第十五章

親友のお願い1

「ジケ! 助けてくれよぉ〜!」


「いきなり帰ってきてなんだよ?」


 ジケが家でお風呂計画について考えているとライナスが家に帰ってきた。

 帰ってくること自体は時々あるので驚くことでもないのだけど帰ってくるなり助けてくれというのだから驚いた。


「お前の力が必要なんだよ!」


「助けてくれってのは分かったからなんで助けが必要なのか言えっての!」


「ぶへっ!?」


 別にライナスのためならどんな協力も惜しまない。

 ただ何をどう助けてほしいのかも分からなきゃ助けようがない。


 落ち着けとジケはライナスの顔面にフィオスを投げつける。

 ライナスの顔面に張り付いたフィオスは楽しそうに波打つ。


「し、死ぬ!」


 ジケが頷くとようやくライナスがフィオスを引き剥がすことに成功する。


「落ち着いたか? とりあえず座れよ。お菓子もあるからさ」


 ジケはテーブルに置いてあった皿をライナスの前に置く。

 豆を薄く砂糖でコーティングしたお菓子でかなり日持ちするものなのでオーイシがお土産として持たせてくれたものだった。


 ぽりぽりと食べていると口の中に豆と砂糖の甘みが広がってクセになる。


「ん! んまいな、これ!」


 ライナスも遠慮なく豆を食べる。

 甘いものをあまり食べないライナスでもほんのりとした甘みの豆の味はお気に召したようである。


「それで何を助けてほしいんだ?」


「んぐっ……む……ごくっ!」


 多少水分を持っていかれるのでライナスは水をぐいっと飲む。

 ケントウシソウの美味しい水である。


「それがな……必要なものがあるんだ」


「必要なもの?」


「うん、師匠から課された課題……ってか試練……面倒な命令ちゅーか……」


「あー」


 ライナスの師匠は王様を守るロイヤルナイトのビクシムである。

 国の中でもトップクラスの実力者でありロイヤルナイトという重要な役職を与えられた人なのだが、たまたま知り合ったライナスの才能を見抜いて弟子にしたのだ。


 そのせいか結構忙しいようで苦労しているみたいだった。

 師匠という奴はどこも大体厳しいものだなとジケもライナスの話を聞いて思っていた。


「んで、どんな課題を言いつけられたんだ?」


 ジケが出会った印象ではビクシムに厳しい印象はなかった。

 師匠として甘さを出すような人でもなさそうなのでライナスに課された課題とやらはきっと必要なものなのだろうなと思った。


「ミスリルを探さなきゃいけないんだ」


「ミスリル?」


 悩ましげな顔をしてライナスが答えた。

 ミスリルは希少金属の一つでとてもお高い金属である。


 ただ希少なだけでなくミスリルが持っている能力のために需要も高い。

 ミスリルが持っている能力とは高い魔力伝導性と高い魔力保有性である。


 基本的に戦う時には体に魔力をみなぎらせ、武器に魔力を込めて戦う。

 しかし物に魔力を込めようと思っても物によって魔力を込めにくいものもある。


 木の棒で戦おうと思ってもそれは難しい。

 木の棒がそのものが脆いということもあるが木の棒は魔力伝導性が悪い。


 つまり魔力を込めにくいのである。

 だから木の棒よりも魔力を込めやすい金属の武器が使われる。


 そして金属の中でもまるで自分の手足のように魔力を余すことなく伝えることができるのがミスリルなのだ。

 ついでに込められた魔力は勝手に空中に拡散して消えていってしまう。


 木の棒だと簡単に魔力が抜けていってしまい、金属の武器も同じく魔力を保持しておくのは難しい。

 ミスリルは一度込められた魔力が他の金属に比べて抜けにくく魔力の消費が抑えられるという特徴がある。


 だから希少な上に需要が高くて高級金属となっているのだ。


「しかも高純度のミスリル……できるなら武器一個分確保してこいってさ」


「ミスリルを武器一個分だってぇ?」


 ビクシムは無茶なこと言わないだろうと思っていたのにかなり無茶な課題であった。


「だから鍛冶屋とか回ってみたんだけど、んなもん置いてるか馬鹿野郎って追い返された……」


 そんな希少金属がそこら辺に置いてあるはずがない。

 ライナスは鍛冶屋や素材を置いているお店など巡ってみたけれど、もちろん置いてなんかいなかった。


 むしろ冷やかしだと思われて怒られてしまったこともあるぐらいであった。

 ライナスは困り果ててしまった。


 ミスリルを手に入れるまでは訓練どころか兵士としての仕事まで止められた。

 流石のロイヤルナイトとなればそうしたところにも口を出せるのだ。


 ミスリルが見つからねば何もさせてもらえなくなってしまう。

 もはやライナスではどうしようもない。


 そこでジケに助けを求めにきたのである。


「お前なら何か知らないか? どっかミスリル売ってるところとかさ」


 ジケは顔が広い。

 商人もやっているしライナスが知らないことも知っている。


「師匠からいくらかお金ももらってるし俺が貯めてきたお金もあるから買ってくれとは言わないよ。ミスリル買える場所とかツテがあれば嬉しいなって……」


 流石にジケに買ってくれと言いはしない。

 だけどミスリルを自分の力で探すのは限界なのでジケの手を借りたかった。

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