テキル星(6)ミリカが最高の衣装を作った日

 いつの間にか眠っていたようだ。


 俺が目を覚ますと、ティアとシーナが全裸で眠っている。

 俺も全裸だ。


 ああ、そうか・・・


 と俺はシーナの方を見た。


 今朝はティアから「シーナを愛してあげてほしい」と言われた。


 自分だけが幸せになってちゃいけない。今度はシーナにも、同じ幸せを感じて欲しい。


 ティアはそういう優しい子だ。


 でも、シーナもとても優しい子だった。


 いつも無愛想で俺だけを信仰しているようなシーナだったけど、そうじゃなかった。


 俺はティアには告白をした事があったけど、シーナにはちゃんと告白をした事が無かった。


 なのに、勢いもあってクラオ団長の前で結婚を宣言して、なし崩し的にティアと同時にシーナも妻にした。


 なのにそれからもティアの方が俺と一緒に話す事が多かったから、シーナはずっと寂しかったんだろうな。


 昨日はティアを抱いて、シーナは眠っていたと思ってたけど、実は気付いていて、そしてそれを今日シーナに言われて知った時、シーナはこう言った。


「私は、ティアと一緒にショーエンの妻になりたいのです」


 シーナは俺達3人を「一つの家族」だという目で見ていたんだ。


 そんな寛容な心を、シーナは持っている。


 本当は独り占めしたかったはずの関係を、ティアに気を使ったとかじゃ無くて、本当に「3人で幸せになりたい」とシーナは言った。


 こんな、まだ成人したばかりの少女に、70年以上の人生経験を積んできた俺がさとされてるんだから世話は無い。


 でも、前世の地球ではこんな子は見た事が無い。


 プレデス星人の誇りなのだろうか、「強欲」という罪を、シーナはこれっぽっちも持っちゃいない。むしろ、俺よりもみんなの事を考えているんじゃないか?


 いつも俺に付いて来て、俺の言う事を全肯定するほどの信奉ぶり。


 でも、ただの信者では無かったんだ。


 シーナはただ「ショーエンに従う事が一番正しい選択だ」と信じ、それがみんなの幸せの為と信じているだけなんだ。


 そう、シーナはただ「シーナ」だっただけなんだ。


 だから俺も誓おう。


 ティアとシーナを幸せに出来ないような世界にはしないと。



「うーん・・・」

 とティアが唸りながら伸びをしている。

「ティア、目が覚めたか?」

 と俺が言うと、ティアは自分が全裸である事と俺やシーナも全裸でいるのを見て、さっきまでの事を思い出した様だ。


 みるみる顔を赤らめて、

「ふ、服を着なくちゃ」

 とベッドから降りてそそくさと服を着始めた。


「そうだな、そろそろ起きないと、またメイド達が夕食やら風呂やらで呼びに来るからな」

 と俺も起き上がり、床に散らかった服を拾っていく。


 ベッドの揺れで目覚めたのか、シーナも

「うーん・・・」

 と両手を広げて伸びをしている。


 真っ白な肢体を晒して伸びをするシーナは、幼くも見えるが、美しくもあった。


「おはようなのです」

 とシーナはまだ重そうな瞼を半分くらい開けて、俺達の方を見て、そして自分の身体を見た。


 みるみる耳まで真っ赤に染めて

「は、恥ずかしいのです・・・」

 と言いながら、ノソノソとベッドの上を這って自分の衣装を探していた。


 全員が衣装を着用してから、俺達3人はベッドの縁に座って雑談をしていた。


 大して盛り上がる様な話はしていない。


 今日中にミリカが作ってくれる衣装が出来たら、明日は街に出ようという話が少し盛り上がったくらいかな。


 そうしているうちに、扉をノックする音が聞こえ、

「ご夕食のご用意ができております。いかが致しますか?」

 とメイドが声を掛けて来た。


 俺は扉を開けて「今日も部屋で食事をする」と伝え、料理を運んでもらう事にした。


 しばらくすると、ワゴンに乗せられた料理が届く。

 今回も料理は豪華だ。


「さ、食べようぜ」

 と俺は言いながら、テーブルに食器を並べ、ワゴンから料理を取って皿に盛っていく。


 ティアとシーナもテーブルに着き、料理を取って盛りつけていく。

 今日は野菜を中心に食事を楽しむ様だ。

 この国の野菜はサラダで食べるものは少なく、蒸した野菜にソースが掛かっている物が多い。

 スープや煮物は多いが、それらもバターと塩で味付けされたものがほとんどだ。どれも旨いが、ティアとシーナもたまにはアッサリした食事をしたい事もあるんだろうな。


「シーナ、今朝神殿に仕掛けたデバイスの傍受はうまくいってるか?」

 と俺は盛りつけた肉料理を食べながらシーナに訊く。


 傍受した情報は、中継器に蓄積されるようにしているらしいが、シーナのデバイスでも状況は分かる様になっている。


 シーナは、

「すごく情報が溜まってるのです」

 と言って「でも、情報が多すぎるので、何かの条件で絞り込んだ方がいいのです」

 と言った。


 なるほど、確かにな。


「なあ、ティア、シーナ。昨日現れたルークっていう魔術師の事、どう思う?」

 と俺はざっくりとした感想から訊いてみた。


「あれは、よくない人なのです」

 とシーナは即答したが、ティアは少し考えてから

「国王の忠実な臣下って訳では無さそうよね。何かを裏で企んでいる様な気がするわ」

 と言い、それにはシーナも「うんうん」と頷いて共感しているようだった。


「ああ、俺も同じ考えだ」

 と俺は言い、「俺の考えを聞いてくれ」

 と、これまでに俺が推察したテキル星の歴史やデバイスの事を話した。


 ティアもシーナも学園史上稀に見る秀才だ。そもそも、定期試験でAクラス全員が400点以上の成績だった事が学園史上初の出来事だったんだから、俺達は全員が秀才と言って過言じゃないだろう。

 しかし、特にティアとシーナに至っては「天才」と言ってもいいと俺は思っている。


 普通さぁ、果物を食べた子供が「ハッ! この果物で発電できるかも!」とか思いつくか?

 普通の子供が、国家が秘密にしている通信技術の根幹を「解読したい!」とか思うかぁ?


 そんなの、「天才」としか表現できないだろ?


 しかし、そんな二人でも、俺の話を理解するのには少し時間を要したようだ。


「つまり・・・」

 とティアが適切な言葉を探しながら話し始める。


 ティアの理解力は凄い。俺の話を完璧に理解している事がティアの話し方から分かった。


 ティアは俺の話をこんな風にまとめてくれた。


 1,テキル星に惑星開拓団が移住して約5千年が経過。

 2,遺伝子操作により、現地に人類を創造して繁殖。

 3,プレデス星人と現地人の交配も行い、混血の民が大半。

 4,現在では純血のプレデス血統は500人程度。

 5,プレデス純血人はバティカの王族、貴族、騎士、その他一部の住民で、その職業は主に生産職か商人。

 6,バティカの他に12の国があり、それらの国の王族と貴族は、プレデスの血統でなければならない。

 7,12の国では、プレデスの血の濃さが高貴さの象徴とされる。

 8,150年前、純血のバティカ商人が国を出て、12の国へと行商を行った。

 9,12の国の国王や貴族がバティカ商人の血族を求め、商人と結婚して子孫の血を濃くしようとした。

 10,バティカの商人を奪い合う結果、やがて商人が殺される事件が起きた。

 11,結果、バティカの商人が行商をやめ、12の国はプレデス血統が薄くなっていった。

 12,いつまで経っても来ないバティカ商人に痺れをきたし、12の国の一つがバティカに軍を率いて侵攻。

 13,しかし龍神の怒りに触れて龍を遣わし、侵攻軍を殲滅せんめつ。これがおよそ100年前。

 14,その後、12の国は龍神の怒りを恐れて「龍神をまつる神殿」を創り、しばらくは平穏に見える情勢。

 15,しかし、この数年で、自称魔術師のルークが国王に内緒でプレデス星人を呼び寄せていた。

 16,召喚したプレデス人を奴隷としてバティカの貴族達に売っている気配あり。

 17,その目的は「王家転覆」か、又は王城の「兵器掌握」の可能性が濃厚。


「こんなところよね?」

 とティアは言った。シーナも

「おかげで解りやすくなったのです」

 とほっとしている様だ。


「ああ、そうだ。ティアは理解力が高くて助かるぜ」

 と俺が言うと、ティアは「あ、ありがと」

 と少し照れている。


「で、ここまでの経緯を知った上で、デバイスの傍受をして集めた情報から、自称ルークの目的を特定しようってのが今回の俺がやりたい事だ」

 と俺が言うと、シーナは

「なるほどなのです」

 と頷き、「それなら、バティカの貴族の名前を調べて、その名前が出て来る情報に絞り込むといいのです」

 と続けた。俺はシーナの頭を撫でながら、

「さすがシーナだ」

 と言い、「その情報を得るのは簡単だが、誰から情報を得るのがいいと思う?」

 と訊いた。シーナは、

「国王か王妃、他にも騎士団とかいろいろ情報源があるのです」

 と言ったが、ティアは

「でも、国王は自称ルークを信用し過ぎてて、国王の周辺の人間に訊くのは危険かも知れないわね」

 と俺が指摘しようとした事を先に気付いて指摘してくれる。


「ああ、ティアの言う通りだ」

 と俺は言い、「はっきり言うが、国王はバカだ」

 と付け加えた。


 するとティアとシーナは

「バ・・・」

 と言ったかと思うと「アハハハ」と大きな声で笑い、ティアに至っては腹を抱えて笑っている。

「ダメだよショーエン、いくら本当の事でもそれは言っちゃダメよ」

 と笑いながらも言葉だけは俺をたしなめるティアと、

「ショーエンがバカと言うなら国王はバカなのです。私は国王を間抜けだと思っていたのです」

 と俺と同じく身も蓋も無い表現をするシーナに、何だか俺もつられて笑ってしまった。


 俺は笑いながら、ティアとシーナがこんなに笑える様になった事を喜んでいた。


 でも、のほほんとしている訳にもいかない。バティカ王国なんて全然思い入れがある国では無いが、それでもここから救っていかねば次に進めないんだからな。


俺は姿勢を正し、

「バカとは言え、国王は国王だ。しかし、国王がバカだと周囲の人間によって利用されやすい。今回の自称魔術師の件がいい例だ」

と言いながら、「この国の統治を正常化する為には、やはり国王には絶対的な権威の象徴であってもらわなければならない。なので、理由はどうあれ、国王を利用して裏で陰謀を行う自称魔術師には、国王の配下達に分かりやすい制裁を与える必要があるだろう」

と俺が言うと、ティアとシーナがゴクリと唾を飲み込む音がした。


「・・・制裁って?」

とティアが恐る恐る訊いた。


俺は「はあ」とため息をつきながら目を瞑り

「そうだな・・・」

と呟いて腕を組んだ。


王政を行っているとはいえ、バティカの街を見るに国王の統治は民に自由と豊かさを与えている様に思える。

それは貴族達の手腕でもあるのだろうが、王族と貴族の仕事ぶりは、成果だけを見れば、決して悪い仕事をしているとは思えない。


が、国家転覆やクーデターとなると話は別だ。


前世でも、様々な国で国家転覆やクーデターが行われていたが、それは独裁国家がほとんどだった。

独裁国家にも「良い独裁」と「悪い独裁」があり、前者の場合は、民の生活は豊かで幸福になっていた。

しかし後者の場合は、独裁者の周辺だけが肥え太り、民は瘦せ細って奴隷の様な生活をしていた。


どちらにも共通するのは、国家転覆等を図った者には最も重い罪として「内患誘致罪ないかんゆうちざい」が課せられ、その刑は例外無く「死刑」だという事だ。


国家を転覆するというのは、それほどに重い罪であり、そうしなければ国家を守れないと歴史が選んだ刑が「死刑」な訳だ。


ならば、バティカ国王をたぶらかし、プレデスの民を奴隷として売っていた自称魔術師は「内患誘致罪」を課するべきだろう。


俺はもう一度ため息をつき、

「自称魔術師には、皆の前で公開処刑にする必要があるだろうな」

と言った。


「それって・・・」

とティアが青ざめる。

「ああ、死刑だ」

と俺は言った。


魔術師にくみする貴族や騎士が居た場合、そいつらも同様の罰を与える必要があるかも知れない。


しかし、そうなると保身の為に俺達に危害を加えようとする者が現れてもおかしくない。


「ティア、念のために、俺に武器を預けてくれ」

と俺は言った。


テキル星に来る前に、護身の為に作った武器。


「レールガン・・・の事ね」

とティアは言い、「念のため・・・だもんね」

と頷いた。


「ああ、俺達は龍神の使いだからな。龍神は恐怖でこの星を統治しようとしていた。だから俺達も、その片鱗を見せておく必要が、今回はあるだろう」

と俺が言うと、シーナは頷き

「ショーエンがそう言うのなら、きっとそうなのです」

と、少し震える手で俺の袖を掴みながら言った。


「それで、奴隷を買ってたかどうか、どこから情報を収集するの?」

 とティアが訊いた。俺はひとつ手の平で膝を叩いて顔を上げ、


「本人から直接聞く」


 と言ったのだった。


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 俺達は、食事を終えた後にメイド達の呼びかけで、また風呂に入っていた。


 今日は色々と汗をかいたから、早く風呂に入りたかったんだよな。


 で、脱衣所に入るといつも通りに沢山のメイドが居たのだが

「今日は俺達3人で入る。お前達の手助けは無用だ」

 と俺はメイド達に退出する様に言い、

「それはどういう・・・」

 と心配そうにするメイドも居たが


「お前達に非は無いが、先ほど龍神よりそのようにせよとの神託を受けた。他の御使いにもそうする様に伝えるがいい」


 と俺はそれらしく言って人払いをする事にした。


 これでティアやシーナのヤキモチも無くなるだろう。


 大体、風呂に入ったり服を着替えたりするのをメイドにやらせるってのが堕落の始まりなんだよ。


 それに、俺達の秘密をメイドに知られるってのは、俺達が疑わなくちゃならない人間が増えるって事でもあるからな。


 これもお前達みんなの為だ、悪く思うなよ。


「よし、じゃあ3人で風呂に入るか」

 と俺は時分で服を脱ぎだした。


 ティアとシーナもまだ恥ずかしそうにはしているが、いそいそと服を脱いで全裸になる。


 そして、浴室内にあるスポンジでお互いの身体を洗い合う。

 恥ずかしそうに、そしてくすぐったそうにするティアやシーナを見ていると、まるで修学旅行で初めて大勢で風呂に入った子供達のようだ。


 前世の日本では「裸の付き合い」というものがあって、これは「お互いが隠す物も無く話し合える場」として、とても大切にされていたんだよな。

 お互いが裸なら、武器も持ってないし防御も出来ない。だから話し合うしか無い。

 そんな文化だ。


 シーナが先頭に座り、俺がシーナの背中をゴシゴシしている。そして俺の背中をティアがゴシゴシしている。


 そしてそれが済むと、皆が180度回転して、今度はティアが先頭になって背中をゴシゴシされる。


 俺だけが2回もゴシゴシされて、ちょっと背中がヒリヒリしてきたが、ティアやシーナのつやつやの背中をあまりゴシゴシし過ぎるのも良くないからな。


 一通りお互いの背中を洗い終えると、足先から首筋までを自分で洗い出す。


「ここにもシャワーを作れればいいと思うのです」

 とシーナが言うのもごもっともで、「洗剤が無いのも納得いかないのです」

 とこれまたごもっともな感想だ。


 俺はシーナを見て頷き、

「シーナ、それは俺に考えがあるんだ」

 と言って、桶の湯をざばあっと被り、

「俺は石鹸というものを作って、洗剤の代わりにするつもりだ」

 と言った。シーナは「おお!」と言って、

「ショーエンが作る物なら間違いは無いのです!」

 と楽しみにしているようだ。


「でもな、俺はその石鹸を、他の国で作らせるつもりだ」

 と言った。するとティアが

「それはどうして?」

 と訊いた。


「それは風呂に浸かってから話そう」

 と一通り身体を洗い終えた俺達は浴槽に足を入れ、浴槽の縁にもたれ掛かりながら足を伸ばして肩まで湯に浸かった。


「ふい~っ」

 とシーナが言う横で「ふう~っ」とティアも息を吐く。


 俺は湯に浸かると

「石鹸の話だけどな・・・」

 と話し出した。


 俺の考えはこうだ。


 バティカ王国はこの星で最も発展した国だ。

 それはこの星最初の国家という事もあって当然の事とも言える。


 しかし、この星の他の国は、バティカの貴族が開拓して創った国だが、バティカとの交易が無いという事は、独自に発展せざるを得ない。


 そして、バティカの商人が外国に生地を売りに行ったって話は聞いたが、他の国からバティカに物を売りに来る商人が居るって話は聞いた事が無い。


 つまり他の国は、独自に発展したはいいものの、バティカに売れる程の物は無いって事だ。


 他の12の国同士で交易しているかどうかはまだ分からないが、俺の考えでは交易は行われている筈だ。


 何故なら、惑星疑似体験センターで見た国の宿屋には、商人のグループが沢山居たからだ。

 あれがどこの国かは分からないが、街の中に神殿の様な建物があり、龍神を祀っていたのだから「バティカ以外の国」なのは確かだ。


 さらに街の外にあった高い塔。

 塔の入り口には鎧を着た兵士が居て、入口を守っていた。

 そして神官らしき人間が塔を出入りして神殿にも出入りしていた。


 つまりは、龍の怒りが無い事を毎日確認して神殿で祈っていたのだろう。


 しかし、それだけで鎧を着た兵士が塔を守る必要があるとも思えない。


 おそらく、バティカ以外の国では頻繁に戦争が起こっていて、あの塔は「物見の塔」の役割も担っていると考えるのが妥当だ。


 つまり、12の国には「龍神の怒りに触れない事」を毎日確認する必要があるほどのを行っている可能性があり、そしてそのとは「戦争」だと俺は睨んでいる訳だ。


 なので、俺は各国に「名産品」を作り、その交易をする事で「戦争をする必要が無くなる世界」を作りたい訳だな。


 それに、スポーツ等の文化を作り、国同士の戦いはスポーツ競技によって行えばいい。そうすれば、少なくとも人の命お奪い合いにはならないからな。


 そして、その為には「プレデスの血の濃さ」を基準にした階級制度をぶっ壊す必要がある。


 しかし、これまで数百年に渡り築かれて来た価値観はそう簡単には覆らない。


 なので、根っこを押さえる必要がある。


 その首根っこを摑まえる為に必要なのが「誰がプレデス星人奴隷を買っているか」であり、その情報を「バティカ貴族に直接聞く事」なのだ。


 俺はお湯を両手ですくい、顔にバシャっとかけてゴシゴシと顔を両手で拭い、

「ああ~、いい湯だな!」

 と言ってから、ティアの方を見て

「さっき、どうやって貴族達から情報を得るのか気にしてたよな?」

と俺が言うと、ティアは頷いて俺を見た。


「単純な方法だよ。王族と貴族達を俺達の前に全員集合させて、俺が全員に話しかけながら犯人をあぶり出す」

 と言った。


「なるほどなのです」

 とシーナは頷き、「昨日のショーエンが自称ルークを追いつめるのを見ていて思ったのです」

 と言いながら、俺の真似をして両手で湯を掬って自分の顔にバシャっとかけて顔をゴシゴシとしている。

「ふぃ~、いい湯なのです」

 と言いながらティアの方を見て

「情報を持っていながら知らないフリをして情報を聞き出せば、誰が嘘をついているかが判るのですよ」

 と言った。


「なるほど・・・」

 とティアもシーナの話を聞きながら思いあたる事があった様だ。


「その通りだ、シーナ。王家と魔術師、そして貴族の全員を呼び出せば、デバイスを持たない貴族達は口裏合わせをしたくても出来ない」

 と言ってティアとシーナの顔を交互に見て、

「自称ルークの様に、もしこっそりデバイスを持っている物が居ても、俺達はそれを傍受できるから、それが出来た時点でその貴族が法に反してデバイスを持っている事が特定できる訳だ」

 と続けた。


「なるほどね。理解したわ」

 とティアは言いながら、少し不敵な笑みをしている。


 おいおい、なんか悪役令嬢みたいな顔になってるぞ、ティア。


 と心の中で思いながらシーナを見ると、

「ひっひっひっ・・・」

 と、こちらはどこかの悪い魔女の様な顔だ。


 ・・・・・・まあ、二人とも根はいい子だから、大丈夫だよな?


「で、さっき言ってたセッケンっていうのは?」

 とティアが言った。


「ああ、それな」

 と俺は言いながらバシャンと湯を両手で掬って顔に掛けてゴシゴシとこすった。


「石鹸ってのは、身体を洗う洗剤みたいなものだ。この星にあるものだけで簡単に作れるから、先に他の国に石鹸を作らせて、それをバティカに売らせるつもりだ」

と俺は言った。「そうする事で、バティカの商人が居なくても、他国の商人がバティカに出入り出来る様になるだろ?」


「そうね」

とティアは頷く。


「で、石鹸がバティカで必需品になれば、バティカの街でも更に豊かな生活が求められるようになるよな」

と俺は言ってシーナの頭を撫でた。


「そうしたら、他国の商人によって自国のお金が外国に流出する事を野放しには出来無くなって、バティカの貴族も奴隷を買って自分の地位を安泰にするどころの話じゃなくなるのです」

 とシーナが言った。


「そうだ」

と俺は頷き、「貴族が統治するより商人が統治した方がいいなんて事になったら、貴族の立つ瀬が無くなるからな」

と続けた。


「なので、この国でもっと必要な物をリストアップして、それらを他国で作らせて、この国に売り込みに来させる事で、貴族達もうかうかしてられなくなるって訳だ」


「なるほど・・・」

とティアも理解をした様だった。


「よし、じゃあそろそろ出るか!」


 と俺が立ち上がると、二人も立ち上がって俺の手を取り浴槽を出る。


 そのまま浴室を出て、棚に置かれた大きな布を身体に巻き付けて身体の水気を取る。


 背中の水滴はお互いの布で拭き合って、だんだんと裸のスキンシップにも慣れて来た様だ。


 この国にはドライヤーの様なものが無いので髪を乾かすのが大変だが、大きな布でゴシゴシした後に、俺は生地を割いてフェイスタオル位の大きさにした布を手に、ティアの薄茶色の肩より少し下まで伸びた髪を掻き上げて頭の上にトグロの様に巻いて置き、手にした布をターバンの様に巻いてやった。


「こうすると、湿った髪が肩を冷やさずに済むだろ?」

 と俺が言うと、ティアは、

「う、うん。ありがと」

 と頬を赤らめる。シーナも俺の方に来て「んっ」と言ってお辞儀をするように俺に頭を差し出す。

「はいはい」

 と俺は言いながら、シーナの薄いブルーの腰まで伸びた長い髪を掻き上げ、シーナの頭の上に巻き付けて生地を巻いた。

 シーナは髪が長いので、ちょっと大きめのターバンの様になった。


 俺も自分の髪を指に絡めてキュっと絞り、まるで海賊の下っ端の頭巾の様に巻いた。


「クレア星にはバスルームにドライヤーがあったけど、この星にはそうした文化は無いみたいだから、こういうのも文化として広げていくといいと思わないか?」

 と俺が言うと、ティアもシーナも「うんうん」と頷きながら、

「ショーエンは、本当に凄いよね」「なのです」

 と呟いたのだった。


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 俺達がガウンに着替えて浴室を出ると、廊下にはメイド達が集っていた。


「待たせたな。次の御使いを案内するがいい」

 とメイド達に指示をした。


 メイドの一人が廊下を駆けてゆき、俺達が手にした衣服を「お運びします」と申し出たメイドに「ああ、頼む」と手渡しながら、自室に向かって歩き出した。


 俺を先頭にティアとシーナが俺の両脇に並ぶ。


 一人のメイドが俺の前を歩き、二人のメイドが俺達の後ろを付いてくる。


 階段を登って2階に上がり、廊下を歩いていると、前方からイクスとミリカがメイドに連れられて歩いてくるところだった。


「よお、イクス、ミリカ!」

 と俺が呼びかけると

「ショーエンさん、これから浴室に向かわせて頂きます」

 とイクスが言って頭を下げる。


「ああ、くつろいでくれ」

 と俺が言うと、ミリカが

「湯上りにそちらの部屋に伺ってもいいですか?」

 と訊いてきた。


「ああ、いいぞ」

 と俺は言ってから、「もしかして完成したのか?」

 と訊いてみた。


「はい、3人分の衣装が完成しておりますので、ぜひ試着をと思っています」

 とミリカが言う。

 これにはティアもシーナも手を合わせて喜んだ。


「ええ! 待ってるわ!」

 とティアは楽しみで仕方が無い様だった。

 勿論シーナも楽しみにしているはずだが、

「ふふふふふ・・・」

 と、喜びの表現を色々工夫しているところらしい。


 ハハッ、シーナは将来、役者になれる素質があるかも知れないな。


 俺はそんな事を考えながら、

「楽しみにしてるぜ」

 と言って手を振り、イクス達とすれ違って部屋に戻った。


 俺達が部屋に入ると、扉を閉める前にメイドが

「御用の際はお申し付け下さい」

 と廊下に待機する様だ。


 このメイド達はいつ休んでいるんだ?


 とは思うが、寝不足な顔をしている訳でも無さそうだし、メイドはやたら人数が多いし、何とかなっているのだろう。


「ああ、ありがとう」

 と俺は言って扉を閉めた。


 部屋に戻った俺達は、ミリカが持ってくる衣装を楽しみにしながらも、ティアとシーナに情報分析を頼む事にした。


 例の自称ルーク達のデバイス通信を傍受した記録の分析だ。


 膨大な情報量をどうやって分析するのか興味があったのだが、シーナのやり方はこうだった。


 通信内容は会話が多いので、まずは会話の中の形容詞を削除する。

 そして、名詞と動詞だけに絞って検索をかける。


 すると情報量は3割まで減らす事が出来た。


 なるほどな。

 普段の会話の7割は無駄な言葉を並べているってのがよく分かる。

 最低限の言葉で要件を伝えたければ、こうやって名詞と動詞だけを並べればいいって事か。

 そういえば、前世でも英語の習得をするのに、名詞と動詞の単語を覚えておけば、海外旅行で困らない程度の会話は出来ると聞いた事があるな。


 おそらく、シーナもその要領で絞り込みをしているのだろう。

 他の言語の存在を知らないシーナがその方法に気付くなんて、やっぱ天才だよな。


 で、シーナがその中で不要と思われる情報を省いてゆき、残った情報の中から、俺の判断を仰ぎたい情報を残して、その情報を俺とティアのデバイスに送信した。


 俺とティアはその情報を確認した。


 結果、分かった事はこんな感じだ。


 バティカ王国の王族は4人。既に会った事があるあの4人だろう。

 王宮魔術士が1人。自称ルークの事だな。

 騎士団が24人。王城の警護だけとはいえ、かなり少ないな。

 騎士団とは別に軍隊があり、そこの兵士が1500人。おそらくバティカ王城と王都だけでって事だろうな。

 そして一番知りたかった貴族が6人で、その家族を含めると32人だ。


 思ったよりも少ないな。他のエリアを統治している貴族も今回は呼び寄せているはずだから、家族も含めて32人ってのは想像以上に少ないぜ。


 となると、血統を守る為にプレデス星人の召喚を行って結婚させる事は必要な事だろう。何もコソコソ奴隷を買う必要などなく、普通に結婚すればいいのにな。


 気になったのは、騎士団と軍隊の違いだ。この違いは何だ?


 それにはシーナが答えてくれた。


「さっき削除した情報の中にあったのです。騎士団はプレデスの混血で最も貴族に近い位置にいて、軍隊は現地人だけで構成されているのです」

 だそうな。


 なるほど。


 王族が王家を転覆なんてする訳が無いから、6人の貴族を一番に疑う訳だが、その家族も含めると32人か。

さらに騎士団も混血なら、貴族と同じ様に疑う必要があるな。シーナの話じゃ、その家族も含めると96人居るようだ。


 こいつらを王城に集めて「神の御使い様との謁見」とかのイベントを実施すれば、全員と会話する機会が得られるので、一人一人に情報津波を使えば犯人が見つけられる。


 あとは王城の兵器の事だが・・・


 シーナは今その情報の検索をしていた様だ。

 しかし、その情報らしきものは見つからないらしい。


 ふむ・・・


 という事は、神殿に居た「移住者メンバー」を兵器の起動に利用するという話は、本人達には知らされていないという事か、又はそのつもりで奴隷を買ってるわけではないという事か。


 これは今回のプレデス奴隷の話とは分けて考えた方が良さそうだな。


 でも、自称ルークと初めて会った時に情報津波で見た情報では「人間の種と器」みたいに呼んでた訳だから、やはり「プレデスの遺伝子」を求めてる可能性が一番高いよな。


 バティカの貴族と騎士は全員が純血のプレデス遺伝子を持っている訳だから、わざわざプレデス遺伝子を欲しがる理由が分からない。


 いや、待てよ?


 ここの騎士団の24人ってのが一番の容疑者になるんゃないか?


 何せ、騎士団はプレデスとの混血という事だから、代々その血は薄くなっていくだろう。だったら、他国の貴族達と条件は同じだ。


 こんな大規模な奴隷作りをしておいて、国外に連れて行くとなると、街の誰かに見つかる事くらいはあるはずだ。

 それがいずれ国王の耳に入る事くらいは想像ができるだろう。


 でも、国内に向けて奴隷を売っているのなら、王族の目さえ欺ければ、王宮魔術師の地位を利用すれば他は大した問題じゃないはずだ。


 そう言えば・・・


 初めて自称ルークと会った時に居た2人の兵士。

 今思えば、あれはこの国の騎士だったのかも知れない。


 騎士と兵士の違いなんて、今さっきシーナに聞いて知ったばかりだ。

 鎧のデザインが違う訳でも無いし、見分けが付かないのも致し方無いだろう。


 そうか、あの時の2人の兵士にも情報津波を使っていれば、もっと早くに情報を得られていたかも知れなかったのか。


 あの自称魔術師のキャラが濃すぎたせいで、すっかり見落としていたぜ。


「ティア、シーナ。明日の朝食時に今から言う作戦を実行する」

 と言って、ティアとシーナを抱き寄せた。


 いや、別に抱き寄せる必要は無いんだが、なんかもう、俺もこの二人を愛しちゃってるから、事あるごとに抱き寄せちゃうけど、夫婦だし、いいいよな。


 ティアとシーナはそんな事は気にする様子も無く俺に抱き寄せられるままに身体を委ねている。


「どんな作戦?」

 とティアが訊く。

「どんな作戦でも任せてほしいのです」

 とシーナは説明する前からOKサインだ。


 俺は二人の顔に自分の顔を寄せて、少し小声で話しだした。


「作戦内容はな・・・」


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 部屋の扉にノックの音が聞こえ、扉の向こうで、

「ミリカ様がいらっしゃいました」

 とメイドの声がした。


 俺が扉を開けると、両手に衣装を抱えたミリカが目の前に居た。


「ようミリカ、待ってたぜ」

 と俺はミリカを部屋に招き、手に持った衣装を受け取った。


 ティアとシーナもスキップでもしそうな勢いで寄ってきて、ミリカからそれぞれの衣装を受け取った。


 今日の昼に見せてもらったそのままのデザインだが、これはなかなかに目立つ代物だ。


「着てみてもいい!?」

 とティアとシーナが、初めてドレスを買ってもらった女の子みたいにはしゃいでいるのを見て、

「ああ、当然だ」

 と俺が言った刹那にその場で着ている服を脱ぎだして下着姿になってしまった。


「まあ!」

 とミリカは驚いたが、俺の顔を見て

「ショーエンさん、二人と生殖行為を?」

 と露骨に訊いてくる。

「ああ、まあな」

 と少し照れるが、俺が言いだした事でもあるし、俺が恥ずかしがってちゃみんなもやりにくいだろうからな。


 ティアとシーナが新しい衣装を身に着けると、そこにはファンタジー漫画の貴族達も顔負けの、凛々りりしくもあり高貴さもあるのに可愛さもある、超絶美少女2人がそこに居た。


「おお・・・ スゲーな」


 と言うのが精いっぱいで、何と表現していいのか俺には分からなかったが、これはイイ。とにかくイイもんだ。


「ミリカ。これは想像以上にいい出来だ。よくやってくれたな」

 と、俺はミリカに最大の敬意を表して評価した。


「ありがとうございます!」

 とミリカは、俺に褒められた事を光栄に感じつつも、自分が作った衣装が想像以上に似合っているティアとシーナの姿に見惚れていた。


「ティアとシーナは元々が美しいですから、衣装によってより美しくできたのだと思います」

 とミリカはそう言い、「明日の朝食時には、ショーエンさんもこの衣装で来られますか?」

 と訊いてきた。


「ああ、もちろんだ」

 と俺は答え、「ハハッ、明日が楽しみだな」

 と笑った。


 俺とミリカは、新しい衣装を着て手を繋いで踊る様にはしゃぐティアとシーナを見ながら、ほほ笑んでいた。


「ティアとシーナがあんなにも喜んでくれるなんて、衣装制作のチャンスをくれたショーエンさんには、本当に感謝しています」

 とミリカが言った。


「衣装の可能性は無限だ。お前の研究は、まだまだ序章に過ぎないぜ。これからも頼りにしているぜ!」

 俺がそう言うとミリカは頷き、

「ええ、本当に、無限の可能性を感じています」

 とティア達の姿を見ながら心の底からそう言ったのだった。

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