テキル星(5)3人で夫婦になった日

「ショーエン、今日はシーナを愛してあげてほしい」


 シーナが部屋の扉を開けて部屋に入る瞬間に、ティアのそんな声が聞こえた。


 何事なのですか!?


 と部屋の中を見ると、ティアがショーエンの胸に顔を埋めて抱きついている姿があった。


「あ・・・」

 とシーナの口から短く声が漏れた。

「あの・・・ 何があったのですか?」

 とシーナは訊いてみた。


 また昨夜みたいな事になってたら、せっかく取り戻した私の空元気からげんきが、どこかに消し飛んでしまいそうなのです!


 するとティアがベッドから降りて駆け寄り、私の身体に抱き着いて、

「おかえり!」

 と言って私の頭にティアのほっぺをこすりつけているのです。


「ティア。何かあったのですか?」

 と私はもう一度訊いた。

 するとティアは「いい事があったよ!」と言って私の耳元に顔を寄せて、

「今日のショーエンは、シーナが独り占めにしていいからね」

 と言った。


 本当に何事なのですか!?


「あ、ああ、あの、それはどういう・・・?」

 とティアに言いたかったのか、ショーエンに訊きたかったのか、自分でも分からないけれど、とにかく、今はミッション完了の報告が先なのです。


 ふうっと息を吐いて、

「ショーエン、いつでもデバイスの傍受ぼうじゅができる様にしたのです!」

 と言った。


「おう! よくやってくれた!」

 と言ってショーエンはベッドから降りて、両手を広げながら歩いて来る。


 それは私に「飛び込んで来い!」という合図なのですね?


 当然、飛び込むのです!


 とシーナはショーエンの背中に手を回して、ショーエンの胸に顔を埋めてぐりぐりと顔をこすり付けた。


 そして、抱き着きながらショーエンの顔を見上げ、

「今日は、私がショーエンを独り占めにしてもいいのですか?」

 と訊いた。


 ショーエンはハハっと笑い、ティアの顔を見て頷いた。そしてもう一度私の顔を見て、

「ああ、いいぜ。何がしたい?」

 と言った。


 シーナの頭の中に、広大なお花畑が花開いてゆく。


 何がしたいか?

 答えなんて決まっているのです!


 そして、シーナはキッパリと言った。


「ショーエンとずっと一緒に居たいのです!」


 -------------------


 俺はシーナと腕を組みながら、王城の中を歩き回っていた。


 この国では、一日に2回しか食事をしない文化らしく、朝食をたっぷり食べて、早目の夕食を摂るのが一般的の様だ。


 なので、日中は夕食までの時間がたっぷりあるおかげで、様々な行動が出来る。


 今朝シーナが仕掛けたデバイスの傍受は、今も部屋に置いている中継器に記録を続けている。


 今日の夕食後にでもみんなで情報を共有するつもりだ。


 ティアは俺達の少し後ろをずっと付いて来ている。


 今日は俺にシーナを愛してやってくれというティアの願いもあって、ティアは一日、俺達を傍から見守る事にしたようだ。


 俺達はクレア星を出てから2週間程度しか経過していないという感覚だが、実際には5か月が経過していて、俺達は気付かないうちに16歳になっていた。


 デバイス情報では確かに16歳なのだが、体感としては2週間しか経ってないので、肉体的には15歳と変わらないだろう。


 アインシュタインの特殊相対性理論はどうやら正しい理論の様で、宇宙を光速移動していれば、俺達は浦島太郎の様に、500年後の世界なんかも見れたりするのかも知れない。


 そんな事を考えながら、俺達は王城の裏庭にやって来た。


 メルスとライドが乗り物を作っているはずなので、様子を見に来たという訳だ。


 裏庭に入ると、二人はせっせと何かを組み立てている。


「よお、メルス、ライド」

 と俺が声を掛けると、二人は振り返って俺達を見た。


「こんにちは、ショーエンさんにシーナも。あ、ティアも居たんだね」

 とメルスは後ろから付いてくるティアを見て言った。


「乗り物の製作はどんな具合だ?」

 と俺が訊くと、ライドが

「順調ですよ」

 と言って、俺を王城の壁際に連れて行き、シートをかぶせた四角い立方体の元へと案内してくれた。


 シートをはがすと、そこには金属のフレームを立方体に組んだ空間の中に、4つの車輪が付いた自動車のシャシーの様なものがあった。


「おお、だいぶいい感じだな!」

 と俺が言うとメルスも駆け寄って来て、

「はい! これは画期的な乗り物になると思いますよ!」

 と自信満々の様だ。


 俺が見た感じだと、これは装甲車だ。

 シャシーは自動車の様にも見えるが、さっき2人が作ってた工作物を見ていると、金属を繋ぎ合わせたボディをこの上に被せるつもりのようだから、その姿はおそらく装甲車の様になるだろう。


 俺はメルスに設計図を見せてもらい、内装の確認もしてみた。


 ふむふむ、前面に3人が横並びになり、後部座席が通勤電車みたいに向かい合う様に4人分、そして、さらに後ろには荷物が詰めるラゲッジスペースがあるといった感じの7人乗りだ。 

 車幅は2メートルくらいで長さは5メートル。前世の2tトラックくらいの大きさだ。


 動力は人力で、前席の前に自転車のペダルの様なものを3人分取り付けている。

 3人同時に漕ぐ必要は無く、誰か一人がペダルを漕げば良いという仕組みだ。


 ハンドルは自転車のハンドルに似た形状で、停車させる時には手元のレバーがブレーキになっている様だ。


 やはりメルスとライドの技術力の中でも秀逸なのが、この動力効率の良さだ。

 飛行機の時もそうだったが、軽い力で漕ぐだけで、ものすごい推力を得る事が出来る。飛行機と同じギア比で動力を設計しているようなので、おそらく俺が全力で漕げば、その速度は軽く200キロを超えるだろう。

 まあ、実際には、ボディの重量もあるし、7人分の重量と荷物もあるから、実際の能力は半分くらいで見ておいた方がいいのかも知れないが。


 ただ、乗り心地が少し心配ではある。

 車輪を固定する車軸のサスペンションが、この世界の馬車を参考にしているせいで、ただの板バネになっているのだ。

 ここは、コイル式のバネとオイル式の衝撃減衰を兼ね備えた、ダブルウィッシュボーン式の構造を伝授しておくべきだろう。


「よし、じゃあ乗り心地を良くしたいから、車輪の周辺だけは設計の変更を頼めるか?」

 と俺は言い、「こういう感じにすればいいと思うんだが、作れそうか?」

 と訊いた。


 ライドとメルスは俺がデバイスで送ったイメーシを見て、みるみる顔を輝かせる。


「すごい発想ですね!」

 と二人が同時に言い、

「当然なのです!」

 とシーナが付け足した。


 俺達の後ろでティアも「ふふっ」と笑っている様だ。


「じゃ、あとは任せたぜ!」

 と俺はライド達に声をかけ、次は厨房に立ち寄る事にした。


 厨房の勝手口はこの裏庭から近い。


 30秒も歩かないうちに勝手口の扉が見えて来た。

 扉の前ではイクスが作業台の様なものの上に何かを並べているのが見える。


「よお、イクス!」

 と俺が声を掛けると

「こんにちは、ショーエンさんにシーナも」

 と言って、「あ、ティアも一緒だったんだね」

 と後ろから付いてくるティアにも挨拶をした。


 俺は作業台の上に並べられているものを見て

「おお、これはキノコだな」

 と言いながらそのうちの一つを持ち上げて、香りを嗅いでみた。


 なるほど、形は少し違うが、これはシイタケだ。


「このキノコを干して乾燥させようとしているんだな?」

 と俺が言うと、イクスは

「その通りです!これは、出汁だしにもなるし、水で戻せば、元々よりも美味しくなる事が判っています」

 と言っている。


 そうだ、干しシイタケと酒と醤油があれば、他には適当な食材を煮るだけで筑前煮みたいな料理が出来る。和食メニューの肝になる食材だ。


「ここでの食事は牛乳から抽出した油の比率が高いので、食べ続けるのは健康的ではないと思いました。そこで、味の満足感を損なわない健康食品を考えてみたという事です」

 とイクスはいつになく饒舌じょうぜつだ。


「おお、いい感じだぜイクス。この調子なら、旅に持っていける保存食にも困らない様だな」

 と俺が言うと、

「はい、保存食になるものも徐々に増やしていますので、出発ギリギリまで作り続けますよ!」

 とやる気満々だ。


 こいつらは、仕事を与えると本当によく働く。

 能力も高いし自発的に発想する事も出来るようになってきている。


「期待してるぜ」

 と俺は言い、

「はい!お任せ下さい!」

 と元気に返事をするイクスに手を振って、俺達はその場を離れる事にした。


 前世では色々なバイトを転々としたが「自発的に発想する」という人間は俺の周囲にはあまり居なかった。

 俺は色々なビジネス書も読んでいたから、マネジメントについてバイト先でも色々試してきた事がある。


 働く人の傾向にはいくつかのパターンがあるが、「決められた仕事だけはしっかりやるが、他の仕事には見向きもしないタイプ」が圧倒的多数だった。


 他にも「仕事をしているフリをして、定時になるまで出来るだけ楽をしようとするタイプ」も一定数居たし、逆に「テキパキと仕事をして上司に褒めてもらおうと頑張るタイプ」も一定数居た。


 他にもいろいろなタイプが居たが、これらのタイプを野放しにしておくと、職場のサービスレベルも安定しないし顧客が感じる店舗の印象も悪くなる。


 なのでマネジメントが必要で、その為に最も必要になるのが「目標」を設定する事だった。


 みんな「利己的」な理由でバイトをしている。そりゃそうだ。大して高くも無い給料の割には仕事は大変だ。そんな環境で「職場の為に」とか「会社の為に」とかの「利他的」な気持ちで仕事ができる訳が無い。

 しかも給料は「時給」で計算されるから、時間あたりの給料の価値を高めるには「時給が上がる」又は「時間あたりの仕事を減らす」しか思いつかない訳だ。


 そのくせ職場の上司が「こいつらは、言われた事しかしないんだよなぁ」とか、「目を離すと、すぐにサボりやがる」などと愚痴っていたら、それこそバイトのやる気も削がれるし、各自で目標なんて持てる訳が無い。


 でもマネジメント側が「この目標をクリアできたら特別ボーナスを出すぞ」とか、「この仕事が出来る様になったら時給UPするぞ」とか、次々とステップアップの道を示すと、大半が仕事を頑張る様になる訳だ。


 しかしその為には個人に「夢や希望」が無ければだめで、「夢も希望も無い」という人は、やはり「最低限生きてるだけでいいので、給料もらいながらできるだけ楽をしていたい」という働き方から抜けられない。

 なので、「俺達の会社は、地域のみんなの生活を便利で幸せにする為のサービスを提供する会社だ。その一員として頑張ろうな!」みたいなビジョンも必要で、それに共感するメンバーを集める必要があるって事だな。


 つまり、今の俺達に当てはめるなら、

「この星を平和と安寧の星にする」という大きなビジョンがあり、それを

「史上最高の秀才であるショーエン」が、

「自分達を信じて仕事を任せてくれ、しかも適所でアドバイスもしてくれる」し、

「新しい技術や成果を否定せずに受け入れてくれる」ので

「ショーエンの目指す目的には、もっとこうした方がいいはずだ」と改善までして

「もっとショーエンの為になる様に、ショーエンから学びたい」と考え、

「もっと良い仕事が出来るようになって、ショーエンからもっと褒められたい!」

 という感じかも知れないな。


 つまり前世の地球の様に、夢も希望も持てない絶望的な社会で「いい仕事をしろ」って言っても無理ゲーだって話だな。

「いい仕事をするからいい社会になる」のでは無いのだ。

「いい社会だからいい仕事ができる」のだ。

 そしてその「いい仕事」が「いい環境」を作る「好循環」を生む訳でな。


 腐った社会で「いい仕事」をしても、上司が成果を横取りして終わりだもんな。

 前世の地球はそんな感じだったぜ。 


「次は、ミリカの様子を見に行くか」

 と俺が言うと、シーナが

「ミリカは部屋で衣装を作っているはずなのです」

 と言って俺の腕に抱き着いている。

 俺は頷いて王城の正面玄関に向かった。


 王城に入り、2階まで階段で上がる。

 廊下を右に曲がって真っすぐ行くと、俺達の部屋が並ぶエリアがある。

 俺の部屋は一番奥で、その手前がイクスとミリカの部屋だ。


 俺達の部屋の前にはメイドが一人ずつ立っていて、俺達の姿を確認すると、一番奥のメイドが

「おかえりなさいませ」

 と言って俺の部屋の扉を開けようとした。


「いや、俺達が用があるのは、こっちの部屋だ」

 と言ってミリカの部屋の前で立ち止まると、ミリカの部屋の前にいたメイドが扉をノックして

「ショーエン様、シーナ様、ティア様がいらっしゃっております」

 と扉の向こうに呼び掛けている。


 しばらくして部屋の扉が開き

「ショーエンさん、さ、入って下さい!」

 と俺達を部屋に入る様に促した。


「ミリカ、衣装制作の調子はどうだ?」

 と俺は様々な生地の切れ端が散らかった部屋を見回して言った。


「はい、こちらにどうぞ!」

 と部屋の奥の壁に掛けられている6着の服を見せた。


「ほう・・・」

 と俺は関心した様に声を出し、

「これは素晴らしいな」

 と俺は言った。


 まず、一番左にあるのは「メイド服」だ。

 この王城で働くメイド達の作業効率を良くしたいと思ったのだろう。

 前世でも、中世ヨーロッパのメイドといえばこの衣装だ。

 やはり、メイドの立場と機能性を追求すると、紺色のこのデザインに行き着くものなのだろうか。


 そして、左から2つ目が「ドレス」だ。

 恐らくは王妃や姫が着ていた服にインスパイアされたものだとは思うが、以前に俺がアドバイスをしたフリルをふんだんに付ける事によって、よりキュートなイメーシを演出している。サイズが小さいあたり、これは姫に着せるつもりなのだろう。


 そして、左から3つ目が「セーラー服」に似た服だ。

 なるほど、スカートとズボンがある辺り、男女共にこのデザインの服を作ったという事か。

 前世のセーラー服とは、元々は海兵隊等の船乗りが着ていた服だ。

 海上は風が強く会話が聞き取れなくなる為、セーラー服の襟を立てて耳元に収音しやすくする為にできた画期的な服だ。

 その後、何故か中高生の制服のスタンダードになっていたが、おそらくはリボンが付いていて「カワイイ」と思って女子の制服に採用したんだろうな。


「この服は、デバイスを使わなくても声を拾いやすくする為に作ったのか?」

 と俺が念のために訊くと、ミリカは驚いた様に

「そうです! さすがショーエンさんですね! すぐに見抜かれてしまいました」

 と驚きと称賛を表現してくれた。

「当然なのです」

 とシーナは、俺が褒められた時にはいつもこう言って頷いている。


 そして、次の服は、装飾の付いた厳かな衣装だった。

 まるで威厳のある偉い人が式典に出る時に着るような衣装だ。


「これは国王に着せるものか?」

 と俺が訊くと、ミリカは首を横に振り

「いえ、これはショーエンさんに着て頂こうと思っています」

 と言った。

 それを聞いて、シーナが

「おおお!ミリカはいい仕事をしているのです!」

 と喜んでいるし、後ろで見ていたティアも

「素敵ね!」

 と声に出して喜んでいる。


「おお、そうか・・・」

 と俺は、「まあ、これが必要な時が来るかも知れないな」

 言って最後の衣装を見た。


 これもきらびやかに装飾が施された衣装だが、少し丈が短めのスカートになっている。


 王妃に着せるにはスカートの丈が短すぎるとは思っていたが、もしやこれは・・・


「という事は、これは誰に着せるんだ?」

 と念のために訊いてみた。


 するとミリカは、

「これは、ティアとシーナに来て欲しいと思っています」

 と言った。


「私はいつも感じていたんです。ショーエンさんがデザインしたこの衣装、しかも最も高貴な白の制服を着られる事の幸福を・・・」

 とミリカは両手を胸の前で組み、

「でも、やはりショーエンさんは特別な人。イクスと私を導いてくれた特別な人。そして、学園史上最高の成績上位者であり、私達のリーダー・・・」

 と演説を始めたかと思うと、シーナとティアの方を見て

「更にショーエンさんが愛した二人の妻であるティアとシーナ・・・」


 ミリカはそこでひと息ついて俺達を見た。


「だから私は、ショーエンさんには、特別な存在で居てほしいと思っているのです!」

 とミリカが締めくくると、シーナがパチパチと拍手をしながら

「おおお~、ミリカはいい仕事をしているのです!」

 とまた言って俺の服の袖を引っ張った。


「ショーエン! あの服を着てみて欲しいのです!」

 とシーナがせがむ。


 しょーがない。今日の俺は、シーナのものだからな。


「ああ、試してみよう」

 と俺が言うと、

「キャーっ」

 と歓喜するミリカとシーナ、そして後ろで歓喜しているティアの声も重なっていた。


 俺は衣装を受け取り、一旦自室に戻った。

 そしてミリカが作った、どこぞの傲慢な王族あたりが着ていそうな衣装を身に着け、部屋を出てミリカの部屋に移動した。


 廊下でメイド達が息を飲むのが分かる。

 俺がメイドの顔を見ると、サッと目をそらして下を向く。


 俺はそのままミリカの部屋の扉をノックすると、扉が開いて正面に居たのはシーナだった。

「おおおおお!!!!」

 とシーナが雄たけびの様な声を上げ、

「ショーエン!すっごくカッコイイのです!」

 と飛び上がらんばかりに喜んでいる。

 ミリカも目を星の様に輝かせて、そしてうっとりとしている様だ。


 ティアはただただ見惚れているようで、潤んだ目をしながら、ほうっと吐息が漏れている。


「なあミリカ、ティアとシーナの分はもう出来てるのか?」

 と俺が訊くと、

「ティアの分は壁に掛けているのがそうですが、シーナの分は、正に今制作中です」

 と言った。


「そうか、なら二人の分が完成したら教えてくれ。その時にみんなで衣装を着て街に出てみよう」

 と俺は言った。


 その後のミリカ、シーナ、ティア達女3人の狂喜乱舞は、それはそれは凄まじいものだった。


 街に出たら何が起こるか分かったもんじゃないが、みんなが喜んでいるなら「それもいいか」と思える。


 ティアとシーナが手を取り合って喜んでいる姿は、俺に幸福感を与えてくれるしな。


「じゃ、そろそろ部屋に戻ろうぜ」

 と俺は言って、ミリカにも「宜しく頼んだぜ」

 と言って手を振ったのだった。


 ------------------


 俺は部屋に戻り、服を着替えて新しい衣装を壁に掛けた。

 ティアは壁に掛かった衣装の前で、右に行ったり左に行ったりしながら、色々な角度で衣装を見ている。


 シーナはベッドの上に飛び上がって、俺に

「来て来て!」

 と両手を振って手招きしている。


「おお、今日は色々動いたからな。昼寝がしたいのか?」

 と俺が訊くと、シーナは少し考えるように手を顎に当ててから

「違うと思うのです。多分私はショーエンと、もっとくっ付きたいのです」

 と言った。


「おお、いいぞ」

 と俺は言ってベッドの上に乗って、シーナに覆いかぶさる様に抱き着き、いつもシーナが俺にやる様に、シーナの胸に顔を埋めてグリグリと頭を左右に擦り付けた。

「きゃははっ」

 とシーナはくすぐったそうにしながら、俺の背中を抱いて離すまいと力を込めている。


 ティアは壁の衣装を見ながら、背後で聞こえるシーナの声を聞いていた。


 ティアは、本当は部屋を出て行こうと思っていた。

 さっきもミリカの部屋に残ってミリカとお話でもしようと思っていた。


 だけど、そうしようとした事をシーナは察知していて、デバイスで私だけに

「部屋に帰るのです」

 と言ってきたのだ。


 そして今、シーナがショーエンに「来て来て!」と言っている時にも、シーナは私にデバイスで「部屋に居て」と伝えて来たのだ。


 多分、シーナはショーエンに愛されたいのだろうと思っていた。

 昨夜の私みたいになりたいのだろうと。


 でも、もしそうなら、私がここに居ていい理由なんて無いはずだ。

 なのに「部屋に居て」と言ってくるのは、どういう事なんだう。


 今、シーナとショーエンが何かをコソコソと話している。

 きっと私に聞かせたくない話のはずなのに、私に部屋から出るなと言う。


 シーナが本当は何をしたいのか、私にはそれが解らない。


 目を瞑って俯くと、背後のベッドでは絹擦れの音がする。

 バサっと音がしたのは、きっとショーエンが服を脱いだからだ。


 そして、ファサっともう少し小さい服が床に落ちる音がして、きっとこれはシーナの服の音なんだ。


 ショーエンの事が好き。シーナの事も大切。


 でも・・・ どうして私はこんな仕打ちを受けているんだろう・・・


 その時、デバイスからシーナのメッセージが届いた。

「こっちに来て」

 と表示されている。


 ティアが振り向いた先には、全裸でベッドの上に座っているショーエンとシーナの姿があった。


 そして、シーナが左腕を上げて

「ティアもこっちに来るのです」

 と言った。


 ティアは混乱する頭のまま、ヨロヨロとベッドに歩み寄る。

 するとショーエンとシーナが同時に立ち上がり、ティアの服を脱がせていく。


 やがて3人が全裸になって、ベッドの上に座っていた。


「ティア、今日は私がショーエンに愛してもらうのです」

 とシーナが言った。そしてシーナとショーエンが私の手を取ってベッドに私の身体を横たえていく。

 ティアは二人にされるがままに仰向けにされ、シーナが私の手を取って、その手をシーナのまだ大きくない胸に抱き、

「でも、私達は3人で夫婦なのです。やっぱりティアと一緒がいいのです」

 と言ったのだった。


 -----------------


 シーナがベッドの真ん中に仰向けに寝かされていた。


 ショーエンがシーナの太ももから足首までを、何度もキスをしながら行き来する。

 その度にシーナの身体は跳ね上がり、汗ばんだ身体がほのかに甘い香りを漂わせる。


 ティアはシーナの胸の双丘に手を当てて、優しく撫でる様に登ったり降りたりを繰り返す。


「ん・・・」

 とシーナは口を強く閉じていても声が漏れる。


 ショーエンとティアの手が、身体全体を優しく撫でて、ショーエンの唇はシーナの足の付け根まで上って来る。


 シーナの頭は痺れたまま何も考えられない様になっていた。


 ただ、体中に感じる優しい肌触りが、体中を舐める様に見られる恥ずかしさと相まって、ショーエンが欲しいと思う気持ちの高ぶりを与えてくれる。


 シーナの両手は、ショーエンとティアの手を片方ずつ握っている。


 二人が一緒だという思いが、シーナに安心感と勇気を与えていた。


 ティアの手がシーナの双丘の頂上の突起に触れる度に、胸の奥から下腹部へと電気が走り、シーナの薄い繁みに彩られたクレバスからは、恵みの泉の様に熱い思いが溢れ出す。


 そして泉を求める旅人の様に、ショーエンの舌が泉を求めて彷徨さまよいいながら、やがてクレバスの深みへと、泉に誘われる旅人の様に入り込む。


「はあっ・・・!」

 とシーナの唇からは、熱い吐息と共に声が漏れる。


 やがてショーエンがシーナの両足を脇に抱え、シーナの身体に覆いかぶさる。


 ティアはショーエンにシーナの身体を譲り、玉の汗が浮かんだ火照った顔をショーエンの顔に近づける。

 そして絡みつく様なキスをした後、そっと離れたティアはショーエンとシーナが繋がるところをじっと見つめる。


 シーナは恥ずかしさで目も開けられないが、クレバスの泉に沈み込むショーエンの熱い魂がシーナの奥深くへと入って来るのを感じて全身が震える。


 少しの痛みととろける様な痺れが交じり合った未知の感覚を、一つ一つ確認してゆく探求家の様に、どの感覚も取り逃がすまいと丁寧にその未知の感覚を確かめながら、シーナはその快感の海に沈んでいく。


 ゆっくりと、そして時に激しくシーナの中を掻き回すショーエンの塊が、それを包み込む程に満ち溢れたシーナの泉で滑らかに舞う。


 やがて熱いマグマを溜め込んだ火山が耐え切れなくなって爆発する様に、シーナの身体の中にショーエンの魂の叫びがほとばしる。


 それと同時に、ショーエンの熱で沸騰しそうに熱くなったシーナの泉は、歓喜に震えながらその全てを受け止めて、その喜びを全身で現すが如くシーナの身体をピンと反らせて大きく震え、それは喜びにむせび泣く泉の精の舞の様だった。


 そして果てる様にシーナの身体に突っ伏すショーエンが、それでも強くシーナの身体を抱きしめるのを見て、シーナは熱く燃える心をショーエンが全身で受け止めてくれているのを感じ、それを見ていたティアも、まるで自分が抱きすくめられているかのような錯覚に陥りながら、自分で自分の身体を強く抱きしめる。


 やがて波が引く様に、シーナの心はさざ波の様に穏やかになってゆく。


 シーナは激しく肩で息をしながら、自分の上で覆いかぶさる様に力尽きるショーエンの身体を、まるで慈愛の力で命を吹き込むかの様に、精一杯の力で抱きしめた。


「ショーエン・・・」

 とシーナがショーエンの耳元で呼ぶ。


「これで私も・・・、本当の妻に成れたのです・・・」

 と言いながら目に涙をためたシーナの表情は、どこかの惑星の伝記にあった天使のように映った。


 ショーエンはシーナの唇をその唇でふさぎ、シーナの舌先をショーエンの舌が絡めとる。シーナもショーエンの舌を迎える様に自分の舌で絡めとり、その度に身体を襲う甘美な疼きに身体を震わせながら、それでもショーエンを逃がすまいとショーエンの背に回した手に力を込めた。


 そして痺れていくシーナの頭の中を、ショーエンの存在が満たしていく。


 良かったね・・・

 これで本当の夫婦になれたね・・・


 シーナの心に、もう一人のシーナが話しかける。


 ショーエンなら大丈夫。

 ショーエンなら、私達を幸せにしてくれる。

 あなたは、ティアと共にショーエンに全てを捧げるのです。

 それがあなたがあなたでいる為の答え・・・


 そうなのです。

 私はショーエンに全てを捧げる為にここに居るのです。


 ショーエンは、沢山の事を私に与えてくれたのです。


 私達がショーエンに与えられるものは多くは無いのです。


 ティアと一緒なら、私達にもショーエンに与えられるものがあるのです・・・


 シーナはそんな言葉を心の中で呟きながら、まどろみに溶けていく自分の意識をショーエンの腕の中で感じていた。


 私の名前は、シーナ・ヨシュア。

 ショーエンの妻なのです。


 ベッドで汗にまみれた3人の身体は、そのままベッドに沈み込む様に横たわり、荒い呼吸が静まるまで、まどろみに任せて目を瞑っていた。


 ショーエンの手は、ティアとシーナの二人の手を片方ずつ握り、ティアとシーナのもう片方の手は、ショーエンの胸の上で、お互いに固く結ばれていたのだった。

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