強きスライム1
ジケがステージ上を去った後も一悶着あったみたいであるが今回の試練の目的は個人の力だけでなく魔獣の力や魔獣との共闘を見ることも目的である。
フィオスがフィオスの能力で剣の形となり金属に体を変えた以上魔獣の能力の範囲内で戦っている。
結局反対の意見は王様であるサトルが潰して神炎祭は続行された。
文句を声高に訴えていたのもジケの対戦相手だったマガタの親だったらしいので正当な苦情でもなかったのだろう。
戦いを終えたジケは最初の控え室とは別の控え室に案内された。
やはり戦いを終えた子はそれぞれ別の控え室に案内されたようだった。
自分が勝ち進んだ以外のことは分からない。
多分ウラベは勝ったんだろうなと思う他は二回戦が始まっているのかも控え室からでは知る術はない。
「代わりにお菓子はたくさんあるな」
疲労の回復や時間を潰すためだろうか、控え室にあるテーブルの上にはいろいろなお菓子が用意してある。
どうせすることはない。
お菓子も食べ放題なのでせっかくならとフィオスとお菓子を食べることにした。
最初ゆっくりとお菓子を食べていたフィオスだけど好きなだけ食べていいんだよと言うと少しお菓子を食べるスピードが上がった。
「ジケさん、試合です」
「おっと、じゃあ行こうか」
ジケも適当にお菓子をつまみながら待っていると試合に呼ばれた。
体の中でグルグルと回すようにしてお菓子を溶かし食べているフィオスを抱えて控え室を出る。
会場に着いてみるとステージの上ではすでに対戦相手が待っていた。
流石にここまでくるとジケ同い年ぐらいで残っている子の方が少なく対戦相手の子もジケより年上そうながっしりとした体型の子であった。
ジケがステージに上がると対戦相手の子は少し驚いたような顔をした後、険しい目つきでジケのことを睨む。
まさかジケが勝ち上がってくるだなんて思っていなかったようだ。
ただジケを見下したような雰囲気はなくマガタのように不意をついて初手で倒すのは大変そうである。
手に持っているのは剣ではなく木製の槍だった。
「来い!」
対戦相手の子が呼び出したのは人ほどの大きさがあるカマキリだった。
両手の鎌の部分が斧のような形をしていて切れ味よりも破壊力がありそうだ。
「始め!」
始まると同時に対戦相手の子はカマキリと分かれて走り出す。
そしてジケを挟み込むように迫る。
「フィオス!」
作戦としては悪くない。
スライムが他の魔獣を相手にするのは難しいだろう。
ただし、それが普通のスライムだったらの話だ。
ジケはフィオスをカマキリに投げつけた。
飛んでいくプルプルボディーのフィオス。
「フィ……」
しかしカマキリもただ飛んでくるフィオスを見ているはずもなく鎌を振り下ろした。
フィオスが切られる。
そう思って観客席にいたエニは思わず声を上げた。
空中で真っ二つにされた。
そう思ったのにフィオスの姿が消えてカマキリも困惑したようにフィオスを探す。
ほんのわずかな違和感、それを感じてカマキリは先程振り下ろした自分の鎌を見た。
そこにフィオスがまとわりついていた。
柔らかく衝撃を受け止めたフィオスは切られることもなくそのままカマキリの鎌に引っ付いたのである。
慌てたように鎌を振るけれどそんなことではフィオスは取れない。
自慢の鎌にまとわりつくようにしながらゆっくりと這い上がってくるフィオスにカマキリは恐怖を感じた。
もう片方の鎌を使ってフィオスのことを剥がそうとするが鎌はフィオスの表面を滑るだけで動きを止めることすらできない。
「何をしてるんだ!」
一方でジケと対戦相手の子も戦いが始まっていた。
腕前は悪くないけれど細かく懐に入って攻撃してくるジケに対して対戦相手の子は苦戦していた。
槍を活かせる距離での戦いができないのだ。
なんとかジケの攻撃は防いでいるものの明らかに防戦を強いられていて苛立ったように自分の魔獣であるカマキリのことを見た。
カマキリの方はフィオスに気を取られて動けない。
鎌を伝って移動したフィオスはすでにカマキリの胴体まで来ていて、カマキリは声を上げながらフィオスを振り解こうと体を振っていた。
ジケてしては慣れっこだし気持ちいいぐらいに感じるがフィオスに敵意を持ってまとわりつかれると奇妙な嫌悪感があるのであった。
「ぐっ!」
腕を折りたたんで無理に振られた槍をかわしたジケが対戦相手の子の脇腹に木剣を叩き込む。
対戦相手の子は痛みに顔をしかめたが少し浅かったのか耐えて反撃を繰り出す。
審判も止める様子がなく、これでは終わらないようだった。
真剣だったらそれなりにざっくりと切り裂かれて動けなくなってもおかしくないのに、そこは本来の戦いと少し基準が違う。
ただ一度でも攻撃を受けると影響は出てしまう。
動くたびに脇腹がズキリと痛み動きが鈍くなる。
どうにか助けに来いとカマキリのことを見るけれどフィオスが首に巻き付いたカマキリはそれどころではなかった。
「……楽しんでるようだな」
「なに?」
「いや、こっちの話」
「ゔっ!」
脇腹に差し向けられた剣。
ズキリとした痛みが対戦相手の子にもう一度脇腹を殴られることを無意識に嫌がらせ、無理な態勢でしっかりとガードしようとしてしまった。
対してジケはそれが分かっていたかのように素早く剣を引き、攻撃を突きに変えた。
胸を突かれて対戦相手の子は後ろに転がっていく。
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