テキル星(9)バティカを旅立つ日
戻る途中、他のメンバーは皆、いつもと様子が違っていた。
みんな一様に、さっきの出来事をどう受け止めればいいのか、うまく処理出来ないでいるのだろう。
解っていた事ではあるが、目の前で人が死んだ事で、みんなショックを受けている。
しかも、そのうちの一人は俺が直接手を下したもので、みんなが俺を見る目に変化があるのは致し方無いよな。
俺だって、前世も含めて人を殺したのなんて、生まれて初めての事だった。
俺だっていまだに手が震えるのを、何とか抑え込んでるんだ。
だけど、死んで行く人間を見たのは初めてでは無かった。
第三次世界大戦の時に、沢山見たからだ。
それに比べてこいつらは、これまで食べた肉や魚の事さえ「命を頂いている」などとは考えた事も無い程に、生き物の生死から遠いところに居た訳だ。
もちろん、事前にこうなる可能性がある事は話していたが、いざ目の前にすると、やはり簡単には受け止められないに違いない。
俺が前世の戦争で両親を亡くした時も、それは突然俺の前に現れ、やはり動揺したもんだ。
あの戦争では、日本も数々の攻撃を受けた。
沖縄の基地、佐世保の港、岩国の空港と弾薬庫・・・
西日本から順に東側の大国の爆撃を受けた。
日本に基地を置く西側の大国は、日本の基地や空港が被害を受けているにも関わらず、反撃をしようとする日本の自衛隊には、軍事指揮権を譲ろうとはしなかった。
しかも、彼らの作戦の優先順位は、自国民を母国に避難させる事であり、決して日本国土を守る事では無かった。
政府がいつも声高に叫んでいた「強固な同盟関係」など、最初から存在していなかったのだ。
そうして東側の大国による攻撃は続き、ついに神奈川県にまで爆撃が及び、俺の実家があった
俺の幼馴染も沢山死んだ。
都内に引っ越してた奴らは生き残ったけど、みんな実家を失ってた。
俺の実家も消し飛んでいた。
後日、行政が準備した遺族による遺体確認の際に、俺は数々のバラバラになった死体を見る事になった。
死体袋のジッパーを開ける度に臭う「死臭」。
まるでゾンビ映画から抜け出てきたかの様な「破壊された肉体」。
見ているうちに吐き気がした。
でも、自分の中で不思議な変化もあった。
次から次へと様々な死体を見ているうちに、感情が徐々にその環境に順応していくのを感じたのだ。
そうだ、人間の死体なんて、動物の死体と何ら変わりはしない。
そんな風にさえ感じ始めていたのだ。
さっきまでの俺は、見慣れた姿が「見たことの無い姿」に変貌しているのを見て、知覚と感情の
心が頭とシンクロすれば、「ああ、そういう事か」と、心が身体に付いてくる。
それまでも苦しい人生を歩まされ、自分より若い者が先に社会で活躍していく姿を横目で追いながら、自分より若い雇い主にバカにされたり怒鳴られるなどの辛酸を舐めて、それでも何とか生きてきた。
生まれた年代が違うだけで、なぜそんな違いが生まれたのか。
自分の命など、消えて無くなってもいいんじゃないのか?
そんな事を何度も思った。
いつまで経っても変わらない社会構造に絶望に近い感情を抱き、「いつ死んでもいいや」と、本気でそう思っていた。
自分の命でさえそんな扱いだ。
他人の命なんて、どれほどの価値がある?
だから両親の死体を見た時にはこう思ったもんだ。
「ああ、自分の思う様に生きられて良かったな。死に方は無様だけど、満足したろ?」
ってな。
心が麻痺していたのかも知れない。
悲しくも無かったし、可哀そうだとも思わなかった。
俺の心は、既にそういう風になっていた。
だけど・・・!
と心の中の隅に追いやられた、俺の「自尊心」が叫んでいた。
「人間として生きてから死にたいんだ!」
と俺の心の中にできた、どうしようも無くぶ厚い壁を何とか壊そうとするように、その消えて無くなりそうな俺の自尊心が、深い水底から何とか水面に出て必死で息をしようとする様に・・・
俺はずっと叫び続けていたんだ。
あの絶望的な世界に生きながら、必死に生きてもホームレスでしか無かった人生であっても、それでも「人間らしくありたい!」と心が叫び続けていたんだ。
そして俺は前世を去り、この世界に来て、この世で一番大切なものを手に入れた。
俺を俺として認めてくれる仲間たちだ。一番欲しかったモノでもある。
前世も含めた俺の人生で、こいつら程に俺の夢や目標を全力で肯定してくれた人間など居ない。
仲間が俺に「こうあって欲しい」と願う心が今の俺を形作ってゆき、そしていつしか俺はこいつらにとっての「指導者」となり、みんなの「価値軸」になったんだ。
そうか、ならば俺がこんな暗く沈んでる訳にはいかないよな?
俺が「まるで悪い事をしたかも知れない」なんて疑念を抱かせちゃいけないよな?
よし、ならば笑ってやろう。
さっきの事は、「ものすごく正しい事が出来たぞ」と誇ってやろう。
それがまるで、「俺が望んでいた通りの結果」であったかの様に。
俺は歩きながら、肩を震わせて笑い出した。
「ふふふ・・・」
と最初は小さな声で、
「はははは・・・」
と徐々に大きく、
「ハハハハハッ!」
と俺は声に出して笑い、みんなの方を振り向いた。
みんなは「ショーエンがおかしくなった?」とでも言いたげに驚いた表情をしている。
「みんな! よくやったな!」
と俺は精一杯の作り笑顔でみんなの顔を見渡し、
「これでこの国は、平和な良い国になるぞ!」
と腹の底から力を込めて、そう言った。
みんなはまだそれが理解できないといった顔をしているが、
「ティア」
と俺はティアを見た。ティアはビクっとして俺を見る。
「お前が作ってくれたレールガン。とても良い出来だった」
と言いながら「おかげで多くの命を守れたぞ」
とティアにハグをして、背中をトントンと軽く叩いてやった。
ティアの身体は少し強張っていたが、「うん・・・」と小さく頷き、
「ありがとう、ショーエン」
と言うティアの目に、少し涙が込み上げていた。
「そしてみんな。初めての事で驚いただろうが、今回は、みんなが取り乱さなかったおかげで、被害を最小限に抑える事が出来た」
と俺は言い、「感謝する!」
と言って頭を下げた。
それを見たライドが
「や、やめて下さいショーエンさん!」
と俺の肩を手で押しながら
「全てをショーエンさんにやってもらってただけの僕たちに、ショーエンさんがそんな事をするなんて、変ですよ!」
と言って目に涙を溜めながら、「僕たちの方こそ、ショーエンさんに任せっきりで・・・、こんな・・・重い仕事を・・・」
とそこまで言って、ライドは
「ショーエン・・・」
とシーナはボロボロと止めどない涙を流しながら、俺の胸に顔を押し付ける様に抱き着いて、「ショーエエエエン」
と俺の名前を呼びながら、シーナの涙が俺の胸を濡らしていた。
「心配させたな」
と言いながら俺はシーナの背中をさすってやり、自分も目頭が熱くなりそうなのを我慢していた。
イクス達も俯いてはいたが、その目には何かの覚悟が宿っている様に見えた。
ミリカも同じで、もう暗い顔などしていない。
メルスは長く息を吐いて、両手でパチンと自分の頬を叩き、
「さあ、早く部屋に戻りましょう。これからの事を決めないといけないですしね」
と努めて元気な声でそう言った。
「ああ、そうしよう」
と俺は、シーナを左腕で抱き留めながら、ティアを右手で誘い、左手を差し出したティアのその手を握った。
「よし、戻ろう」
と俺が言うと、みんなが俺に付いて来て、同伴していたメイド長もそれを察した様に、全員を俺の部屋へと案内した。
俺達が部屋に入ると、メイド長が後ろ手に扉を掴んだまま、
「御使い様方、この度は、怪しげな魔術師より国王をお救い頂き、心より感謝申し上げます」
と言って、深々と頭を下げた。
「話を聞かせてくれるか?」
と俺はメイド長を見て言うと、メイド長は視線を床に落としたまま
「はい」
と短く答えた。
メイド長の話によると、今回の事は、貴族や騎士にとっては
ただ、その罰がどれほどの罰なのかは想像もできず、しかも奴隷を買った貴族や騎士があれほど沢山いた事も想定外だった国王は、「もう国を滅ぼされても仕方がない」と絶望を抱いていたんだそうな。
国王め、俺の視界の外で、そんな悲壮感を漂わせていたのか。
こちらを向いていた貴族達からは丸見えじゃねーか。
どうりで騎士達がなかなか列に並ばなかった訳だぜ。
しかし、全員が何等かの罰を受けるものと思っていたにも関わらず、俺は一人だけをその対象にした。しかも、問題を「嘘をつこうとしたから」という理由にすり替えてまで。
それは俺達「龍神の使い」の慈悲であり、他の全ての者に更生の機会を与えたのだと、あの場に居た全ての者がそう感じ取ったんだそうな。
そして最後に俺が、「魔術師の首を
メイドの話はここで終わり、
「本当にありがとうございました」
と再度深々と頭を下げて、「後ほど、最高のお茶をお持ちさせて頂きます」
と言って部屋を出て、扉をそっと閉めた。
俺は目を
マジか。
俺、そこまで考えてやってた訳じゃないんだけど。
ちなみに、ジューンを森に捨てた騎士を生かしておいたのは、後でジューンの資源採掘に利用してやろうという魂胆であって、それが出来るなら誰でも良かった。
資源採掘の仕事は大変だろうから、今後ジューンには絶対に逆らえないあの騎士をコキ使った方が、色々便利だろうと思ったのは否定できないが。
ただ、魔術師は「内患誘致罪」の他に「デバイスを製造でき、王城の秘密兵器の存在を知っている」というところも俺達にとっての不安要素だったので、どういう理由であれ、処刑させようとは思っていたけどね。
「まさか、そこまで考えてこんな計画を立てていたなんて・・・」
とジューンが俺を見て言った。
「私もショーエンがそこまで考えていたなんて気付かなかったわ」
とティアも言い、「さっきは少し、ショーエンの事を怖いと思っちゃったけど、ごめんなさい。まだまだ妻として未熟だったわ」
とティアは俺の傍まで来て、
「これからは、ショーエンの全てを信じる事にするわ。だから、もっとショーエンの事を知りたい・・・」
と言いながら俺の右腕に絡みつく。
それを見たシーナも俺の左腕に絡みつき
「私はショーエンの為なら何でもするのです」
と言って、いつものように俺の腕に顔を埋めたのだった。
ま、メイドが言ってた事は、半分は偶然都合のいい方に解釈されたってだけの話ではあるが、自称魔術師を処刑する為に街のプレデス星人に「報酬を払うから、赤い旗を持って王城の正門前に集まって大声を出しながら旗を振れ」ってメッセージを送ったのは事実だからな。
「あ、そうそう。集まってくれたプレデス星の奴らに報酬を支払ってやらなきゃいけないんだった」
と俺は顔を上げて言い、「国王に金をせびってやらなきゃな」
と言って立ち上がった。
「ティア、シーナ。付いて来てくれるか?」
と俺が訊くと
「もちろん!」
と言って立ち上がった。
俺はみんなに各自の部屋に戻る様に言い、ティアとシーナ、ジューンも連れて国王に会いに行く事にしたのだった。
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国王とは、王城のエントランスの隣にある応接室で会う事になった。
俺達が応接室のテーブルに着いて待っていると、程なく国王が汗をかきながらやって来た。
「お待たせして申し訳ございません。御使い様方」
と、肩で息をしながら席に着く国王は、先ほどまでの悲壮感など微塵も感じられなかった。
なんとも切換えの早いこった。
「国王よ、今もまだ王城の正門前には大勢の街の民が居るが、赤い旗を持った奴ら、あれは皆、龍神の
と俺は国王が席に着くや否やそう言った。
「何と! それは存じ上げませんでした!」
と言って国王は額の汗を拭っている。
「貴様も今日、その目で見ただろう? 貴族や騎士達に捨てられ、又は街に放された者達だ。何等かの対応をせんと、彼らの声が龍神に届けば、俺の力でも龍神の怒りを止められんかも知れんぞ」
と俺が言うと、国王はさらに吹き出る額の汗を拭いながら
「ど、どの様に対応するのが宜しいものか・・・」
と頭の中で色々言い訳を考えているのだろう、視線が泳いでいる。
俺は「ハハハッ」と笑って見せ、
「な~に、簡単な事だ。 彼らに十分な慰謝料を支払えばいい」
と俺は言った。
国王は、
「何と、
と言うので
「ああ、その通りだ」
と俺は言った。
「して、いかほどの
と国王は既にその気の様だ。
「そうだな、3か月ほど満足に暮らせるだけの金子を彼ら全員に配るだけでいい」
と俺が言うと、国王は「ふう」と息を吐いて
「承知致しました。すぐに用立て致します」
と言って、傍に控えていたメイドに
「すぐにローエン卿に伝えよ」
と言ってメイドを伝令に向かわせた。
「ローエン卿とは?」
と俺が訊くと、
「今日の謁見の時に、奴隷を買わなかった貴族の内の一人で御座います」
と国王が言った。
ほう、この国の財務管理を行っている貴族は、なかなか見どころのある奴みたいじゃないか。
「奴隷を買わなかった貴族は4人いたと思うが、他の3人はどのような者達だ?」
と俺が訊くと、国王は
「財務大臣のローエン卿の他には、内務大臣のグラム卿、軍務大臣のガストン卿、農政大臣のファーム卿で御座います」
と答えた。
「なるほど。大臣たちは良い仕事をしている様じゃないか。良い人事を行ったな、国王よ」
と俺が褒めてやると、
「有難きお言葉に御座います」
と頭を下げた。
でもな、良いプレイヤーが、良いマネジャーになるとは限らないんだよな。
前世でも、派遣で務めた会社の上司は、企画力もあって仕事はすごくできる人なんだけど、部下の使い方が下手で、何でも自分でしょい込む男だったんだよな。
結局、部下の事を育てられずに、部署の成績が大きく成長する事は無く、「万年課長」のコースを突き進むタイプだったよな。
ま、俺は半年後には派遣切りに遭ってクビになったから、その後の事は知らんけどな。
「国王よ、良い仕事をする人間が良い指揮官になるとは限らんぞ」
と俺はそんな過去の事を思い出しながら言い、
「部下には責任を負わせろ。今は仕事が出来ない者にも、期待をして教育の為に時間を投資しろ。今ある能力の少し上のランクの仕事を
と、まるで、どこかの会社の「人事教育マニュアル」みたいな事を話してやった。
「おお・・・」
と国王は驚いた様に俺を見て、「御使い様は、国を治める事にも通じておられるのですな」
と言いながら、自分のデバイスに今の話を記録している様だ。
その時、応接室の扉がノックされ、
「ローエン卿がいらっしゃいました」
というメイドの声が聞こえた。
「入るが良い」
と国王が言うと、部屋の扉が開かれ、財務大臣のローエン卿が姿を現した。
ローエン卿は、お辞儀をする様な姿勢で入口に佇んでいて、部屋に入ろうとはしなかった。
「どうした? ローエン卿」
と国王が言うと、
「恐れながら・・・」
とローエン卿が口を開いた。
「こちらのお部屋の
なるほどな。
随分と融通の利かないお堅い男ではあるが、筋の通ったいい奴じゃねーか。
「よかろう、部屋に入るがいい」
と俺はローエン卿に言った。
「ハッ!」
と一礼して顔を上げ、部屋に入ると直立のまま俺の方を見ていた。
「ローエン卿。お前が正しき貴族である事は、今日の謁見の際によく分かった」
と俺が言うと、
「
と、何だか時代劇の中にでも迷い込んだ気分にさせられる言い回しだ。
「よって、お前には名誉ある仕事を与えよう」
と俺は言い、
「正門前に集まった赤い旗を持った者達は、実は全員が龍神の下僕だ。今回は、俺の呼びかけに応じてここまで来てくれている。なので、彼らへの恩賞として、3か月間の生活を保障するだけの金子を配ってやって欲しい」
と、要望を伝えた。
ローエン卿は、
「喜んで!」
と、どこかの居酒屋の様な返事をしたかと思うと、
「直ちに
と言って、
言われた通りに窓の外を見ていると、ローエン卿がメイド達に金貨や銀貨を小袋に詰めさせている様だ。
そしてその小袋を、赤い旗を持ったプレデス星人達に何かを話しながら手渡している。
小袋を受け取った人々は、それぞれ散り散りに去って行ったが、俺のデバイスに「ありがとう御座います!」「これで生きていけます!」等の感謝の言葉が次々と寄せられていた。
俺は国王の前で何度も頷き、
「これで龍神の怒りも収まった事だろう」
と言った。
国王はほっとした様に席に着き、
「此度は御使い様には大変にお世話になりました。このお礼をどの様にお返しすれば良いものか・・・」
と言いながら俺達の方を伺っている。
俺は国王を見返し、
「国王よ、俺達に礼をしたいならば、俺から2つの要望を伝えるので、それを叶えるがいい」
と言った。
国王は
「仰せのままに。何なりとご用命くだされ」
と言って頭を下げた。
俺は二つの要望を伝えた。
一つ目は、ジューンの事だ。
ジューンの話だと、この星の地下には膨大なエネルギー資源が眠っているらしい。
それは、石油や天然ガス、鉱石に至るまで、種類は様々だそうな。
で、俺はジューンに資源の採掘と精製をするように勧めた。
昨日の工房で売っていたコンロ用のボンベも無くなってしまえば色々問題になるだろう。
そこで、コンロの製造技術を、製造権と販売権ごと工房に譲渡する。
工房長はタダでノウハウが手に入るんだから断る理由は無いだろう。
ただし、ボンベの採掘と精製及び販売権をジューンが持つ事で、コンロ購入した街の住民が、今後ジューンが販売するボンベを継続して購入する様になる仕組みを作る事になる。
その商流をジューンが主導で行い、その為に必要な建物と人材を王城が供出する事。つまりは、国営のガス会社の責任者に据えるといった感じだな。
これが一つ目の要望だ。
そして二つ目は、俺達への旅の資金提供だ。
俺達は今後、バティカの国を出て12の国を巡らなければならない。
それはバティカ王国の平和を脅かす不安要素を消す為でもあり、龍神の
なので、半年間は食っていけるだけの資金が必要で、それを王城に供出させようというものだった。
「その見返りとして、ミリカが作った衣服をお前たちに授けるものとする」
と俺は言った。
ミリカが俺達に見せてくれた、様々なサンプル衣装だ。
今のところ、メイドの服とセーラー服。あとは王子の服と姫の服があったはずだ。
更に国王と王妃の分が揃えば充分だろう。
これは後でミリカに依頼しておく必要があるな。
国王はそれを聞いて
「御使い様が手ずから創造された衣装を頂戴できる事は、これぞ
と言って頭を下げた。
「よし、それではジューンは今日からこの王城に住むがいい。国王よ。部屋を用意せよ」
と俺が言うと、
「承知致しました」
と言ってメイドに指示をした。
「大儀であったな国王よ」
と俺は言って立ち上がり、
「俺達がここで世話になるのも、あと数日だ。それまで、よろしく頼むぞ」
と国王に向かって言い、「ティア、シーナ。俺達は部屋に戻ろう」
と言ってティア達の手を引いた。
「ジューン、後はお前の人生だ。次に会う時には、この国が繁栄している事を信じているぞ」
と俺が言うと、
「ショーエン、色々と有難うございました。次に会う時までに、この国を資源大国にして見せます」
とまっすぐに俺の目を見て応えたのだった。
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それから3日後、俺達はとうとう旅の準備を終えた。
ジューンは王城の2階に部屋をもらい、工房区画にも倉庫や工場になる建物を支給してもらった。
王城の呼びかけで採掘作業員は200名ほど集まり、この3日間で仕事の準備は整った様だった。中にはデバイスを装備した移住者メンバーも混じっている様で、彼らを作業班の班長にして情報を共有すれば、少しは効率も良くなるだろう。
ミリカには国王と王妃の特別な衣装制作を依頼していて、その衣装が今日出来上がったらしい。
俺達が出発する前には国王に贈呈してやらないとな。
イクスは王城の料理の研究は概ね済ませた様で、俺の知らない間に随分とレシピを溜め込んでいるらしい。小耳に挟んだ話だと、牛乳を加工した食材として、バターとチーズが出来ているというのだから、これは色々期待できそうだ。
他にも色々な食材を保存食に加工もしているみたいだから、旅の道中の食事も楽しみにできそうだ。
ティアは3日間の内に、レールガンを5本作製してくれた。
これはティアの覚悟の産物で、今後も俺達が神罰を下す時があるという事を、ティアなりに受け止めたという事の表れだ。
更にもう一つ、シーナも武器になるものを作ってくれた。
シーナは今回の事で、俺に戦わせるのは極力避けたいと考える様になったらしい。
「ショーエンが戦うなら、私も戦うのです」
と言って、通信技術を応用した「音波装置」を作った様だ。
これは俺も詳しい技術は分からないのだが、通信に使う「電波」というのは、その名の通り「波」があるらしい。
その「波」の「周波数」というものの速さや大きさのバランスによって、「空間に出来る波の壁」を作れるんだとか。
この「波の壁」というのは目には見えないが、その「壁」には触れる事も出来るそうで、実際に俺の前で実験してくれた。
シーナが機械で発生させたのは電波では無く「音波」のようで、音波空間に触れると、本当に空気中に「見えない壁」があるみたいに、人間を捕縛してその場から動けなくする事も出来る様だ。
そういえば、前世でもエジプト文明の本で、「ピラミッドに積み上げられた石は、どの様に積み上げたのか」の検証で、「音波クレーンの様な技術で軽々持ち上げて運んだ」とか言ってる博士がいたっけな。
当時は「都市伝説」だの何だのとその博士はバカにされていたが、今の俺は「惑星開拓団ならやり兼ねない」と思っているので、存外ピラミッドはプレデス星の技術で作られていたのかも知れないな。
ライドとメルスは、物凄い乗り物を完成させていた。
てっきり装甲車が出来上がると思っていた俺の想像を軽く超えてきた。
なんと、「変形して飛行機にもなる足漕ぎ自動車」を完成させていたのだ。
装甲車だと俺が勘違いしたのは、ボディがゴテゴテと重そうな感じだったからなのだが、実はそれが「翼を折りたたんだ状態」なのだそうで、陸上を走行する時にはそのまま走ればいいけれど、山脈を超える等の時には「飛行機モード」で空を飛べるらしい。
ただ、離陸には助走を必要とするので、広々した場所がないと離着陸が出来ない事と、陸上を走行する時には、自重がそこそこ重いので、「急カーブや緊急停止が出来ない」という欠点もある。
とはいえ成果としては充分だ。
これで旅はうんと楽になるだろう。
「国王よ、世話になったな」
と俺が言うと、国王は
「御使い様方にお住まい頂けただけで、大変名誉な事で御座いました」
と言い、ランドセルくらいの大きさの袋を俺に手渡した。
その袋は、こんな重力でもズシっとする程の重さで、中には金貨や銀貨が入っている様だった。
「うむ。有難く貰っていくぞ」
俺が言うと、ちょうど俺達の元に駆け付けて来たジューンが、
「ショーエン! これも持っていっておくれ!」
と言って、工房で余っていたコンロを一つと、ガスボンベを6本運んできた。
俺はそれらを受け取ってキャリートレーに乗せ、
「ありがとよ」
と言いながら、王城のエントランスを出口に向かって歩き出した。
エントランスホールには、新しいメイド服を着たメイド達が勢揃いしていた。
ざっと70人から80人は居るだろうか。
メイド達は真新しい衣装を着て、相当にテンションが上がっているらしい。
俺達の事を、それこそ神でも見ているかの様な表情で見つめ、俺達の歩調に合わせて頭を下げて次々に
「行ってらっしゃいませ」
と言っている。
そして扉に着くと、2人のメイドが扉を開けた。
扉が開くと2人の騎士が直立して
「どうぞお通り下さい!」
と言って俺達を促す。
騎士達は、前回の謁見での出来事を「御使い様に命を救われた」と考えているらしい。
メイド長の話でもそうだったが、俺があいつらを脅す為に一人見せしめの様に殺したという解釈では無く、「周りの者を救う為に、一人しか殺さなかった」という解釈をしているらしい。
おかしな解釈だとは思うが、ここが「人間の命が安い世界」って事なんだろうな。
だからそんな解釈に至るのだろう。
玄関扉を抜けると、ライド達が予め用意しておいてくれた自動車が止まっている。
俺達はメルスの説明を聞きながらキャリートレーを車両の後部に積み込み、それぞれが座席に座る事になった。
座席の順は、真ん中の運転席にメルス、前席の右側にライド。
そして一番左側にイクスが座り、俺は後部座席に座る事になった。
てっきり俺とティアとシーナが前席だと思っていたが、俺達にはしっかり休んで欲しいという、イクス達の計らいの様だ。
全員が自動車に乗り込むと、イクスは車両の扉を閉めて、
「では皆さま、ご達者で!」
と王城の皆に挨拶をして、ペダルを漕ぎだした。
車はまるで自動車の様な加速で走り出し、恐らく時速40キロは出ていると思われる速度で、南門へと向かったのだった。
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