勇気の試練4
「悪い奴ではなさそうなんだけど……」
敵意のようなものをウラベからは感じない。
好奇心や興味といったものに近い感情を抱いているのだとジケは思っている。
むしろムサカの方が時々ジケのことを睨んできたりしてうっとおしい。
ウラベの目的が何なのかは分からないがジケを何かで意識していることは間違いなかった。
「それでは第三の試練を始める!」
木札を一枚しか持っていなかった子供たちは最初に船をつけた岸まで連れていかれ、残されたジケたちは次の試練が始まることとなった。
どうやら神炎祭の進行は王様が行うらしい。
「次の試練は君たちの勇気を試すものだ」
最初の試練はただ歩かされた。
基礎的な体力と多少の根性を見るものだった。
次の試練は島の中で生き残りを賭けた戦いであった。
強さよりもどう生き残るかの知恵を試している側面が大きかったようにジケには感じられた。
そして次は勇気を試すものだとサトルは言った。
「これから十人ずつ洞窟に入ってもらう。持ち物は君たちの武器、それから食料も与えよう。ただし明かりは無しだ」
この場所に着いた時点でもう日が落ちかけていて暗くなって気づかなかったが、目の前にある崖にはいくつもの洞穴があった。
「中は複雑な道になっている。こちらは二日ずつ時間を与えるから向こう側まで抜けるのだ」
何だそんなこととジケは思ったのだけど困惑している子もいる。
「明かりがなくてどうやって中を抜ければいいんだ?」
「分かんないよ……二日でどうにか頑張るしかないだろ」
今のところ子供たちの間で話題になっているのは明かりを渡されないというところであった。
洞穴の中は暗闇が広がっている。
崖の向こう側まで抜けるのにどれぐらいの道が待ち受けているのか知らないが明かりなしでは短い距離でも危険だろう。
「洞窟の中には罠もある。危険と判断したら止めることもできるし、こちらから止めることもある。もしかしたら……他の子と会うこともあるかもしれないな」
罠もあるということに子供たちのざわつきがさらに大きくなる。
「それでは始める。名前を呼ばれたものは前へ」
勇気の試練というやつが何なのか飲み込みきる前にさっさと始まってしまった。
様子を見たいなと思っていたのにジケが呼ばれたのは1番最初の組であった。
呼ばれた子たちはそれぞれ別の洞穴の前に立たされる。
「げっ」
ジケと同じ組にはウラベもいた。
何だか視線を感じると思ったらウラベが見ていたのである。
入る前にと二日分の食料の入った袋を渡される。
ウラベ以外の子の顔を見てみるとみんな不安そうな顔をしていた。
洞窟の中には罠もあるしどんな作りになっているのか分からない。
その上で明かりとなるものは渡されていない。
不安になるのも当然なのである。
この不安に打ち勝って前に進んでいくことが勇気を示すことになるのだろう。
「それじゃあ行こうか」
最後にチラリとウルシュナのことを見てジケは洞窟の中に入って行った。
光が届かない洞窟の中はあっという間に暗闇になる。
足元も意外とデコボコとしていてただ歩くだけでも危ないところがある。
「ふふっ……」
少し洞窟を進んだジケは思わず笑ってしまった。
それどころか勇気の試練が始まる前から笑ってしまいそうでちょっと大変であった。
「まさに俺のための試練みたいなもんだよな」
なぜならこの試練に関してジケには非常に有利なものがあったからである。
ジケにはグルゼイが師匠となった時から叩き込まれている魔力感知という超感覚的な技術がある。
目に見えないはずの魔力を感じ取るもので、技術のレベルが上がっていくと魔力でものを見ているかのように感知することまでできるようになるのだ。
ジケはたとえ暗闇であっても魔力がある限り周りのことが視えているのである。
魔力がない場所なんてこの世界にはほとんどない。
つまりジケにとってはどんな場所であっても視覚によらず活動することが可能なのであった。
他の子にとっては勇気を出して進まねばならない洞窟の中もジケには魔力感知で視えていた。
罠がある以上警戒はせねばならないけれど、勇気の試練が他の子よりも遥かに楽なものであることは間違いないのである。
「意外と広いな」
今のジケはほとんど目で見ているのと同じレベルで魔力感知で視ることができる。
まずは軽く洞窟の状態を把握する。
天井が高くて横幅もある。
表面はゴツゴツとしていてあまり人の手が加わっているようには見えなかった。
「まあ進んでいくか」
今のところ洞窟は一本道となっている。
洞窟の入り口付近で立ち止まっていても仕方ないのでジケは奥へ進んでいく。
足元の出っ張りなんかに引っかからないように気をつけて歩いていくと周りの変化にジケは気づいた。
自然のゴツゴツとした洞窟の一部が切り取られたように綺麗になっているところが出てきていた。
足元への集中を高めてみる。
「これが罠か」
地面に不自然に四角く盛り上がっているところがあった。
どう見ても自然物ではなく罠であるとすぐに勘づいた。
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