ミスリル鉱山、何潜む1

 アルケアンからのメッセージを受け取ったことにより多少ジケの能力を疑っていた人たちも生存者がいることを確信した。

 ジケは坑道を往復し、フィオスは崩落の岩場を往復してアルケアンたちに物資を運んだ。


 水や食料、体を冷やせるようにリンデランが作った氷など少しずつではあるけれどフィオスは体の中に色々と入れて隙間を通ってくれたのである。

 グラジオラ以外もスライムであるフィオスにそうした能力や知能があることに大きく驚いていた。


「フィオス、お疲れ様」


「はいどーぞ」


 リンデランの魔法で凍らせた温泉も次々と熱い温泉が流れ出してくるので長くは持たなかった。

 すぐに氷が溶けてまた坑道内の気温が上がり始めてジケも熱い中で頑張って作業を繰り返した。


 一通り物を運び終えてジケとフィオスも休憩する。

 タミとケリがフィオスに労い代わりのお菓子をあげている。


「ひとまずこれで多少は大丈夫だろうが救出の手段を考えねばならないな」


 怪我人もいるということだったが崩落の岩が当たって切り傷擦り傷があるぐらいのようだった。

 一人ざっくりと腕を切った人がいたらしいのだけど、フィオスがポーションを出して治療したので怪我人問題も解決した。


 後の問題はどう救出するのかである。


「ジケ様には申し訳ありませんがもう少しこちらに滞在いただいてお手伝い願いたいのですが」


「もちろんです」


 ジケがいないとアルケアンたちに物資を運べない。

 本来関係のないジケに協力を要請するのは気が引けるけれど他に方法もない。


 ツケアワシのお願いにジケは快く頷く。


「他の道はないんですか?」


 崩落した岩を今すぐどけることは難しい。

 ならば別の方から崩落した向こう側に繋がる道はないのかとリンデランが尋ねた。


「それも今考えています。封鎖される前の鉱山の内部図を探しているところですのでもしかしたら迂回路があるかもしれません」


 もちろん別の道があることはツケアワシたちも考えていた。

 以前廃坑になる前鉱山の中には広く坑道が広がっていた。


 ミスリルがどこにあるのかも詳細に分かっていなかったので色々と広げて掘り進めていたのである。

 どこかで繋がっていて回り込んで助け出せる可能性があった。

 

 しかし封鎖される前に使われていた坑道は細かく伸びていて今現在はメインの道しか把握していない。

 廃坑になったのもだいぶ前であるし細かな資料はツケアワシのところにあった。


 今はその資料を取りに行かせているところで、今後迂回路を探してみる予定なのである。

 もちろん崩落を取り除く計画も考えている。


「それに魔物の存在も不可解です」


「不可解……? どうしてですか?」


「鉱山の中の魔物はしっかりと倒したはずでした。他の出入り口は封鎖してありますし入り込むことはできません。隠れていた可能性もありますが……」


 万全を期して魔物の討伐を行なった。

 それなのにどこに魔物が隠れていたのだとツケアワシも謎に思っていた。


「今回のことが片付いた後も調査が必要かもしれません」


 ーーーーー


「協力をお願いしたいのです」


 クンジャイルの町でジケたちは休んでいた。

 十分な量の物資をアルケアンに送ったけれどまだ必要になるかもしれないのでクンジャイルで待機しているのだ。


 そこにツケアワシが訪ねてきた。


「協力ですか?」


「ジケ様の能力を見込んでお力を貸していただきたい」


 旧坑道の内部図が届いて迂回路はないかとツケアワシたちは内部図と睨み合った。

 ルートを検討した結果アルケアンたちのところまでぐるりと回っていけそうな道があったのである。


「どうして俺に?」


 ツケアワシとしてはジケを巻き込むことにあまり消極的であった。

 お客様であるジケに協力をお願いするのも申し訳ないし鉱山での作業はリスクを伴うからだ。


「危険なことは重々承知です。ですがジケ様のお力があればリスクが減らせるかもしれません」


 ジケの力を借りたい理由は魔物がいるかもしれないからであった。

 坑道というのはしっかりと計画を立てて綺麗に広げていくべき物であるが、かつて掘られた坑道は当時の坑夫が我先にミスリルをみつけようと坑道をあちこちに広げた。


 結果色々と脆くて崩れたりしたわけである。

 しかしそのおかげで色々なところに道が繋がっていた。


 ただ今回の崩落は魔物がいたことがそもそもの原因で起こったもので、まだ魔物がいる可能性を排除できない。


「ミスリル鉱山には厄介な性質が一つあって魔道具や魔法が扱いにくくなるのです」


 ミスリルが多くある場所には特徴がある。

 魔道具や魔法が上手く使えなくなるのだ。


 魔力を伝達しやすい性質を持つために魔道具や魔法の魔力を吸収してしまう。

 魔法は維持が難しく、魔道具もすぐ魔力切れになったり効果が弱くなってしまうのである。


「今回迂回して行けるルートは鉱山のかなり奥まで入ります。一部の場所ではミスリル鉱石があるところに近くて明かりの確保が難しいかもしれないのです」


「そこで俺、ですか」


 普通なら松明に火をつけて持っていく。

 今回もそうするつもりであるがどのような不測の事態があるか分からない。


 そこでジケに助けを借りたらどうだろうかという話になった。

 目で見ずともジケは周りを視ることができる。


 ジケの能力ならば暗い坑道でも活動できる。

 魔物が出るかもしれない状況ではぴったりなのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る