出発、出会いと別れ1
「また来るといい。いつでも歓迎する」
「うん、……ありがとう、おじいちゃん、おばあちゃん」
波の状態を見て数日ラグカに留まった。
その間オーイシのところでお世話になってオーイシたちはウルシュナを大いに可愛がった。
ジケも婚約者としてその恩恵に預かってとても良くしてもらった。
もっと冷たい視線を周りから浴びせられるかもしれないと思っていたが、神炎祭の結末を人々は知っていてもジケが王様を辞退した人であるということを多くの人は知らない。
あまり長く留まればバレてしまうのだろうけど短い間ではただの異国の少年である。
意外と落ち着いて暮らすことができた。
オーイシに連れられてやってきたウラベともう一戦交えたりなんてこともあった。
少し荒れていた海も落ち着きラグカから出発する時が来た。
別れを惜しむようにユミカはウルシュナのことを抱きしめる。
「ジケ、お前が次に来る時には……お前が次来ることができるように僕は王になる」
見送りにはウラベも来てくれていた。
二回目の戦いもジケに負けたウラベはジケのことをライバル視している。
敵意を向けたり態度が悪くなることはないけれどまた戦いたいと素直に口にするようになった。
まだ戦うためにはジケがまたラグカに来てくれるような環境を整える必要がある。
そのためには王様にだってなってみせるとウラベは闘志を燃やしていた。
次に選ばれる神女の年齢が近くて参加の権利があれば王様に最も近いのはウラベだろうとジケも思う。
「こっちには来てくれないのか?」
「えっ?」
「俺の国にも遊びにこいよ。それでもいいだろ?」
ウラベはジケよりも年上だけどまだまだ子供なところがある。
別にジケがラグカに来るだけがウラベに会う方法ではない。
ウラベがジケに会いに行ったっていいのである。
これは王様になるとむしろできなくなってしまうかもしれないことである。
「まあ多少はおもてなしするぜ」
「……それもそうだな」
いけばいいんだ。
そのことに気づいたウラベは微笑みを浮かべる。
「次会う時にはもっと強くなる……君にも負けないように」
「俺も努力は続けるさ。そう簡単には負けてやらないからな」
「……他にも挨拶したい人がいるようだし僕の挨拶はこれぐらいにしておこうか」
語りたいなら剣を交えればいい。
多くを語る必要はない。
ウラベは目を細めて笑う。
もっと努力を続けるとウラベはもっと強くなるだろう。
負けないように頑張らねばなとジケは思った。
「ジケ」
ウルシュナを抱きしめて船に送り出したオーイシがジケに声をかけてきた。
「色々とお世話になりました」
「構わないさ。むしろ足りないぐらいだ」
オーイシは柔らかく微笑む。
「孫娘……ウルシュナのことを頼むよ。遠い地では私の力も及ばない。そばにいてやれる者が支えてやってくれ」
「心配なさらなくとも大丈夫ですよ。ウルシュナにはルシウスさんとサーシャさんがいます。心強い友達もいます。そして俺もいます」
実はオーイシが大将軍であったということは少し前に聞いて驚いた。
権力としてはかなりのものだろうけどゼレンティガムもジケの国では有数の貴族である。
ゼレンティガムの騎士たちもウルシュナのことを大事に思っている。
友達にはリンデランがいる。
こちらもまた国内有数の大貴族だ。
さらには王女様であるアユインだってウルシュナの友達である。
ウルシュナ周りの環境もかなり恵まれていると言っていい。
「ふふ、では心配しないことにしよう。ならば……ウルシュナを泣かせたら容赦せんからな」
一転してオーイシの顔が険しくなる。
汗が吹き出すような重たい圧力を感じてジケは顔をしかめる。
大将軍はただの名誉職ではない。
ふさわしい力が無ければその地位を得ることはできない。
ジケたちの前では穏やかなおじいちゃんに見えていても大将軍の座を手にするほどの強さをオーイシは持っているのだ。
「……泣かせないように努力します」
膝を屈しそうになるのを必死で堪えて笑顔を浮かべる。
「君がそういうのなら本当に頑張ってくれるのだろうな」
オーイシはジケの頭を撫でる。
「……もう行きなさい。引き留めて悪かったな」
みるとみんな船に乗り込んでいた。
「本当にありがとうございました」
「いや、礼を言うのはこちらだよ。ウルシュナのためにこのようなところまで来てくれてありがとうな」
ジケも船に乗り込む。
「それでは出発するぞ!」
短いようで、長いような、濃い滞在だった。
最初はウルシュナのことを奪い去ろうとするにっくき国だったラグカだけれど今はまた来たいなと思えるほどになっていた。
船が港を離れ始める。
「俺……船に乗るのも初めてなんだ!」
「そっか……じゃあ酔わないように気をつけないとな」
ジケとの交流を深めた人はウラベだけではない。
神炎祭の最中に仲良くなったのには商人になりたいイカサという少年もいた。
その肝心のイカサであるがジケと一緒に船に乗り込んでいた。
もちろんのことながら勝手に乗っているのではなく周りの許可の上で乗っている。
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