大事な友を取り戻し

 優勝してウルシュナを連れて帰ることにはなったのだけど、それとは別に神炎祭の終了を祝うパーティーが開かれた。

 非常に微妙な空気の中で行われたパーティーであったが神炎祭のルールに則っている以上誰も文句は言えない。


 トーナメントを戦った他の子も集まっていて直接対決したウラベなんかはジケの決断を面白いと言ってくれた。


「うふふ〜ご飯が美味しい!」


 一応ラグカを出るまではウルシュナも神女でジケは時期王様ということらしくジケとウルシュナは隣同士に座らされていた。

 これまでもウルシュナは神女扱いでサトルと一緒にいたので豪勢な料理が用意されていた。


 けれど知らないおじさんと一緒にジケがどうなるかも分からない状況では食事もあまり楽しめなかった。

 ジケが優勝して帰れることが決まった今ようやく食事も楽しめるというものである。


 むしろ機嫌も良くていつもよりも美味しく感じているぐらいだ。


「悪かったな、負けて」


「しょうがないって」


 本来なら未来の王様であるジケに絶え間なく挨拶に訪れる人がいるはずだけど、ジケが王様になんてならないことが決まっているので挨拶に来る人もいない。

 その代わりに食事を楽しめる余裕ができて、ジケの隣にはイカサが座っていた。


 トーナメントで当たったら負けてやるよなんて言っていたイカサであるが、ジケと当たる前にムサカと当たり負けてしまった。

 戦う以上どこかで負けてしまうこともしょうがない。


 ジケとしてはイカサと当たらなくて良かったとも思う。

 本気で戦ったって負けない自信はあるしイカサは負けてくれただろうと思う。


 けれどイカサとはあまり戦いたくないしわざと負けたことがバレると面倒なことにもなりそうな雰囲気があった。

 申し訳なさそうな顔をするイカサにジケは笑顔を向けてやる。


「それで結局商売の方はどうなんだ?」


「それは……」


 ジケとイカサが手を結ぶことになったのは将来において商売でも手を結ぶかもしれないというところからだった。

 ただイカサは複雑なジレンマを抱えている。


 イカサは現在騎士となることを親に期待されている。

 けれどもイカサは騎士ではなく商人になりたいと思っていた。


 そこで新たな商売としてジケのフィオス商会が抱えている商品に目をつけ、商人としての才能もあるのだと認めてもらおうと考えているのだ。

 ただし商人として認めてもらえなきゃフィオス商会となんか取引できないだろう。


 認めてもらうのにジケと取引したい。

 認めてもらえなきゃジケと取引できない。


 よくよく考えてみるとどう解決するのだという問題があったのである。

 ジケとしてはどっちでもいい。


 ラグカに販路拡大できるのならありがたい反面無理をして広げる必要がないことも確かである。


「そこで提案があるんだ」


 問題解決には時間がかかるだろう。

 しかしもうジケが帰る時は目の前に迫っている。


 王様にならないと言ってラグカを出るのだ、しばらくラグカに来ることは難しい。

 ラグカとは離れているのでイカサと交流を続けるのも簡単なことではない。


 ジケにはイカサについて考えていたアイデアがあった。


「……で、お前さえよければって話なんだけど」


「ほ、ホントにいいのか?」


 ジケの提案を聞いてイカサは興奮したような顔をしていた。


「俺はいいさ。お前はどうだ?」


「も、もちろん! こんなチャンスないよ!」


「じゃあお前の親父さんに合わせてくれないか?」


「なんなら今引きずってくるよ!」


「今はいいって」


「まーたなんかやろうとしてるの?」


 何を話しているのだろうとウルシュナは気になった。

 二人でヒソヒソと話しているので聞き耳を立てないようにはしていたけれど我慢できなくなってしまった。


「ふっふー、まあ色々あるのさ」


「ふぅーん……まあいいけど」


 ウルシュナは助けてもらった身分である。

 今ばかりはジケに対してうやうやしい態度をとっておこうと追及はしない。


「私の時とは違って友達ができているようだな」


「あの時あなたは私を守るのに必死だったものね」


「お父様、お母様!」


 ウルシュナは来たもののルシウスとサーシャはどこかで用事があったらしくいなかった。

 ウルシュナがサーシャに飛びつくとサーシャは笑顔を浮かべて受け止める。


「ジケ、よくやってくれたな」


「もちろんです。ウルシュナのためですから」


「お礼はちゃんと言った?」


「言ったよ!」


「私の時もそうだったが……冷たいものだな」


 ジケに近づこうとする者は少ない。

 気持ちはわからなくもないが過酷な戦いを勝ち抜いたジケに対して表面上でも労えばいいのにとルシウスはため息をつく。


「ウルシュナがいればそれでいいですよ」


「にゅ……うー……」


 またそんなことを恥ずかしげもなく口にするとウルシュナは顔を赤くした。


「あとは帰るだけだ。本当にお疲れ様」


「結構大変でしたよ……なっ、ウルシュナ」


「なに?」


「……おかえり」


「……ただいま」

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