ジケとフィオスにできること3
「少しずつ……ゆっくりと……」
岩の隙間を見つけて進んでいく。
焦ることもなく顔を流れる汗も魔力感知に集中すると気にならなくなっていく。
グラジオラからして見ると何をしているのか疑問であるが何かをしている様子なので黙って見ている。
「……見えた」
幸い崩落した岩は大きいカケラが多く隙間も多かった。
魔力感知を広げていったジケは崩落の向こう側まで感知範囲を広げることに成功した。
まだぼんやりと向こう側に空間がある程度にしか感知できていない。
さらに集中を高めて向こう側に何があるのか詳細に視ようとする。
意識を集中させるとだんだんとぼんやりと感知していたものがはっきりしてくる。
「一人……二人……合わせて五人いますね」
崩落の近くに人の姿があった。
崩落した岩を見つめる者、壁に寄りかかって座る者などそれぞれ動いていて生きているようだ。
「五人……数は合うな」
崩落によって行方が分からなくなった人は五人。
ジケが感知したのも五人で数は合う。
「本当に向こう側に人がいるんだな?」
「はい」
崩落の岩向こうであることと温泉の蒸気が満ちているために詳細な状態までは把握できないが五人いて生きていることは確実だ。
「……本当に状況が分かるのだな? 崩落している規模はどれぐらいだ?」
「えっと……」
ジケは崩落している長さや岩の詰まり具合などをグラジオラに伝える。
「ふむ……ともかく生存者がいることは分かったな。すぐにでも救出のために作戦を練らねばならない」
ジケの能力が本当なのかグラジオラには分からない。
しかし今はジケを信じる他になく崩落によって取り残された人たちが生きていると念頭においてこれからの計画を立てていくことに決めた。
「とりあえず外に出よう。もう限界だ」
坑道ないの熱気は相変わらずだ。
もはや全身汗だくでブーツの中も汗で濡れてしまっている。
このまま坑道の中に留まれば倒れてしまいそう。
「あっと……」
「大丈夫か?」
茹るような暑さで子供のジケの方が体力を奪われていた。
足がもつれて倒れそうになってリアーネがサッとジケを支える。
「ほら、乗れ」
「そんな……」
「いいから。倒れてお湯ん中に入る方が危ない」
リアーネは膝をついてジケに背中を差し出す。
背中に乗れというのである。
ジケは遠慮するけれど暑さにやられて若干意識がクラクラとしてきた。
無理をして倒れるなど本末転倒であるし、今倒れると地面を流れる熱々の温泉に突っ込んでしまうことになる。
仕方ないのでジケはリアーネに背負われることにした。
気でも失って抱きかかえて外に運ばれるよりはよほどいい。
「こんな軽いのによ、よく頑張るよな」
当初よりもジケは大きくなった。
それでもまだ子供である。
背負ってみると思っていたよりも軽くて、ジケの方に乗っているものを考えた時にリアーネは少し驚いた。
「何の責任もなきゃ楽なんだけどな……色々やることはあるし……色々放っておけないんだ」
「ふっ、損な性格してるよな。だけどそのおかげで私は救われたからな」
ジケはよくトラブルに巻き込まれているとリアーネは思う。
自ら首を突っ込むものもあるが望んでいないのに巻き込まれてしまったものも多い。
リアーネのことはジケが首を突っ込んできてくれた。
そのおかげで孤児院は今いい状態で運営されている。
神に感謝を捧げるならジケに感謝を捧げるとリアーネはいまだに思っている。
「こうして騎士にしてもらって、安定した金もらって……感謝してるよ。でもさ……あんまり無茶すんなよ。お前は私にとっても、みんなにとっても大切な人だから」
「ありがとうリアーネ。ほんと良い人だよな」
「ばっ……そんなんじゃねえよ」
リアーネの耳が赤くなる。
「ほら……もうすぐ外だぞ」
先の方に光が見えた。
「おっ、出てきたぞ!」
「ジケ?」
「ジケ兄、大丈夫?」
「ジケお兄ちゃん、ビシャビシャ!」
リアーネに背負われたジケが鉱山から出てくるとみんなが駆け寄ってくる。
「体がすごい熱くなってます! 待ってくださいね!」
「あぁ〜……」
ジケは暑さで赤ら顔になっている。
リンデランはジケに触れてその熱さに驚く。
これは危ないと魔法で冷風を出してジケの体を冷やしてあげようとする。
リンデランの手から冷たい空気が発せられてジケは心地よさような顔をする。
「…………」
「……意外と良い体してるよね」
「ひゃい!? そそ、そんなこと!」
「リンデラン?」
ジケやリアーネが全身汗だくなのを見てミュコが慌ててタオルを取りに行って戻ってきた。
ジケとリアーネのことを冷やすリンデランの視線は服が汗でピッタリと体に張り付いているジケに向いていた。
体のラインがはっきりと分かる。
一番最初に出会った時には自分よりも小さいぐらいの細い男の子だったのにいつの間にか結構がっしりしていると思っていた。
そんな視線を見抜いたようにミュコに声をかけられてリンデランは顔を赤くして動揺してしまった。
「ななな、何でもありません!」
リンデランは視線をあさっての方向に彷徨わせる。
どことなく冷気が強くなったような気がするなとジケは感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます