ジケとフィオスにできること1

「こんな形で鉱山の場所知ることになるとはな」


 もっと平和的に、外から眺める程度の見学で終わる予定だったのに予想外の事件が起きてしまった。


「それにみんなしていくことも……」


「何か役に立てることがあるかもしれないって言ったのはジケでしょ」


 鉱山の見学もジケとライナスぐらいが行って、みんなには観光なり何なりと楽しんでもらうつもりだった。

 しかし鉱山までみんなで行くと言うのでみんなで向かっている。


 誰かが何かできるかもしれない。

 リンデランが深刻そうな顔をしているのでみんな助けになれることがあるかもしれないと同行を申し出たのだ。


 エニを始めとしてタミとケリ、ミュコも優秀な能力を持っているし助けになれることがある可能性もある。


「皆さん……ありがとうございます」


 リンデランも感動を禁じ得ない。

 こんな状況で感動してはいけないと思うのだけど、みんながリンデランのためにと支えようとしてくれることは嬉しくて仕方ない。


 喜んじゃいけないと思うけど嬉しくて顔がほころびそうになる。


「今は今で喜んでもいいと思うぞ」


 喜ばしいことがあれば喜べばいい。

 もし仮に悲しいことが待ち受けているのだとしても今は今なのだ。


 悲しいことが起きた時に悲しめばよく、悲しいかも分からないのに感情を押し殺しておく必要はない。


「そう……ですね。皆さんありがとうございます!」


 リンデランは笑顔を浮かべた。

 このように自分を思いやってくれる友達がいるのはいいものだ。


 不安が胸の中で広がるけれどそばに友達がいるだけでもずいぶんと心の重さは違う。


「きっとおじさんも助かるよ」


「……はい」


 ジケたちは馬車で移動しているがツケアワシは馬で先に鉱山に向かった。

 今はツケアワシが信頼している騎士が先導してジケたちを鉱山まで案内してくれている。


 ツケアワシへの報告はまだざっくりとした情報であり詳細はわからない。

 ただ死んだという断定的な情報もないのでまだ希望はある。


 暗い顔ばかりしているのにも早すぎるのだ。


「リンデランこそ無事を祈って、無事を信じてやらなきゃ」


「……そうですね」


 今から悲観的になる必要はない。

 まだ助けられると思っていた方が精神的にもいい。


 重たい表情をしていたリンデランも考え方を変えることにした。

 きっと無事だろう。


 崩落に巻き込まれたとしてもきっと助けられると思えるような気がした。


 ーーーーー


 クンジェイルという町がある。

 コウシやムロワカほど栄えた町ではないがそれなりに規模の大きな町である。


 なぜならクンジェイルの近くには鉄鉱山がいくつかあって採掘作業に従事している人が多く住んでいるために大きめの町になっていた。

 コウシの方が古くから職人の集まる町であったので職人の町としては発展せずそれなりの規模でとどまっているのだ。


 クンジェイルの近くにある鉄鉱山のうちの一つが実はミスリル鉱山なのであった。


「状況はどうなんですか?」


 ミスリル鉱山ではいまだに落ち着きなく人が動いていた。

 鉱山近くに張られた大きなテントの中で先に到着していたツケアワシに話を聞く。


「中々複雑な状況です」


 ツケアワシによると崩落そのものはあまり大きなものではなかった。

 以前崩れたところとは別の坑道をしっかり固めるようにして作業を進めていた。


 なので今回崩落した部分も大きくはならなかった。

 坑道の一部が崩れて道を塞いでいる形になっていて、崩れた部分に生き埋めになるような人は少ないだろうとのことだった。


「じゃあアルケアンさんも?」


「まだご無事である可能性は高いでしょう。しかしそう簡単にはいかないのです」


 ツケアワシは立ち上がるとテントの入り口をパサリと開く。

 ちょうどテントの入り口からはミスリル鉱山が見える位置にあった。


「あれが見えますか?」


「煙が上がってますね」


 ミスリル鉱山の一部から黙々と白い煙が上がっているのが見えている。


「あれは湯気です」


「湯気……」


「温泉が噴き出していて、そのせいで今坑道は湯気が充満しています」


 崩れたところから温泉が出ていて今坑道から外に流れ出している。

 高温の温泉から立ち上る湯気は坑道の中に充満している状態になっていた。


「あの温泉のせいで色々なことが難しくなっているのです」


 温泉のせいで地盤が緩んでいる。

 熱々の温泉が流れてくるので作業がしにくく、湯気が満ちているために坑道は蒸し風呂状態だった。


「崩落の向こうに人がいるのか確認したいのですが湯気のせいで分からないのです」


「どんな方法なんですか?」


「音を使うのです」


 生存者がいるなら急ピッチで作業せねばならない。

 仮に生きている人がいないのなら安全を重視して作業を進めたい。


 だから生存者がいるのか確認したいのだが生存者確認すら容易ではない。

 こうした事故の時小規模な崩落なら魔獣の能力を使って崩落の向こう側を確認する。


 その方法とは音を使って向こうに人がいるのかを確認するのであるが、立ち上る湯気や温泉が噴き出す音のために音での確認が行えないでいる。

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