お食事会2
「ふまひな」
「ちゃんと口の中のもの飲み込んでから話しなよ」
流石はヘギウス。
出された料理はどれも美味しい。
「ジケ君、これもどうぞ」
「あ、ありがとう……」
リアーネと違ってジケはただ純粋に料理を楽しめない理由があった。
ジケの隣に座るリンデランはジケの世話を焼こうとする。
大皿で提供される料理もあってわざわざ取り分けたりジケがほっぺたに食べこぼしでもつけやしないかチラチラと確認している。
それを見てパージヴェルがお高そうなフォークを握って折り曲げているのだ。
「フィオスにもお願いできるか?」
「もちろんです!」
ちなみに食卓にはフィオスもいる。
他の人は魔獣を出していないのでフィオスのみの特別待遇だ。
リンデランがフィオスにも料理を取り分けてあげると嬉しそうに震えるフィオスはお皿に覆い被さる。
そんなわけでパージヴェルの視線が突き刺さることもちょっと落ち着かない理由なのである。
直接何か言えばリンディアに怒られることはパージヴェルも分かっているからひとまず何も言わない。
「ウェルデン、最近の調子はどう?」
少し雰囲気を変えようとリンディアが話題を振る。
「厳しい時期もありましたがだいぶ持ち直してきました。宝石も無事取り戻せたのでヘギウスが路頭に迷うこともなくなりました」
ウェルデンが笑って答える。
ジケはパルンサンの宝物庫で見つけたピンクダイヤモンドをヘギウス商会に預けていた。
しかしピンクダイヤモンドが悪魔教に盗まれて戦争に利用されてしまうところだった。
ピンクダイヤモンドは多少曰くや経緯のある宝石で価値は計り知れないものである。
ヘギウス商会が保管していたのに盗まれたとなるとヘギウス商会が補償しなければならない。
仮に商会の財産を全て処分してお金に換えても支払えるかというぐらいのものだった。
結局ジケも直接関わる形でピンクダイヤモンドは取り戻すことに成功したのだ。
取り戻せたから笑い話のように話しているが、ウェルデンどころかヘギウス家全体の存亡の危機ですらあったのである。
「あの時のことは今でも心臓が痛くなります。盗まれたこと自体の責任も追及せずにいてくださって感謝しています」
取り戻したとはいえ一度盗まれてしまったのだ。
その時の責任を取れと言われれば断ることもできないはずだったのだけど、ジケは取り戻せたのだからいいと何も要求しなかった。
「そんな……」
「信用が必要な世界で信用を守ってくれたことは大きな恩なのですよ」
ジケとしてはピンクダイヤモンドはタダで、たまたま手に入れたものにすぎない。
とんでもない価値を秘めていたのは嬉しい誤算であったが、執着するほどではないと感じていた。
「そうねぇ、私たちも感謝しなきゃねぇ。ね、あなた?」
「む……そうだな……」
リンディアから圧力を感じてパージヴェルは曲げたフォークを戻しながら頷く。
「それでジケさんはどうして私に会いたいと?」
食事もだいぶ進んでデザートが運ばれてきた。
リアーネは孤児院に持ち帰ろうと余った料理を包んでもらおうとしている。
デザートになってまったりとした時間に差し掛かったのでウェルデンが本題にを切り出す。
「実は……ミスリルを探しているんです。…………ん?」
ウェルデンの顔が険しくなった。
ここまで柔らかな表情をしていたのに一気に雰囲気が変わってジケは少し驚いた。
それどころかパージヴェルの顔もどことなく険しいものとなっている。
「その話、どこで?」
「えっ?」
「まだ極秘事項だったはずですが……」
「どこからか情報が漏れたのか?」
「そんなはずは……」
「い、一体なんの話ですか?」
「…………まさかご存じではない?」
「だからなんの話なのか分からないんですよ……」
何か極秘の話があるようだがジケはそんな極秘の話など知らない。
困惑するジケを見てウェルデンとパージヴェルも困惑する。
「俺は知り合いがミスリルを探しているからヘギウスならって思って……」
ジケはライナスの頼みでミスリルを探しているだけ。
ヘギウス商会がミスリル連合に所属していることも特に秘密にされている話でもないし、何か秘密の話をキャッチしてきたわけでもない。
「……申し訳ありません。こちらの早とちり、ですね」
ジケならばあるいは、という思い込みがあった。
不思議な人脈の広さや情報を集める能力がある。
仮に秘密にしていることであってもジケならばどこからか情報を耳にすることもあるかもしれないとウェルデンは思ってしまっていた。
「秘密なら……別にこれ以上聞かないですけど……」
ミスリルに関係ありそうな気はするけれど極秘だというのなら聞き出すことしない。
「……ふむ、ジケならばいいだろう」
ウェルデンがパージヴェルに視線を送り、パージヴェルは視線に頷き返す。
「この国にミスリル鉱山があることは知っていますか?」
「……ええ、ヘギウス商会がその鉱山から取れるミスリルを取引していたことも。だからミスリルのツテがないかと訪ねてきたんです」
極秘なのに話していいのかと思うけれど聞き出したわけでもなく向こうから話すことを止めることはできない。
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