ミスリル鉱山、何潜む4
「まあ、不出来な弟子よりよほどいいか」
やる気ばかりあって空回りしているぐらいなら優秀な弟子の方がいい。
優秀なジケですら師匠をやるのは大変なのだ、自分の師匠は苦労しただろうなとグルゼイはフッと笑った。
「うえっ! こんなもんここにいんのか?」
グルゼイが振り返ると明かりが近づいてきていた。
ミノタウロスの死体が見えてライナスが驚いた顔をする。
ライナスも魔物に詳しいわけでないけれどミノタウロスがこんなところにいる魔物じゃないことは分かる。
「そういえば鉱山で現れた魔物について細かく聞いていなかったな。これか?」
「いえ、違います。住み着いていたのはケイブラットという大きなネズミの魔物です。ただ……崩落の時に現れた魔物は違うようですが……」
「崩落の原因もミノタウロスなのか?」
「細かいことはなんとも……その時にいた人はみんな閉じ込められたままで。ですがミノタウロスのような鳴き声を聞いた……という話はありましたね」
採掘が始まる前に鉱山に住み着いていた魔物はケイブラットという洞窟などを好んで住み着く大型のネズミの魔物であった。
しかし崩落の時に襲いかかってきた魔物は別のものである可能性があった。
フィオス越しに簡単に手紙のやり取りをするしか今は意思の疎通が取れないのでどんな状況で襲われたかの話は聞けていない。
だが崩落が起こった時に聞こえてきた叫び声はケイブラットのものではなくミノタウロスのような声であったという人もいた。
「……別の魔物が住み着いてる?」
「分からないな。だがそもそもミノタウロスは洞窟に住む魔物じゃないし二体も三体も群れをなす魔物でもない」
ミノタウロスが洞窟にいること自体不思議であるが、崩落の現場にミノタウロスがいたのだとしたらジケがいま倒したミノタウロスとは別個体である可能性が高い。
ミノタウロスが生きていたら崩落の向こう側にいたアルケアンたちは無事では済まなかったはずで、無事だったということはミノタウロスは崩落に巻き込まれて死んだはずなのだ。
だがミノタウロスは単体で動く魔物である。
たとえ親子だとしてもある程度大きくなれば子はすぐに親離れする。
同じ洞窟に同じくミノタウロスがたまたま入り込んでいたなど偶然で片付けるのには無理があった。
「何かがあるかもしれないな。気を引き締めていくぞ」
死んだミノタウロスに何があったと聞くわけにもいかない。
時間を使うだけアルケアンたちの状況が悪くなるだけなので考えるのもそこそこにして先に進むことにした。
魔力感知を広めに保って他にミノタウロスがいても先に感知できるように警戒する。
「ああっと……」
古くてしばらく人の手が入っていない坑道なので内部図には乗っていない崩落なんかもある。
どこかのタイミングで崩れたのだろう場所があって、そこは迂回路として通るつもりの道であった。
「ええと……こちらに行きましょう」
岩で道が塞がれてしまっているので仕方なくさらに迂回するように別の道を進んでいく。
こういう時には色々と道が伸びていることがありがたくもある。
「師匠……」
「いるな」
「またミノタウロス?」
ジケとグルゼイが視線を合わせたのを見て先に何かあるのだとエニは気づいた。
「多分そうなんだけど……」
「多分って何?」
「様子がおかしい……というか倒れてるんだ」
「倒れてる?」
魔力感知の範囲内にミノタウロスが入ってきた。
しかし様子がおかしく、ジケとグルゼイに見えているミノタウロスは地面に倒れて動いていないのである。
「一応明かりを消せ。ジケ行くぞ」
曲がり角とかではなくまっすぐ行った先にミノタウロスは倒れている。
距離的に明かりそのものは見えていてもおかしくない。
倒れているからといって死んでいるとも限らずまだ気づいていないだけの可能性もある。
魔道具のランプを消してジケとグルゼイでミノタウロスの様子を見にいく。
「……死んでいますね」
胸が上下していないので死んでいる可能性が大きいということは分かっていた。
近づいてみてもミノタウロスは何も反応を見せない。
念のためとグルゼイがミノタウロスの首を切り落とした。
「死んでいたで間違いないな」
ミノタウロスの心臓は強い。
生きているミノタウロスの首をはね飛ばしても心臓は動いていてピュッと血が飛び出す。
けれども倒れているミノタウロスは首を切り落としてもじんわりとしか血が流れない。
つまり首を刎ねる前から死んでいたから血が飛び出してこないのである。
「外傷はない……周りにも争った形跡は残っていない」
ジケにみんなを呼ばせに行っている間にグルゼイはミノタウロスを調べる。
うつ伏せに倒れたミノタウロスを足で仰向けにして体の様子を確かめる。
なぜここにいるのかは結論が出ないがなぜ死んでいたのかぐらいは観察で分かることもある。
ミノタウロスの体に傷はない。
生命力の高いミノタウロスはちょっとやそっとの攻撃では死に至らない。
なのに大きな外傷がないのである。
周りの壁や地面にも戦ったような跡もない。
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