神女じゃなく、ウルシュナ3
「やっぱりあんたか」
「僕もそんな気がしていたよ」
少し休憩をして神炎祭最後の戦いに挑むことになった。
対戦相手はウラベであった。
予想はしていた。
それでも順当に勝ち上がってきたということに驚きはある。
「まずは僕の魔獣から紹介しよう」
ウラベが魔獣を召喚する。
「これは……」
「レッドワイバーンのカンノだ」
ウラベが呼び出した魔獣はワイバーンであった。
空の王者たる魔物で非常に強い力を持っている。
ワイバーンといえばユダリカのゼスタリオンのことを思い出す。
ゼスタリオンもワイバーンであるけれど正確にいえばブラックワイバーンという種類である。
ブラックワイバーンは特に何かの属性に優れているわけではないのに対してレッドワイバーンは強い火属性の力を持っている。
おそらく魔獣だけであっても他の子を圧倒できるだろう。
ついでにいえばゼスタリオンは卵から生まれたばかりの幼体だったが、カンノは大人の個体である。
「俺の魔獣はこいつ。フィオスだ」
せっかく紹介していただいたのでフィオスのことも紹介しておく。
赤黒い大きなカンノと青くて小さいフィオス。
その差は誰が見ても歴然である。
「スライムか……スライムは不思議な魔物だ。弱いと言われているのに自然の中では淘汰されずに生き残っている。つまりはそれだけの価値があるか、僕の知らない何かがあるか、だ」
「この可愛さだけでも価値はあるだろ?」
「ふふ、確かにね」
神炎祭のここまでで初めてフィオスのことを軽んじない人がウラベであったとは意外だった。
「カンノ、下がってるんだ」
「……何をするつもりだ?」
ウラベが手を振るとカンノがステージの端ギリギリまで下がっていく。
「僕も君、純粋な戦いで勝負をつけよう。魔獣じゃなくこれまで培ってきた実力で勝負だ」
「……ふふっ、変なやつ」
カンノの力を使えば容易く勝負がつくかもしれない。
なのにウラベは魔獣の力を使わずジケとの直接対決を望んだ。
これが変と言わずしてなんという。
「変でもなんでもいいさ。僕と戦ってくれるならね」
「そりゃ戦うさ。フィオス、少し遊んでてくれ…………あ、フィオス?」
魔獣無しでいうのなら望むところである。
ジケが抱えていたフィオスを下ろす。
するとフィオスはウラベの方に跳ねていく。
ウラベすら何をするんだと眺めているとフィオスはウラベの横を通り過ぎた。
「カンノ?」
フィオスはカンノの前まで跳ねていった。
カンノの前で止まったフィオスが一度プルルンと揺れた。
するとカンノは礼でもするように頭を下げる。
その光景をウラベは驚いたように見ていた。
「何をしてるんだ?」
魔獣が他の魔獣に頭を下げている光景など見たことがない。
ジケは何回か見たことがあるので驚きはしないのだけど初めて見た人にとっては驚きなのである。
フィオスが二回跳ねるとカンノが再び頭を下げた。
さらに大きく飛び上がったフィオスはカンノの頭の上に乗っかった。
「あ、あれは何してるんだ?」
カンノが他の魔獣を乗せているところなんてありえない光景でウラベは驚愕していた。
魔獣どころかウラベが頼み込んだって他の人も乗せてくれないぐらいにカンノは気難しい。
なのにフィオスのことは乗せた。
それどころか自ら頭を下げて迎えていたのである。
「何って乗っかってるだろ」
「そうじゃなくて」
「あえてあの行為に名前をつけるなら……遊んでるってところかな」
「あ、遊んで……」
ウラベはカンノのことを見る。
フィオスを頭に乗せたカンノはグーっと体を伸ばしてフィオスを高く掲げている。
フィオスは嬉しそうにプルプルと震えていて、確かに遊んでいるように見えるとウラベは思った。
「これが俺のフィオスさ」
非常に不思議な光景である。
だけど悪いものじゃない。
魔獣同士が自然と交流する見ていて気分の良い光景である。
「はははっ!」
ウラベは思わず笑ってしまった。
いつも険しい目をしていたカンノがどことなく柔らかい表情をしているように見えたのだ。
不思議な異国の少年、不思議なスライム。
これまで出会ってきたどんな人よりも面白いと思った。
「正直神炎祭なんて興味なかった。父上が出ろっていうし強いやつと戦えるならと思ったから出てみた」
多くの子が王様になることを夢見て神炎祭に参加するけれど、中にはイカサのように王座になんて興味はなく親に言われて参加しているような子もいた。
ウラベも王様になんてなるつもりはなかった。
「適当に勝ち上がって……適当に負けるつもりだった」
それなりに戦いを楽しめればそれでいい。
なんなら王様にふさわしそうな人がいたら自ら降参したっていいとすら考えていた。
「だけどみんな僕の噂だけで怖気付いてロクに立ち向かおうともしない」
少し勇気を持った子だってカンノを呼び出しただけで戦意を失ってしまった。
「君は違う。魔獣のフィオスもそうだし君自身も僕に対して立ち向かう目をしている。やろう! 戦おう! 君となら楽しめそうだ!」
「うーん、結構ヤバそうだな。だけど……嫌いじゃないぜ」
強者ゆえの孤独というものがある。
誰にも相手にされないというところだけ取り上げてみればジケにもその孤独は分かる。
「やろうか。俺はウルシュナを連れて帰んなきゃいけないんだ」
ジケとウラベは笑顔を消して真剣な顔になった。
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