強きスライム2
「ぐ……う、嘘だ……」
真剣だったら死んでいる一撃。
木剣であっても相当痛いはずなのに対戦相手の子は一度起き上がる意思を見せた。
けれど痛みに耐えられなかったのか白目をむいて気絶した。
「勝者ジケ!」
魔獣が無事でも契約者たる本人が倒れてしまえば勝負は決してしまう。
ジケの勝利が宣言されると観客席にざわつきが広がる。
一戦目はまぐれ。
誰も知らなかったようなスライムの使い方をして相手の隙をついて上手く勝ったに過ぎなかったと多くの人が思っていた。
しかし二戦目はまぐれと評価するには無理があった。
フィオスはカマキリを抑え込んで戦えないようにし、ジケは木剣で正面から対戦相手をねじ伏せた。
文句のつけようがない勝利である。
よそ者でそんなに強そうに見えないジケがここまで勝ち抜いてきたのは運が良かったからである。
そのように思っている人は多かった。
実際に試練中の動きを見ることはできなかったのでそんな風に思っても仕方ない。
あるいはジケがよそ者であるから力を認めたくなかったのかもしれない。
けれども目の前で実力を見せつけられれば納得せざるをえない。
多少の運は絡んでいるもののここまで勝ち残ってきたのは単なる運だけのものではなかったのである。
「ふぅ……なんとか勝てたな」
ジケは控え室に戻ってきた。
やってくれるだろうとは信じていたけれど思っていたよりもフィオスは上手くカマキリのことを抑えてくれていた。
おかげで楽に戦うことができた。
対戦相手の子もカマキリが来るだろうなんて意識を持って戦っていたし油断は少なからずあった。
「ん?」
控え室に入るといい匂いがした。
部屋の中を見るとテーブルの上に料理が並べられている。
「これからお昼の休憩です。テーブルの上にある料理はお好きに食べてください」
ジケを案内してくれた神炎祭の係員が料理がなんなのかの説明する。
もうそんな時間なのかとジケが窓の外を見てみると日は高い位置にあった。
無意識で緊張しているのか空腹感は感じていなかったが目の前に料理があってお昼時なのだと自覚すると急速にお腹が空いてくるようだ。
料理はさまざまなものが並べられていてとてもじゃないがジケ一人じゃ食べられない量がある。
「……見てるんですか?」
料理を食べようと席についたジケはチラリと係員のことを見る。
これまでの係員は案内だけすると会話もなくさっさと控え室を出ていってしまった。
それなのに今はまだドアのそばに立ったままであった。
見られながら食べるのはちょっと嫌だなとジケは軽く愛想笑いを浮かべる。
「いえ、何か不自由なことはないかと最終確認を」
「……そうですか」
確認したのなら出ていけばいい。
そう思うのだけどまだ係員は出て行かない。
「はぁ……」
なんだか知らないけれどめんどくさい人だと思いながらジケは料理に手を伸ばした。
せっかく熱々の料理が並べられているのに冷めてしまう。
「それでは失礼します。何かありましたらドアの外におりますので」
ジケが料理を一口食べたところで係員はようやく出ていった。
なんなんだとため息をつきたくなるけれど気にしないことにして食事を続ける。
「フィオスも食べるか?」
料理はどれも美味しい。
量もあるのでフィオスにも分けてあげる。
「どうだ?」
フィオスはお肉の塊を体の中に取り込むとプルプルと震えて美味しさに喜ぶ。
「最初とは大違いだな」
いきなり海まで歩かされた時に比べるとしっかりとしたもてなしだ。
流石にここまで勝ち残ると違うものだと色々な料理を食べてみる。
この国には他の国にはない調味料がある。
以前マーマンの刺身を食べた時に使った黒い液状の調味料でいくつか名前もあってソイユやショウソースなんて呼ばれていることもある。
幅広い色々なことに使える調味料でジケが食べている料理にもソイユは多く使われているようであった。
「あれ……フィオス…………?」
ーーーーー
「ジケ様、お次の試合の番です」
「……わかりました」
係員が控え室に入るとジケは椅子に座って外を眺めていた。
テーブルの上にあった料理は全てなくなっている。
フィオスがお皿まで綺麗にしてくれていたのでちゃんと重ねてまとめてありすらした。
テーブルの上の状態を見て係員はニヤリと笑ったがジケはそれに気づいていない。
「はははっ! たかだかスライムでよくここまで来たな!」
次の対戦相手はなんだかムカつく感じのあるやつだった。
ステージに上がった瞬間からジケのことを馬鹿にしたような目をしていていかにも自分が上だという勝ち誇った顔をしている。
ジケよりも年上のようだけど精神的にはクソガキっぽさがある。
「残念ながらお前はここで脱落となる……このムラミ様に倒されてな!」
自分で自分のことを様付けかと笑いそうになる。
ジケよりも年上なら物事の分別がついていてもおかしくないのにそうではなさそうだ。
「ハニャワ、出てこい! あんなスライム捻り潰してやれ!」
ムラミが自身の魔獣を呼び出した。
「ほう……アイアンゴーレムか」
なかなか珍しいものと契約しているなとジケは思った。
ムラミが呼び出したのは全身が金属で出来ているアイアンゴーレムという魔獣であった。
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