ジケとフィオスにできること5

「それで何をなさるんですか?」


 ジケができることがあるというのでここまでやってきた。

 けれど何をするのかまだ詳細は聞いていない。


「それをどうするのですか?」


 ジケは革袋の水筒を持ってきていた。

 中には水が入れてある。


「んー、リンデラン、この中少し冷やしてくれるか? 凍らない程度に」


「分かりました」


 変なお願いだなと思いながらもリンデランは水筒を受け取って中身を冷やす。


「ありがとう。よしフィオス、頼むぞ」


 冷えた水筒を受け取ったジケは抱えていたフィオスに水筒を渡した。

 フィオスは受け取った水筒を溶かすでもなくただ体の中に取り込む。


「これも頼む」


 ジケはさらに紙とペンとフィオスに与えて体の中に置いてもらう。

 そしてそのままフィオスを崩落した岩にそっと押しつけた。

 

 するとフィオスは岩の隙間に吸い込まれるように入っていく。


「え、ええ?」


 フィオスは何をしているのだと驚いたリンデランがジケを見る。


「まあ見てなって」


 ジケはニヤリと笑ってフィオスが消えていった隙間を眺める。


「…………まだかかるのか?」


「まあ最初は少しかかります」


「そろそろ何をしているのか教えてくださってもいいんじゃないですか?」


 リンデランが凍らせた温泉も新たに流れる温泉のせいで溶け始めている。

 グラジオラもリンデランも焦ったそうな顔をしている。


「見ての通りで物を向こうに届けてもらってるのさ」


「ものを届けて?」


「フィオスの体は柔らかい。コアとなる部分が通れる隙間があればどこでも通ることができる。体内に水筒なんかはコアよりも大きいけど隙間があればフィオスが上手く倒してくれる」


「だがそんな都合のいい隙間ばかりじゃないだろう」


「その通りです」


 グラジオラは崩落を見る。

 崩落した岩はやや大きく隙間が目立つ。


 それでもフィオスはともかく岩の隙間が奥に進んでも水筒を通せるほどの大きさがあるとは思えない。


「全ての隙間が水筒を通せるほど大きくはないですね。ですがフィオスには柔らかい体以外にも大きな能力があるんです」


「能力? スライムにか?」


「スライムだからってバカにしたもんじゃないですよ」


 グラジオラは不思議そうな顔をした。

 ジケは気を悪くすることもなく笑顔を浮かべる。


「フィオスにはなんでも溶かすことができる能力があります」


 美味しいお肉から果てはアダマンタイトというとても硬い金属までフィオスの前では溶かされてしまう。

 岩なんてフィオスにとっては邪魔するものとなり得ない。


「大きな穴を開けると危ないでしょうけど、隙間を広げてフィオスと水筒を通すぐらいなら崩落に影響を与えることはほとんどないと思います」


 崩落の岩の中でフィオスは少しずつ前に進んでいる。

 柔軟に形を変えて比較的大きな隙間を探し、水筒が通れないのなら少しずつ隙間を溶かし広げていく。


 ジケは魔力感知でフィオスの様子を見守っていた。

 仮に溶かして崩壊してしまったらその時はフィオスを召喚して呼び戻すつもりである。


「フィオスならできそうですね」


 スライムということでグラジオラは懐疑的だがリンデランはフィオスの能力を疑っていない。

 きっとフィオスならアルケアンに水を届けてくれるはずだと信じている。


「……たどり着いたみたいだ」


 隙間から隙間へと移動していたフィオスがとうとう向こう側に抜けていった。

 急に現れたスライムにアルケアンたちが届いていることをジケは魔力感知で視ていた。


 ただアルケアンもジケの魔獣がスライムであることは知っている。

 ジケが見学に来る予定なことも知っているのでもしかしたらとフィオスに近づく。


 フィオスがぺっと水筒と紙をアルケアンの前に吐き出すとアルケアンは驚きつつも紙の方を先に手に取った。

 紙には無事を尋ねたり現在の状況を伝えるメッセージが書いてあり、返信用の紙も一枚同封されている。


 フィオスを使って水を送ったことも書いてあってアルケアンは嬉しそうに顔を綻ばせた。

 暑さで汗だくになっているアルケアンだがまだ冷たい水を他の人に先に分け与えている。


「フィオス、戻っておいで」


 アルケアンが返事を書いてフィオスに持たせる。

 なのでジケはフィオスを召喚して呼び戻した。


 フィオスの中には折り畳まれた紙が入っていて、ジケの手の上にそっと吐き出してくれる。


『全員命に別状なし。怪我人が数名。気温が高くて体力の限界が近い。魔物はいない』


 アルケアンは短くしっかりと状況を書いて伝えてくれた。

 怪我人はいるようだがジケの魔力感知通りに全員生きているようだった。


「リンデラン、まだ希望はありそうだ」


「……はい!」

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