ミスリル鉱山、何潜む3
「止まれ」
グルゼイがビリードの肩を掴んだ。
「な、なんですか?」
「ジケ」
「はい、分かってます」
ジケとグルゼイには何かが分かっている。
「この先に魔物がいますね」
「ま、魔物ですか……?」
「声を抑えろ。まだ向こうは気づいていない」
魔力感知によって坑道の先の方を警戒していたジケとグルゼイは細い道を抜けた先のやや広めの道に魔物がいることが視えていた。
「下がっていろ。ジケ、いくぞ」
「はい、師匠」
ビリードが壁に張り付くようにしてグルゼイとジケを通す。
剣を抜いて気配を殺してゆっくりと道を進んでいく。
ジケも抱えていたフィオスを盾にして剣を抜いてそっとグルゼイの後を追いかける。
「牛頭人身の魔物……ミノタウロスか」
広い道まで出るところまで来たところで相手のことをより詳細に観察する。
相手の魔物は牛の頭に大きな体を持っているミノタウロスという魔物だった。
「あまりこんなところにいる魔物ではないのだがな」
ミノタウロスは洞窟などを棲家とする魔物ではない。
森林や平原など外の環境で活動する魔物なはずなのにどうしてこんなところにいるのかとグルゼイは顔をしかめた。
「しかも目が見えていないようだな」
ミノタウロスはフラフラと歩いていて壁にツノをぶつけたりしている。
特に怪我をしている様子もないのでふらついている理由は目が見えていないからだろうと考えられた。
視力がないのではなく暗闇だから何も見えていないのだ。
普段外で暮らすミノタウロスは暗闇の中で生活する術を持っていない。
もちろん暗闇を見通す目を持っているはずもなく、他の手段でも暗闇に対応することはできない。
今ミノタウロスは手探り状態にあるようだった。
「なぜこんなところに?」
となると疑問に思うことが出てくる。
なんでこんなところにミノタウロスがということである。
ミノタウロスが気になって鉱山に入ることもあるかもしれない。
しかしそれでもきっと深入りはせず光が見えるうちに引き返すことだろう。
今いる場所は坑道でも奥の方になる。
内部図からすると簡単に入り込めるような場所ではなくミノタウロスが来るようなところじゃない。
迷子になったと単純に考えるのも無理がある。
「……まあいい。気づかれる前に倒すぞ」
魔物がどこから来たかなど後から考えることもできる。
今はミノタウロスがジケたちに気づいていないうちに先手を取る方が大事である。
「フォローしてやる。お前がやるんだ」
「わかりました」
明かりもなく魔力感知のみで強靭な相手と戦う。
良い経験になりそうだとグルゼイは思った。
先にジケが広い道に出てグルゼイが少し遅れて見守るように体を出す。
地面を蹴る音が聞こえてミノタウロスがハッと顔を上げた。
しかし狭い坑道の中では音が反射する。
あまり聴覚的に優れているわけじゃないミノタウロスは音の出どころが分からずキョロキョロと見回して音の発生源を探そうとする。
「ほぅ」
ジケは足元にあった石を蹴飛ばした。
飛んでいった石はミノタウロスの後ろの壁に当たって音を立て、ミノタウロスはサッと振り返って頭を守るようにガードの体勢を取った。
とっさの判断としてはいいとグルゼイも思った。
「狙うは……」
本当なら狙いたいのは頭である。
大体の生物にとって頭は弱点であり倒そうと思ったら狙うのが常識である。
ただ今ミノタウロスは頭をガードしている。
さらにミノタウロスの背は高くてジケでは頭を狙いにくい。
無理に攻撃して倒しきれなきゃ反撃の隙を作ってしまうかもしれない。
「足!」
ジケが狙ったのは足だった。
機動力を削ぎつつ相手の頭の位置を下げさせる狙いでガラ空きの右足に向かって振り抜いた。
魔力をしっかり込めて振り切ったジケの剣はミノタウロスの足を切り裂く。
切り裂かれた足が地面に倒れて、少し遅れて支えを失ったミノタウロスも地面に倒れる。
支えを探そうと手を伸ばすが壁にも届かずそのまま情けなく倒れて痛みに叫び声を上げる。
坑道内に響く叫び声に何が起きているのか分からないエニたちが若干ビクッとなっていたが、ジケは叫び声も気にせず倒れたミノタウロスに迫る。
「おっと」
何が起きているのかよく分からずとも攻撃されたことは分かる。
ミノタウロスは乱雑に腕を振り回して敵の接近を防ごうとする。
しかし見えていない中倒れた体勢で腕を振り回してもあまり怖くない。
「ふっ!」
ミノタウロスの抵抗をくぐり抜けてジケは剣を振り下ろす。
ジケの剣はミノタウロスの首に吸い込まれていき、スパッと一撃で切断した。
切り落とされたミノタウロスの首が転がっていきグルゼイの前で止まる。
「ふん、よくやったな」
もう少しまともな抵抗を見せてくれると思ったのにつまらないとグルゼイは小さくため息をつく。
「ほかの奴を呼んでこい」
「分かりました」
ジケがみんなを呼びに走っていく。
元々魔力感知に関しては優れた感覚を持っていることを認めざるを得ないが、もはや目で見ているのと変わりないほどに活動ができている。
「ふっ、可愛げのない弟子め」
グルゼイはツノを掴んでミノタウロスの頭を持ち上げると体のそばに投げ捨てる。
手助けする必要もなかった。
優秀なのはいいが少し面白みがない。
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