能力を持つ武器だそうで、


「ビームライフルかよ」

 と俺がつい言ってしまうような代物だった。


 使い方はデバイスで操作するタイプのもので、レールガンと変わりは無い。

 エネルギーは電力だが、ティアが作った発電機が近くにあれば、非接触でも充電が出来て、無限にビームが打てるらしい。


 すげーな。


 まるでロボットアニメの世界に出てきそうな武器だ。


 これをこの世界の人間が見たら、「神の杖」やら「神の光」やら、また勝手に名付けるんだろうな。


「いい武器だな! さすがティアとシーナだ。 お前達は最高の妻だぞ!」

 と俺は二人に賛辞を送り、ティアとシーナにハグをした。


 二人はそれですっかり目覚めた様で、

「良かった! じゃあ今日は昼から神殿に行かなきゃだし、早目に昼食にしようね!」

 とティアは立ち上がってテキパキと着替えを始めた。


「ああ、ガイア達も昼食に呼んだから、あいつらと合流しよう」

 と俺が言うと、こちらも着替えを済ませたシーナが、

「なので、ショーエンも早く服を着るのです」

 と言って、まだ全裸の俺を見てそう言ったのだった。


 -----------------


「皆様! こちらに居られる皆様が龍神の御使いの皆様ですぞ!」

 と神官が俺達を壇上に立たせてそう言った。


「おおおー!!!!」

 と貴族達から盛大な拍手が起こる。


 俺達はミリカが作った特製衣装を身にまとい、ガイア達と合流してから昼食をとり、貴族達が集まる前に神殿に入った。


 神殿には既にエギル伯爵が到着していて、神官達と色々打合せをして、既に段取りは済ませていた様だった。


 そして貴族達が集まりだして、いつもの演説が始まったかと思うと、俺達は壇上に誘導されて現在に至るという訳だ。


「今回、東の大陸を魔境にせしめた魔王の首を取るべく、龍神クラオ様が遣わして下さった御使いの方々です!」

 と神官は言い、神官が何か言う度に貴族達が湧く。


「御使い様方の主人がこの方、ショーエン・ヨシュア様でございます!」

 と俺を紹介すると、また貴族達が湧く。


「そして、ショーエン様の従者の皆様です!」

 と言ってティア達を並ばせ、

「ティア・ヨシュア様、シーナ・ヨシュア様、メルス・ディエン様、ライド・エアリス様、イクス・イエティ様、ミリカ・イエティ様」

 とそこで一旦置いて、


「皆様が既にご存じのランタンを創造された、商人の姿で我々に接して下さった方も御使い様でございました」

 と言って一呼吸置き、

「ガイア・サザリー様、テラ・サザリー様でございます!」

 と言った。


「御使い様方は、この街とこの国の発展に寄与すべく、商会長を通じて様々な技術をご提供くださいました。誠に、感謝の念に堪えません」

 と神官は続けた。


「よってここに、ショーエン様を、魔王の首を討ち取る龍神の伝説になぞらえ、伝説の勇者様と呼んで皆で称えようではありませぬか!」

 と神官が言うと、これまでで一番の歓声と拍手が沸き起こった。


 おいおい、伝説の勇者って・・・


 これじゃまるで、本当にファンタジー漫画の世界になったみたいじゃねーか。


「ゆ・う・しゃ! ゆ・う・しゃ!」

 と勇者コールが起きている。

 神官は俺に「何かコメントしてほしい」といった顔で俺に目配せをしている。


 はあ・・・、仕方がねーか。


 と俺は壇上に上がって右手を上げ、皆の恥ずかしい勇者コールを制した。


 途端に皆は静まり返り、シーンという音が聞こえて来る様だった。


 俺は貴族達を見回し、口を開いた。


「皆の者! 龍神は皆の平和と安寧を願い、自らの力で発展する事を望んでおられる」

 と俺は前置きし、


「しかし! 東に巣食う魔王とやらが、龍神の望まぬ事をしているというではないか?」

 と俺は両手を上げた。


「そして竜神クラオは我々を地上に送り、この星を正せと仰せになった」

 と俺は両手を拳に変え、


「ならば正そう。それが龍神の願いならば!」

 と俺は締めくくり、両手を天井に向けて突き上げ、皆の顔を見た。


 すると、一瞬の静寂があったかと思うと、神殿の中に割れんばかりの歓声が沸き起こり、再び場内から勇者コールが始まった。


 俺はそんな貴族達の姿を見ながら、


「ほんと、みんなピュアだねぇ・・・」


 と小声で呟いていたのだった。

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