ジケとフィオスにできること4

「ジケさん、生存者がいるとお伺いしました」


 リンデランのおかげでぼんやりとしていた頭も熱が抜けてはっきりとしてきた。

 そこにグラジオラがツケアワシとヘギウス商会の代理責任者を連れてきた。


「生存者……おじ様は生きているんですか!」


「多分ね」


 ジケの感知では崩落した岩を見ていた人がアルケアンであった。

 立って動いている以上怪我もなく無事である可能性が大きい。


「じゃあ助けなきゃ……!」


「そうですね。ですが焦りは禁物です」


「助けるのもそうですが……何か水ぐらいないとキツイかもしれないですね」


 坑道の中の状況は過酷だった。

 温泉は向こう側に流れ出していなかったのでジケたち側ほどではないにしても隙間があるので熱気は伝わっているだろう。


 水すらなく気温の高い中に放置されるとかなり厳しい。

 せめて水や食料ぐらいなきゃ助ける前に倒れてしまうかもしれない。


「それも確かにそうだな。だがそれすらも難しい……」


「これに関しても一つ考えがあるんですけど」


「まだ何かあるのか?」


 崩落の向こう側に生存者がいると確認できただけでも大きい。

 さらにまだできることがあるというのだからグラジオラも驚いた。


「へへ……次はフィオスの番です」


 ジケはタミが抱えているフィオスを呼び寄せる。

 ぴょんとジケの膝の上にフィオスが飛び乗った。


「スライム……? スライムが何をするのだ?」


「フィオスは色々できるんですよ」


 ーーーーー


「フウレイ」


「スイレイ」


 タミとケリが自身の魔獣を召喚する。

 姉であるタミは風の妖精であるフウレイを、妹であるケリは水の妖精であるスイレイをそれぞれ呼ぶ。


 まるでタミとケリのように瓜二つの青と緑の妖精は呼び出してもらえたことが嬉しいようにフィオスの周りをぐるぐると回っている。

 相変わらずフィオスは他の魔獣と仲がいい。


「二人ともいけそうか?」


「うん!」


「いけるよ!」


 タミとケリに魔獣を呼び出してもらったのには理由がある。


「風よ吹き込め……」


「水は出ておいで……」


 そっと手を繋いだタミとケリは行動の入り口の前に立つ。

 二人が手を伸ばすと真面目な顔をしたフウレイとスイレイがタミとケリを真似するように片手を手を合わせて、もう片方の手を坑道に向かって伸ばす。


 タミとケリはまだ魔法を使えない。

 ただ魔獣の力を使うことはできる。


 ジケが残された生存者に対して行動を起こすのはいいのだがなんせ温泉のせいで坑道の中が過酷すぎる。

 そこで少しでも楽になるようにタミとケリの力を借りることにした。


 双子の力によって坑道内に満ちている湿度が高くて高温の空気を追い出してもらうのだ。


「いっけー!」


「はぁー!」


 タミとケリの魔獣であるフウレイとスイレイが魔法を使う。

 フウレイは外から強く風を吹き込ませ、スイレイは空気中の水分を引き寄せて外に出す。


 こうすることで一時的にでも坑道内の空気を動かして気温を下げるつもりであった。


「うわっ!」


 ムワッとした空気が押し出されて出てくる。

 一気に空気の温度が下がったためかあたり一面が真っ白い水蒸気に包まれてせっかく着替えたのにまた汗が出てきてしまう。


 本当ならこうした作業も大人がやるべきである。

 しかし鉱山で働く人の多くは魔獣が弱くて魔力も多くない人が多い。


 魔法を学んでいない人も大多数であり、魔法的なアプローチで解決することが難しかった。

 ただ今は優秀な魔獣を持つ仲間がいるのでみんなの力も借りることにした。


「二人とも、もういいぞ」


「ふはー!」


「ふぅー!」


 魔獣が力を使いすぎると契約者に反動が返ってきてしまう。

 水蒸気の白い煙が弱くなってきたところでジケはタミとケリを止める。


 タミとケリは噴き出す水蒸気の暑さと力を消費したことで汗をかいている。


「お疲れ様」


 ジケはタオルを渡そうとするがタミとケリは一度視線を合わせて目をつぶって顔を差し出した。


「ちゃんと自分でも拭くんだぞ」


 ジケは笑いながら軽くタミとケリの額の汗を拭いてあげる。


「よしいけるか?」


「はい!」


 次はリンデランも引き連れて鉱山に入る。

 タミとケリのおかげで空気が入れ替わって気温がグッと下がっている。


 最初の時よりもだいぶ楽な感じがしていそうだった。


「行きます!」


 一歩鉱山に足を踏み入れたリンデランは魔法を使う。

 すると流れる温泉が凍り出した。


 氷の魔法を得意とするリンデランには坑道の空気をさらに冷やすために少し頑張ってもらう。

 噴き出す熱い温泉にかかればたとえ凍らせても長くは持たないだろう。


 しかし作業する間だけでも温度が下がって、生存者側も少しでも楽になればとリンデランは頑張る。

 温泉が凍っていって坑道内の温度はかなり落ち着いた。


 崩落現場に向いながらもリンデランは魔法を使って温泉を凍らせていっていた。


「ここが……ダメです。勢いのほうが強いみたいです」


 崩落した場所まで着いてリンデランは噴き出す温泉を凍らせようと試みるが、噴き出す温泉の方が勢いがあって凍らせてもすぐに溶けてまた出てきてしまう。

 強く力を使えば中まで凍らせることもできるだろうがそうした時に崩落にどんな影響があるか分からないのでそこまではやらない。

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