男臭さ
「おらっ!」
「くっ! なんの!」
「ぐわっ!」
「へへっ! 俺の勝ちー!」
「だぁ〜! 負けた〜!」
フィオス商会に来ることになったイカサは日々商人としての手伝いをしたり計算を習ったりと楽しく過ごしていた。
ただ頭を使うばかりでもなく体も動かしている。
せっかく同年代の子が来たのだし神炎祭では戦うことができなかったのでイカサも時々ジケの鍛錬の手合わせに参加していた。
さらに今はミスリル見つけるまで帰ってくるなと言われているライナスも家にいる。
ならどうなるのか予想するのは難しくない。
ライナスとイカサの戦いが勃発した。
きっかけはイカサがチラリとジケのライバルを自称したことだったらしい。
流石のライナスもそれには聞き捨てならなくてライナスとイカサの戦いになったのである。
ということで始まったジケのライバル合戦だったのだけどたった今勝負がついた。
「昔からジケのライバルはこの俺だって決まってんだ! はーはっはっはっ!」
勝ったのはライナスだった。
師匠の技なんて使わずに勝ってやると言っていたのに最終的にはしっかり技を使っての勝利である。
それたけイカサも強かった。
勝ち誇った顔をして大笑いするライナスにイカサは悔しそうにしている。
技さえ使わなかった勝負はわからなかったぐらいであるとジケは見ていて感じた。
ともあれ今回勝ったのはライナス。
名実ともにライナスがジケのライバルなのである。
「ただ良い勝負だったぜ……」
ライナスが尻もちをついたイカサに手を差し出す。
「……さすがジケだな。周りにいるやつも普通じゃないな」
イカサだって自分が一番だなんて思っていない。
神炎祭ではジケに当たる前に負けてしまったしウラベにも勝てないだろう。
当然ウラベに勝ったジケにも勝てないだろうけどそれなりに強い自信はあった。
けれども上には上がいる。
「ジケもすごいけど俺もすごいんだぜ?」
ライナスが勝って何故かイカサの中でジケの評価が上がっている。
だけどライナスだってロイヤルナイトというすごい人の弟子なのである。
「……そうだな」
ちょっとだけ認めたくない感じはあるけれど負けは負けである。
プライドにこだわって自らの目を曇らせて相手の本質を見誤れば商人としての失格だ。
イカサは悔しさを飲み込んでライナスの手を取った。
「ただ俺はジケの右腕になるんだ」
「……右腕?」
「そうだ。ただのライバルじゃない……頼り頼られるジケの、フィオス商会の右腕になるんだ!」
ライバルの座は明け渡すがイカサの目標は別のところにあった。
ジケには拾ってもらった恩がある。
フィオス商会のやり方は自由でありながら扱う商品はフィオス商会独自のもので我が道を行っている。
決められたものを決められたように売り買いするだけとは違うフィオス商会で働けることはドキドキとする。
ジケのライバルにもなりたいけど今の目標はジケの右腕であった。
フィオス商会にはもっと大きくなる可能性がある。
フィオス商会でならイカサも大成できるかもしれないという希望がある。
いつかフィオス商会がもっと大きくなった時に頼れるジケの右腕になるんだというのがイカサの今の目標であった。
確かに今のフィオス商会には商人としてフィオス商会のこれからを担ってくれるような若手はいなかった。
イカサがそうした存在になってくれることにはジケも期待している。
「はぁー、なんか男臭い」
「男臭くて良いだろ?」
二人の戦いを見ていたエニが呆れたようにため息をついた。
なんで男二人してジケを取り合っているのだ。
「汗臭いし男臭い」
シラーッとした顔をしてエニはフィオスのことを揉んでいる。
「ふふ、たまにはこんなのもいいんだよ」
「あんたは取り合いの中心だからね」
「モテる男はつらいぜ」
「なーに言ってんだか。ねー、フィオス?」
なんにしてもイカサはこちらの生活に馴染めそうで安心した。
どれだけ人が増えようとライナスとエニは特別な関係なので二人が嫌じゃないのならそのままでもいいだろう。
「また賑やかになった。それはいいことだろ?」
「賑やかなのはいいけどさ。もうちょっと……二人だけの時間とか、欲しかったり?」
「なんだって?」
「なーんでーもなーい!」
「……? まあいいや。今度甘いもんでも食いに行こうぜ。いいとこ見つけたんだ。みんなにゃ内緒でな」
「……ホントずるい」
「じゃあみんな」
「違う! こっそり行こ!」
「ああ、そうするか」
「もう一戦だ!」
「何回挑んでも変わらないぞ?」
賑やかな日常。
「次は俺とやろうぜ」
「あっ、じゃあ俺と!」
「こっちが先だろ!」
「ほーんと男臭い……ミュコんとこでも遊びに行こっかな」
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