神女じゃなく、ウルシュナ4

「なんだ?」


 ウラベが剣を構える。

 やや体勢を落とし、まるで剣を収めた時のように腰に持っていった。


 不思議な構えでジケは強く警戒する。


「いくよ」


「くっ!?」


 消えたと思うほどだった。

 グッと床を蹴ったウラベは一瞬でジケと距離を詰めた。


 さらに近づきながら剣を振っていて移動と攻撃が完全に一体になっている。

 ギリギリで防御したけれどあと少し反応が遅かったらやられていたところだ。


「僕の初撃を防ぐか!」


 ウラベは嬉しそうに笑う。

 他の子との戦いでもショウグを戦わせず同じような攻撃を繰り出した。


 だけど防げた子はいない。

 全部一撃で終わってしまっていた。


 けれどジケは防いだ。

 類いまれな反射神経でウラベの高速の一撃を見切ったのである。


「なんだよそれ!」


「これはイアイっていうんだ! 一種の抜刀術さ!」


 剣を抜く動作そのものが攻撃の動作となっている。

 まだまだ知らない技術があるのだなと少し感心してしまった。


「まだまだいくよ!」


 ジケの反撃を飛び退いてかわしたウラベは再び剣を腰に当て体勢を落とす。


「うっ!」


 同じ技は二度も通じない。

 そう思って構えていたけれど完全に同じ技ではなかった。


 一度目の剣の軌道は大きく円を描くように振られていた。

 それに対して二度目は腕をまっすぐ突き出すように剣を繰り出した。


 二度目の方がコンパクトで素早い。

 一度目よりも威力は落ちるけれどジケですら首筋ギリギリで防ぐのが精一杯だった。


 一度目からこの攻撃だったら防げていなかったかもしれない。


「必殺の一撃を二回も防ぐなんて……君はなんて素晴らしいんだ」


 ウラベは戦いを楽しんでいる。

 神炎祭とかそんなもの関係なく自分の実力の相手になるジケとの戦いに喜びを覚えている。


「もっと僕を楽しませておくれよ!」


 今度は普通に切りかかってくる。

 ただそれも鋭く素早く、ウラベの実力の高さは噂だけでのものでなかった。


 けれどジケも負けていない。

 ウラベの攻撃を的確にさばいて防ぐ。


 速いけれどグルゼイほどの速度もなければリアーネのようなパワーもない。

 まだ対応できる。


「それ面倒だな!」


 ジケが反撃に出ようとするとウラベは少し下がってイアイをする。

 高速の抜刀術はジケに反撃の隙を与えず戦いを振り出しに戻してしまう。


 イアイの剣の振り方が二種類あるのもまた面倒で、剣の振りが速いので振り方が違うだけで攻撃のタイミングがズレてくる。

 腰に剣を当てる動作でイアイが来ると分かるのだけど、その動作だけではどう剣を振るのかわからない。


「ただ……俺にも技術はあるんだよ!」


「なっ……」


 ウラベは腕を突き出すような素早いイアイを繰り出した。

 素早く振られた剣はジケの方へと伸びていき、鼻先をギリギリかすめることなく通り過ぎていった。


 イアイの範囲を完璧に見切られた。

 ウラベは驚きに目を見開く。


「ぐっ!」


 ウラベが驚いて生まれた隙をついてジケは反撃を仕掛ける。


「逃すかよ!」


 下がって仕切り直そうとするウラベにジケは喰らいつく。


「これもかわすか!」


 ジケの攻撃を嫌がるウラベは下がりながらイアイを繰り出す。

 しかしジケがピタリと動きを止めるとウラベの剣はジケの目の前を通り過ぎていく。


「……どうやって僕のイアイを見切った?」


 ジケとウラベの剣がぶつかって押し合いになる。

 一回のまぐれではない。

 

 ジケは完全にウラベのイアイを見切ってかわしている。

 高速で繰り出されるイアイは攻撃の範囲すら把握するのも難しい。


「何回も見せすぎだな」


「何回も見たところで普通の人には捉えられない」


 二種類の剣の振り方だけではない。

 踏み込みや腕の伸ばし方などイアイの攻撃は少しずつ微妙に変化させている。


 見切って大きめに回避するならまだしもジケは二回ともかすめるほどの距離で回避してみせていた。

 ジケはイアイの距離だけでなくその攻撃でウラベがどれだけ踏み込み、腕を伸ばすのか見切っている。


 そんなこと自分の師匠でもない限り不可能だとウラベは思った。


「ふふ、俺には見えるんだ。いや、視えるんだよ」


「なに?」


 ウラベが技術を培ってきたようにジケだって厳しい修行に耐えて技術を得てきた。

 ジケには大きな技術として魔力感知がある。


 魔力を感知する技術で極めていくとまるで目で見ているようにも周りのことを把握することができるようになる。

 ウラベは強い魔力を放っている。


 レッドワイバーンは非常に強い魔力を持っている魔獣である。

 契約者であるウラベも強い魔力をもらっていた。


 さらにウラベは強い魔力をしっかりとコントロールしていた。

 分かりやすいほどに。


 魔力感知で集中してみてみるとウラベは自分の周りに魔力を留めていた。

 魔力のドームでも作り出すように半球状の魔力が周りを覆っているのだ。


 ウラベが腰に剣を当ててイアイの動作に入ると魔力のドームが変化する。

 グッと範囲が狭まるのである。


 これがウラベのイアイの範囲なことにジケは気がついた。

 おそらくウラベも無意識にやっていることで魔力の範囲内にジケが入ると剣を振り始め、攻撃の先端は魔力のドームの端と一致する。


 魔力のドームが多少の違いを見せていることにもジケは気づいていた。

 だがどの大きさにしろ魔力のドームと攻撃範囲は同じだった。


 魔力感知ができるジケだからこそウラベのイアイを完璧に見切ることが可能だったのである。

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