勇気の試練5
「どんなものかな……?」
ちょっとした好奇心がジケの中で湧き起こった。
ジケは腰に差していた木剣を抜くと腕を伸ばして剣の先で罠のスイッチを押した。
「おっと……これが罠か」
スイッチを押すとかちりと音がして洞窟の壁から木製の槍が飛び出してきた。
「死なないようにはなってるのか」
たとえ木製の槍でも飛び出してきた勢いを考えると危ないが、よく見ると槍の先端は布が巻きつけてあって殺傷能力がかなり押さえられていた。
まともに当たれば相当痛いだろうけど死にはしない。
「……さっさと抜けちゃうか」
ジケとしてはこんな洞窟に長く留まっているつもりはない。
十人ずつ二日に渡って勇気の試練が行われるということは早く抜ければそれだけ休んでいられる時間も長くなる。
ジケは槍を避けて洞窟の中を歩いていく。
罠は色々とあった。
スイッチで発動して何か飛び出してくるものだけでなく、目に見えにくい糸が足元に張ってあって引っかかると発動するものや踏み抜くと地面が抜けてしまうような凶悪な罠もあった。
基本的には魔力感知で慎重に見ていけば察知できる。
けれども魔力感知で感知しにくい魔法による罠というものもある。
油断はしないようにしながら警戒を続ける。
「どこまで続くんだ?」
少し広めの場所があったので休憩がてらご飯を食べてまた歩き始めた。
暗闇でも見えるジケだからいいけど他の子は何かを食べることすら厳しいだろうなと思う。
ここまで一本道だったのでサクサク歩いてきた。
しかしそれなりに距離を歩いたつもりだったけれどまだ反対側に着くような感じもない。
「……ん?」
歩いていると先の道が分かれていることをジケは感知した。
左右の二つに分岐していて見た感じではどちらにも違いがない。
「適当でいいか」
違いがないのなら適当に選んで進むしかない。
ジケは右の方を選んで進んだ。
進んでいくとまた道が分岐していた。
前半は一本道で罠が多かった。
そして後半は迷路のように複雑に道が分岐しているようであった。
「チッ……また行き止まりか」
思わず舌打ちしてしまう。
道はただ分岐しているだけではない。
進んでいくと普通に行き止まりだったりするし罠があることもあった。
まだ道が見えているから次はあっちに行ってみようということができる。
それでも行き止まりに突き当たるのは煩わしさを感じる。
「あっちには行ったからこっちか」
行き止まりから戻ってきて行っていない道を行く。
「むっ?」
少し先の方でまた道が分岐している。
三つある分岐のうち一つから人がジケの感知範囲に入ってきた。
ジケは立ち止まって魔力感知を集中させる。
「大人じゃない。子供……」
相手の体つきからして他の参加者の子であるようだ。
壁に手をついて慎重に歩いているが足を引きずっていた。
どこかで罠にやられたらしい。
「くそっ……なんなんだよこれ……」
少年はぶつぶつと文句を言いながら歩いていた。
ジケは気配を消して少年の様子を眺める。
「何が勇気だよ……」
「…………気づかなかったようだな」
少年はジケの方に向かってきた。
少年が手をついているのと逆の方に寄っていたジケは少しドキドキしていたが少年はジケのすぐ横を通り過ぎても気づくことはなかった。
「そっちは行き止まりだぞ」
少年はジケがやってきた道である。
進んでいってもジケが入ってきた洞穴に向かうか行き止まりしかない。
ただ少年にジケの声が届くことはなかった。
「ということはあっちは違うかな」
三つある分岐のうち一つは少年がやってきた方となる。
間違いの方だとは言い切れないけれど正しい道でない可能性が大きい。
ジケは残る二つの道のうち右にある方に進むことにした。
「あっ!」
さらに多くの罠と行き止まりを乗り越えてジケが曲がり角を曲がったところで遠くに光が見えた。
「ようやくか……」
流石に目で光が見えると嬉しくなる。
最後まで罠を警戒しながらも自然とジケも速足になる。
「外だ!」
油断したところを狙ったのか足元に貼られた糸を飛び越えてジケは外に出てきた。
真っ暗な洞窟の中では時間は分からなかったが外に出てみるとすでに夕方であった。
「まさかこの早さで……」
ジケが出てきて周りにいた大人たちにざわつきが広がる。
朝に入って夕方には抜けて出てくるなんて誰も想像していなかった。
それが他国からの参加者であるジケなら尚更である。
「ゴホン……おめでとう。これで君は勇気の試練を乗り越えた!」
慌てたように王様のサトルが現れてジケのことを迎える。
隣にいるウルシュナもジケのことを見て満面の笑みを浮かべている。
「このような早さで勇気の試練をクリアするなんて君は優秀だ。是非とも頑張ってくれ。君なら勝ち抜けるかもしれない」
サトルはジケを見て目を細める。
ねぎらいの言葉はきっと本心からだろうとジケは思った。
サトルとしてはジケが神炎祭を勝ち抜いてウルシュナを連れて帰ってくれればまだ王様でいられる。
だからジケに勝ってほしいのだ。
「残りの勇気の試練が終わるまではあちらでゆっくりと休むといい」
洞窟を抜けた先には大きなお屋敷が一つ立っていた。
どうやらそこで休むことができるようだ。
「王様、次の子が出てきました」
「なに? もうか?」
もう一言二言サトルが声をかけようとしたところで別の子が勇気の試練を乗り越えて出てきた。
「……あいつは」
見てみると勇気の試練を乗り越えてきたのはウラベであった。
あたかも散歩でもしてきたように涼しい顔をして洞窟から出てきたウラベはジケのことを見て驚いたように目を見開き、そしてニヤリと笑った。
「……勝ち抜くのも大変そうだな」
見えているジケですらここまでの時間がかかったのにそんな技術がないだろうウラベもほとんど変わらぬ時間で洞窟を抜けてきた。
剣の才能もあると聞いているし一筋縄では行かなそうであるとジケは思っていた。
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