君を連れて帰る2

「あぁ……」


 そしてウラベと戦うことになった子はひどく落胆している。

 楽勝だと油断する者、やる前から無理だと落ち込む者などさまざまいる。


 ジケはふとウラベと目が合った。

 ウラベと戦うことになって落ち込む相手にウラベは少しだけ悲しそうな目をしていたから見ていたらジケの方を向いたのだ。


「決勝で会おう」


 そっと近づいてきたウラベは周りに聞こえないように声をひそめた。

 ウラベ自信が勝ち上がる気でいることはいいとしてなぜジケが勝ち上がってくることにまで自信満々なのだろうか。


 期待されているのは悪いことでもないけれど、ジケの何がそんなにウラベのことを惹きつけるのかジケ自身はわかっていない。


「それでは第一試合を始める。他の子は控え室に行くように」


「……まさか見せてもらえないとはな」


 ゾロゾロと移動しながらジケはため息をつく。

 最後の試練は力と絆の試練なんていうらしいけど、他の子が戦っている様子は観戦させてもらえない。


 相手がどんな戦い方をして、どんな魔獣を引き連れているのか、前の試合で消耗したのかどうかすら分からない。

 魔獣をすでに連れていた子もいたけれどここまでの試練では魔獣を禁止されていたので出していない子も多かった。


「決勝に行く前に当たることになったな」


「そうだな。できればあんま戦いたくなかったよ」


 歩きながらイカサがジケに声をかけてきた。

 ジケとイカサは同じ山になるので仮に二人とも勝ち残ったら決勝よりも前に戦うことになる。


 まだ戦うと決まったわけじゃないけれどイカサなら勝ち抜いてきそうだとジケは思っていた。


「まあ心配すんな。上手く負けてやるからさ」


 声を抑えてイカサはウインクする。

 イカサに王様になるつもりはない。


 ある程度頑張っていると父親にアピールできればそれでよく、ここまでこれた時点でイカサとしては上々であった。

 もちろん他の子にタダで負けてやるつもりはないけれどジケには負けてもタダじゃない。


「ありがとよ」


「俺は神女とか興味ないしあの可愛い子ちゃんと幸せにしてやれよ?」


「努力はするさ」


 控え室では戦わない子が全員集められていてかなりピリついた空気が漂っていた。

 あまり会話するという雰囲気ではなくてジケとイカサも静かにしていた。


 やがて次の子が呼ばれたけれども前に戦っていた子は控え室に来なかった。

 さらに次の子が呼ばれ、控え室の人が減っていく。


「どうやら戦い終わった状態すら見せてもらえないようだな」


 全員が相打ちなんてあり得ない。

 なのに誰一人も戻ってこないのには訳がある。


 徹底して相手を隠すつもりなのだなとジケはため息をついた。

 負けた子は退場したのだろうが勝った子は別の部屋に通されたのだ。


 次の相手がどんな子なのかも分からなくしなくてもいいじゃないかと思ってしまう。


「あいつが最大のライバル、だよな」


「……そうだな」


 ウラベが呼ばれた。

 最後にジケに視線を送ったウラベはいかにも勝ち残るといった顔をしていた。


 きっと勝ち残っていけばウラベと戦うことになるだろうという予感はどうしてもあった。


「おっと……次は俺だな。行ってくるよ」


「頑張れよ」


 かなり人が減ってきてとうとうイカサが呼ばれた。


「負けたらごめんな」


「負けたら慰めてやるよ」


「はは、いらないよ」


 ちょっとお手洗いにでもいく。

 そんな感じで軽くイカサは控え室を出て行った。


 最後に残ったジケとジケの対戦相手の子であった。


「おい、棄権しろよ」


 控え室の真逆にいる対戦相手の少年がジケを馬鹿にしたような目で見ている。

 何度見たってジケが抱えているのは可愛らしいスライム。


 ジケ自身も強そうに見えないし戦わずとも勝てそうなんて思っていた。


「下手に戦うと怪我するぞ? ……おい、無視すんなよ!」


 もうすでに勝ったような顔をしているのはムカつくけれどわざわざ構ってやる必要はない。

 ジケはフィオスに視線を落として少年のことを完全に無視する。


「チッ……手加減してやろうと思ったのに」


「ふっ、もうすぐ呼ばれるんだから焦るなよ」


「なんだと!」


 何にしてもどちらが強いかなど戦えば分かる。

 こんなところで舌戦を繰り広げても楽しくはない。


「お次はジケ、マガタ」


 対戦相手の少年の名前はマガタというらしい。

 だけど覚えていてもせいぜい今日のうちぐらいだろう。


 マガタに睨まれながらジケは戦いのステージに向かう。


「ぶっ殺してやっかんな!」


 すっかり嫌われてしまったようだ。

 イカサによると普段はもっと小さいステージに分割して使うこともあるらしいが、今回は一面の広いステージがそのまんま戦いの場となっていた。


 武器は例によって木製のものである。

 普通の剣を使えば大人であっても相手を殺してしまう可能性もあるので手加減の苦手な子供ならなおさら持たせられないのだろう。


「出てこい、ハイボ!」


 マガタが魔獣を呼び出した。

 マガタの魔獣はアイスアリゲーター。


 白っぽい色をしていて背中に氷のトゲが生えている人よりも大きなワニであった。

 確かに見た目だけならフィオスより強そうである。

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