ジケとフィオスにできること2

「助け出す準備は進めていますが過酷な環境に加えて崩落の状況も調べられない……かなり難しいようです。せめて生存者がいるかどうかだけでも分かればいいのですが……」


 生存者がいるいないで作業は変わる。

 いるだけでも希望になるしどうにか方法はないものかとツケアワシはため息をついた。


「どうにか方法はないのですか?」


「今多くの人がどうにかしようと頭を悩ませています。ただ鉱山内に温泉が噴き出すなんて初めてのことですので……」


 温泉が崩落にどれほどの影響を与えたのかすら今はまだ分からない。

 どう対処すべきか普段鉄鉱山で働いている熟練の坑夫たちでも分からないのだ。


「……あの」


「何でしょうか?」


「俺にできることがあるかもしれません」


 ーーーーー


「すごいな……」


「こんな状況じゃなけりゃ嬉しいもんなんだがな」


 魔物の皮で作った硬いヘルメットを被りジケは顔をしかめた。

 強い熱気が洞窟の中から漏れ出している。


 ジケにも、あるいはジケだからできることがあるかもしれない。

 協力を申し出るとツケアワシは難色を示した。


 そりゃあお客様を危険なことに巻き込むわけにはいかないのはジケも理解する。

 けれどできることがあるかもしれないのに放ってはおけない。


 採掘を担当している作業員のリーダーのグラジオラは手伝いたいというジケに対して反対することなく、やらせてみればいいじゃないかとツケアワシを説得した。

 崩落の向こうに残された人がいるなら時間は少ない。


 たとえ危険でも何か考えがあるならやらせてみてもいいと柔軟に考えていた。


「悪くないお湯だが今ばかりはただ邪魔だな」


 グラジオラは鉱山から流れ出る温泉を見てため息をつく。

 温泉の質はともかく流れ出る量は申し分ない。


 鉱山のすぐそばに出たのなら帰り、下手すれば休憩にだって温泉に入れるかもしれない。

 何の事件もなければ喜ばしい出来事であった。


「靴は大きくないか?」


「大丈夫です」


 温泉は足首ぐらいの高さがある。

 さらには温泉というだけあってかなりの高温だ。


 足を突っ込んで進んでいくのは厳しい。

 そこで魔物の素材で作られた防水性のあるブーツを着用して温泉の中を進んでいく。


 水などが漏れ出した時に使うもので当然ながらジケ用のサイズなんてものはないので大人用のものをジケは履いていた。


「本当に崩落現場までいくんだな?」


「はい。まだ分からないですけど助けになれる可能性があります」


「なら行こう。他の奴らが心変わりしない間にな」


 グラジオラが振り返る。

 少し離れたところにみんながいてジケのことを心配するように見ていた。


 ツケアワシもいまだに納得していないような顔をしているしアルケアンの代わりのヘギウス商会の責任者も渋い顔をしていた。

 あまり時間をかけると気変わりして止めに来てしまいそうだとグラジオラは思った。

 

 止められる前にとジケはリアーネを連れてグラジオラの先導で鉱山の中に入っていく。


「これ履いてても足が熱いし、空気が暑いな……」


 リアーネは顔をしかめる。

 まだ入ったばかりなのに空気は蒸気で暑く、足は温泉で熱く汗が吹き出してくる。


 防水性のあるブーツは温泉の侵入を防いでくれるけれど熱までは防いでくれない。

 温泉の熱によってブーツの中はあっという間に蒸し風呂になってしまう。


「大丈夫か?」


「大丈夫です」


 崩落した場所はそれなりに奥にある。

 坑道を奥に進んでいくほどに入り口から離れて温度と湿度が上がっていく。


 大人でも過酷に感じられる環境なのだ、子供にはさぞかし辛かろうとグラジオラがジケに視線を向けた。

 しかしジケは滝のような汗をかきながらも弱ったような表情はしていない。


 強い子だなと感心してしまう。

 湿度が高すぎて壁につけてある松明は消えてしまっているのでグラジオラが持っている魔道具のランプの明かりが頼りになる。


 温泉のせいで足元が見えにくく転ばないように慎重に歩く。


「あそこが崩落現場だ」


 グラジオラがランプを高く持ち上げる。

 少し前の方が崩れた岩で塞がれている。


 岩の間からは温泉が染み出していて、これが外に流れ出しているもののようであった。


「それでどうするんだ?」


 何度来ても崩落は現実に起きていて無くなりはしない。

 温泉が噴き出す音が地鳴りのように聞こえていて長くいると耳までやられてしまいそうだった。


「俺は目に頼らず周りを見ることができるんです」


 音で崩落の向こう側の様子が分からない。

 そのために生存者がいるかどうか分からず困っている。


 ならば音ではない方法で向こう側を見ることはできないだろうかとジケは思った。


「目に頼らず……?」


 グラジオラは何のことか分からないようだが説明するのも難しい。

 ジケは崩落に近づくとそっと岩に触れる。


 そして目を閉じて意識を集中させる。

 崩落した岩の隙間を見つけて少しずつ感知を広げていく。


 魔力感知も万能ではない。

 開けている場所があれば壁の向こう側でも感知できるが完全に閉じてしまうと難しくなる。


 崩落も隙間がないように埋まってしまうと向こう側まで感知を広げるのは厳しいが少しでも隙間があるなら向こう側を視ることができるとジケは自信があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る