出発、出会いと別れ2
「まさか本当に親父が許可するなんてな……」
離れていくラグカに背を向けてイカサは手すりに背中を預ける。
商人になりたく騎士になりたくないイカサは商人としての才能を見せつけて父親を説得したがっていた。
しかし説得するための材料がなく、ジケの商品を頼ろうとしていた。
イカサはまだ子供でお金もないからジケから商品を買い入れて取引するなんてこともできない。
八方塞がりで出発の時が迫ってもイカサに打開の妙案は浮かばなかった。
そこでジケはまた別の方向からイカサを商人にするアプローチを仕掛けた。
「本当に俺のこと雇ってくれんのか?」
「もちろんだ。イカサがよければ支部も任せるつもりだからな」
「あぁ……これからなんて呼べばいい? ボス? 会長? ジケ様かな?」
「好きに呼んでくれていいけどジケ様はやめてくれ」
イカサを商人にするためにジケが考えた作戦はフィオス商会ラグカ支店作戦であった。
ラグカは遠い。
直接取引するにしても商品の管理は結構大変なところがある。
そこでラグカにフィオス商会の支店を作ってはどうだろうかと考えた。
支店の方で取引して貰えば負担は大きく減らすことができる。
その支店長としてジケはイカサに目をつけたのだ。
まだ子供なので支店を立てて任せることなどできない。
だからジケはイカサをフィオス商会に引き抜くことにした。
フィオス商会で経験を積ませて、のちのちラグカに帰ってフィオス商会ラグカ支店の店長として活躍してもらうのである。
「まあイカサのお父さんも理解のある人だったよ」
イカサを引き抜くためにジケはイカサの父親に会っていた。
ジケがイカサをフィオス商会の商人として引き抜きたいと話すとイカサの父親は驚いていた。
しかしさすがはジケの国とも取引がある商人らしく、フィオス商会という新進気鋭の勢いがある商会があるということは知っていた。
まさかジケのところで、しかもフィオス商会がイカサを連れていきたいだなんて言ってくるだなんて思ってもみなかったのかイカサの父親は悩んだ。
結局最後には息子がやりたいことならばとイカサがジケのところに来ることを許してくれたのである。
フィオス商会ラグカ支店を作ることも話してある。
フィオス商会の商品を流通させるときはぜひうちに声をかけてくださいとちょっと取引のような会話はあった。
ともあれイカサはフィオス商会に見習い商人として雇われることになったのである。
もちろんイカサ本人はとてもやる気になっている。
対等な取引相手ではなく雇うという形になってしまってイカサは大丈夫だろうかなんて心配していたが、雇ってまで商人としての道を切り開いてくれたジケには感謝していた。
「にしても……よく俺のこと雇おうなんて思ったな」
雇ってもらったことに文句はない。
けれどもまだなんの実績もない若造をよく雇うと決断したものであるとイカサは思う。
正直なところイカサが商会を持っていたらイカサのことを雇わないだろう。
「短い間でもお前のことは分かったからな」
ジケは笑う。
まだイカサの全てを理解したとは思っていない。
だけど神炎祭の試練の最中のいかさの態度を見れば色々とわかる。
補給品と木札で取引しようとする胆力と商人への渇望、ジケを取引相手として選ぶ目や最後までジケを裏切ろうとしなかった信頼感までイカサは十分な素質を見せてくれた。
ラグカで商売するならラグカを知っている人が欲しいと思ったし大きな商会の子息であるイカサはそうした面でも有利だ。
ついでにイカサもそこそこ腕が立つので商会を守るのにも役立ってくれるだろうなんて考えもあった。
「なんにしても恩は返す。俺がフィオス商会をもっとデカくしてやるよ!」
「期待してるぞ」
海を渡り国を離れるという判断は簡単なものではない。
そんな決断を下すことができたイカサはきっと商人として大成することができるだろう。
面白い出会いがあったものだ。
ウラベという不思議なライバルもできた。
「まっ……もっかいぐらい来てもいいかな」
ジケはだいぶ遠くに見えるようになったラグカに視線を向ける。
たくさんのことはあったものの意外と悪くない国だったと最後には思えたのである。
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