お食事会3

「なるほど……あまりにもタイミングが良すぎたので勘違いしてしまいましたね。ともかくかつてミスリル鉱山があって今は廃坑になっているのですが、それにもワケがあるのです」


「ワケ……ですか?」


「元々鉱山におけるミスリル埋蔵量はさほど多くないだろうと言われていました。そこでミスリル連合の許可や国の思惑の下、ミスリルの採掘は早いペースで行われたのです」


 当時国の経済状況はあまり良くなかった。

 そんな時に見つかったミスリル鉱山は渡りに船であった。


 ミスリル連合の間で諍いが起きていたりと様々な事情が絡み合って他の国のミスリル採掘量を減らしてこの国で取れるミスリルの量を多めに流通させることになったのである。


「あまりに性急に掘ったものですからミスリルはすぐに底をつきかけてしまいました。そこで事件が起きたのです」


「事件……」


「大規模な落盤事故です。掘り進めるペースが早かったからでしょうか、坑道が広範囲に渡って崩れてしまったのです。当時もまだ作業している人は多く、巻き込まれた人もまた多かった」


 ウェルデンはゆっくりと首を振る。

 当時のことをウェルデンが直接見たわけではないのだが凄惨な光景であったと話を聞いていた。


「埋蔵量が少ないとなっていたところに崩落、そして崩落していない坑道も不安定だということで封鎖、廃坑になったのです」


 丁寧に掘り進めていれば事故を防ぐことはできたかもしれない。

 ウェルデンがそんなことを思ったところで崩落はすでに起きてしまったことである。


 ともあれそんな事件事故があってミスリル鉱山は廃坑となって立ち入り禁止となったのだった。


「ミスリル鉱山が廃坑になった時にはしっかりかんりがなされていたのですが廃坑になって久しくいつの間にか放置されてしまいまして、廃坑に魔物が住み着くようになってしまったのです。もちろん放置するのは危険なので魔物の討伐が行われたのですが、その時にミスリルが含まれる新たな岩盤層が発見されました」


「つまり……」


 ここまでくればジケでもウェルデンたちが何をしようとしているのか分かる。


「そうです。私たちは再びミスリルの採掘に手を出そうとしているのですよ」


 他にこのことが知られれば騒ぎになる。

 余計な雑音もあるだろうし当時だってミスリル取引を独占したヘギウスに嫉妬や批判の声は大きかった。


 今もミスリル鉱山を再開発しようとしていることがバレればどんな声があるか分かったものではないのだ。

 そんなタイミングでジケにミスリルを探していると言われた。


 何か情報をキャッチしたジケが遠回しに確認してきているように思ったのである。

 タイミングが良いというのか、悪いというのかたまたまヘギウス商会がピリついている案件とジケの望みが同時に発生してしまった。


「それじゃあミスリルが手に入るんですか?」


「まだもう少し先のことになりますがジケさんがお望みならば優先的にお回ししますよ」


 この国でミスリル連合に所属しているのはヘギウス商会しかいない。

 むしろ周辺国だってミスリル連合に所属している商会はない。


 つまりこの辺りでミスリル鉱山の採掘、取引ができるのはヘギウス商会だけなのである。

 流通量などはミスリル連合の制限を受けるがどこと取引するかはヘギウス商会が自由に選べるのである。


 ジケにはヘギウス家としてもヘギウス商会としても恩がある。

 ジケがミスリルを求めるのなら他に先駆けて取引してもいいとウェルデンは考えていた。


「じゃあ……お願いします」


 ミスリルがいくらになるかは知らないけれどひとまずミスリルを確保できそうな目処が立った。


「むう」


「リンデラン?」


 少し頬を膨らませたリンデランがジケの頬をつついた。


「私ともお話し……しませんか?」


 ウェルデンと小難しい話ばかりしている。

 せっかく久々に会えたのだから少しぐらいリンデランもジケと話したい。


「……そうだな。何か話したいことあるか?」


 最初の頃はもっと遠慮がちだった。

 最近はリンデランももっと自分を出すようになっている。


 良い変化だとジケは思う。


「ウーちゃんを助けにラグカ……っていう国に行ったんですよね? どんなことしたんですか?」


 ウルシュナからは話は聞いている。

 しかし神炎祭の最中ウルシュナはずっと王様のそばに居させられていた。


 ジケがどんな感じで戦っていたのかは知らないのである。


「いいぜ、話してやるよ」


 そんなにすごいものでもない。

 そう思いながらジケはラグカで頑張った時のことをリンデランに話してあげる。


「食事の席での話ではないような……」


「あなたも戦争で頑張ったってよく話してくれたわね」


「む? それは……あの時にはお前さんに誇れるのがそれぐらいしかなかったからだ」


「いいのよ、どんな話だって。どんな話だったってあなたが話してくれるのが大切だったのだから」


「リンディア……」


「相変わらずのおしどり夫婦ですね、兄さん」


「茶化すな、ウィランド」


 リンデランは楽しそうにジケの話を聞いている。

 その様子を見れば余計な口出しなどできない。


 食後のお茶でも飲みながら少しジケの話に耳を傾けてみるかとパージヴェルは小さくため息をついて残ったデザートのケーキをパクリと一口で食べたのだった。

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