問題と温泉が噴き出して4
「どうやらミスリル鉱山で事故が起こったようです」
「ええっ!?」
嫌な予感がするとはちょっとだけ思っていた。
「どんな事故が?」
誰かがちょっと指を切ったなんて軽い話ではなさそうなことは分かっている。
問題はどんな事故が起きたかということだ。
「ミスリル鉱山の坑道の一部が崩れたようですね。詳しいことは分かりませんが魔物が出て温泉が噴き出したようです」
「…………はい?」
「ど、どういうことですか?」
短い文章の中で情報量が多い。
ジケもリンデランもどういうことなのかと困惑する。
「聞いた話によるとミスリル鉱山の中に魔物が残っていたようです。崩落しないようにしっかりと道を作りながら掘り進めていたのですが魔物との戦闘で坑道に衝撃が加わり温泉が噴き出したようです」
ここまで聞けば多少笑い話にも聞こえる。
しかし話はそれだけで終わらなかった。
「温泉が噴き出したせいで坑道が崩れてしまったようなのです」
そもそも温泉が噴き出してくるなんてこと想定していなかった。
温泉のせいで緩んだところが崩落して騒ぎになってツケアワシに報告が飛んできたということのようである。
「それで作業をしていた人は無事なんですか?」
事故が起きたから見学は無しだろうなとかミスリルの採掘が先延ばしになるだろうなんてことはさほど重要ではない。
鉱山で作業していた人たちが無事なのかということが気になった。
以前ミスリル鉱山が廃坑になったのもミスリルが残り少ないと思われていたこともあるし、何より大きな事故があって犠牲になった人が多かったからという理由もあるのだ。
大きな崩落で死傷者が出てしまったら大変である。
「そちらについても詳細は調査中ですが……」
ツケアワシは何か言いにくそうな顔をする。
「その……アルケアン殿が崩落に巻き込まれたようだと……」
「おじ様が?」
リンデランに衝撃が走る。
アルケアンとはウェルデンの息子、リンデランのおじに当たる人であった。
先日ヘギウス家の食事会に参加した時にもいた人で、ウェルデンをより柔らかくしたような笑顔を浮かべる人だったことをジケは記憶している。
アルケアンも当然商人として活動している。
まだウェルデンが現役で活動しているので全てではないもののヘギウス商会の一部はアルケアンが任されていた。
今回のミスリルについても現場ではアルケアンが指揮をとっていたのだが崩落に巻き込まれたのである。
「ご無事であられるのかということも分かっておりません。これから私も鉱山に行って状況を確認しようと思っています」
「……私も行きます!」
「リンデラン嬢……」
「おじ様の危機なのに黙ってはいられません。何か……私にも何かできることがあるかもしれません」
両親がいないリンデランは家族を失うということに人一倍の思いがある。
アルケアンにも子供がいる。
親を失う悲しみは身をもって知っているリンデランとしては黙っていられなかった。
「俺も行きます」
「ジケ君?」
リンデランを一人で行かせるわけにはいかない。
ジケだって一応出資者である。
ここまできて問題をただ見ているだけというのも歯痒さがある。
「何もできないかもしれません。でも何かできることがあるかもしれない……近くにいれば間に合うこともあるかもしれません」
「ジケ君……ありがとうございます」
「いいさ、こんな問題に黙ってるだけなのは辛いからな」
リンデランはウルッとしてジケを見る。
「……分かりました。では準備をして鉱山に向かうといたしましょう」
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