君を連れて帰る3

 剣を構えたマガタとハイボは並んでジケを睨みつけ、対するジケは片手にフィオスを抱え片手に剣を持って無表情を貫いている。

 ジケとマガタの間に立つ審判がゆっくりと手を上げる。


「始め!」


 審判が手を振り下ろしながら試合の開始を宣言する。


「なっ……」


 まずは軽く痛めつけてやろう。

 そんなことを考えていたマガタの目の前に一瞬でジケが迫ってきた。


 あまりにも速くてハイボも反応ができず、マガタはとっさにジケの攻撃をガードしようとした。


「へっ?」


 ジケが剣を持っていた方の手ではなくフィオスを抱えていた方の手を振ったのだと気づくこともなく、自分の剣が切れてしまったことにマガタは抜けた声を出した。


「俺も負けられないんだ」


 頭に横からの強い衝撃を受けてマガタは吹き飛ぶ。

 ハイボを巻き込んでもみくちゃにステージの上を転がっていく。


「……俺はウルシュナを連れ帰らなきゃいけないんだ。いや、連れて帰るんだ」


 マガタは立ち上がらない。

 頭を殴られた衝撃に気を失って白目をむいていた。


 あまりに一瞬の決着に会場がシンと静まり返る。


「勝者……」


「違反だ!」


 我に返った審判がジケの勝利を宣言しようとした瞬間観客から物言いが入った。

 顔を真っ赤にしたオッサンでどことなくマガタに似ているような気がした。


「あいつ武器を持ち込んでいるぞ!」


 オッサンの発言でジケの手に視線が集まる。

 片方の手には木製の剣が握られているが、もう片方の手には金属の剣が握られていた。


「武器の持ち込み違反だ! だからあいつの反則負けだ!」


 試練においては与えられた武器以外のものを使うのは基本的に禁止されている。

 まして外部から金属製の武器を持ち込むなど言語道断である。


「え、ええと……」


 審判が困惑しているとステージに数人の審判員が上がってきた。


「その武器はどうしたのですか?」


 仮に持ち込まれたものだとしたらオッサンのいう通り違反である。

 木製の武器しか与えられていない状況で金属製の武器を持ち込んで戦えば金属製の武器の方が有利であることは明らかなのだから。


 だがジケはとても冷静だった。

 むしろオッサンのことを鼻で笑う。


「こいつは俺の魔獣ですよ」


「……魔獣……?」


「そもそもステージに上がる時点でこんなもの持ってなかったのにどうやって取り出したっていうんですか?」


「そう言えば……」


 開始までのジケの姿を思い出す。

 片手には木製の剣、そしてもう片方の手には魔獣であるスライムを抱えていたはずだと審判員も思った。


 それがいつの間にか金属製の剣になっている。


「フィオス」


「な!」


「スライムが!?」


 ジケが声をかけると金属製の剣が形を変えて青色プルプルボディのスライムになった。

 会場に驚きが広がってジケはニヤリと笑う。


「これは俺の魔獣であるフィオスの能力です。魔獣と戦うことは禁止されていませんよね?」


「……確かにその通りです」


 魔獣の能力で剣に化けていたのなら文句をつけることはできない。

 驚きつつも目の前で剣からスライムに変化されてしまえば認めざるを得ない。


「武器につきましては魔獣の能力であることが判明いたしました! つきましては違反ではありませんのでジケの勝利とさせていただきます!」


 審判員が事情の説明とジケの勝利を宣言する。

 スライムが何をしたのだと会場に驚きが広がり拍手すら起こらない。


 だがそれでいいとジケは思う。


「スライムにそんなことできるわけないだろー!」


「できるんだなぁ、ウチのは」


 ジケはサトルの隣で戦いを見ていたウルシュナに視線を向ける。

 まずは一つ。


 ウルシュナを連れて帰るのに前進した。


「待ってろよ。必ず連れて帰ってやるからさ」

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