勇気の試練3
「君がジケだね?」
注目を浴びていたウラベがゆっくりと動き出し、ジケの前に立った。
一瞬違いますって答えようとしたけれどジケのことを分かっていそうだったので仕方なく頷く。
「体の均整が取れている」
ジッとジケのことを見つめるウラベは感情が分からない。
「右利き……剣を使うね。どちらかといえば快剣の使い手。君と戦うのは楽しそうだ」
なんだか気味が悪いとジケは引きつった笑顔を浮かべる。
対してウラベはほんのわずかに微笑んだ。
「なんだったんだ?」
ジケのリアクションを待つでもなくウラベはまた木に寄りかかった。
何がしたかったのか分からなくてジケは首を傾げる。
なんだか厄介そうな相手に目をつけられたのかもしれない。
「以上の三名が今回の上位である。これより一晩休み、明日の朝から次の試練を始めることとする」
一応少しは休ませてくれるようだ。
ただ次の日の朝に試練が始まるということはこのままここで何かをするということなのだろう。
「他の子に手を出すことは厳禁だ。みな、好きにくつろいでくれればいい」
好きにくつろいでくれればいいなんて言うけれど今いるところは外である。
「結局また外で寝るのか……」
ーーーーー
野外で寝ることに変わりないが試練中と一つ大きな違いがある。
それは周りを警戒しなくてもいいという点である。
試練中は交代で夜も起きて襲われないように警戒していたけれども今は周りの子を警戒して寝ることはない。
ジケたちは交代で寝ていたけれども短い時間で起きなきゃならない上に襲われるかもしれないという警戒で穏やかに寝てもいられなかった。
比較的余裕のあったジケたちですら三日という警戒し通しの時間で疲れていた。
たとえ野外であっても温かい食事を食べて寝ても大丈夫だという安心感の中にいるといつのまにかぐっすりと眠ってしまった。
そんな中でむくりと起き上がる存在があった。
息をひそめ、気配を殺すように立ち上がったその子はゆっくりと移動し始めた。
みんな疲れて寝ている。
だからその子が動いても起きる子はいない。
「何をしている?」
「……!」
その子はジケの前に立ち、ジケに手を伸ばした。
次の瞬間手首を掴まれてその子は驚いたように振り向いた。
「ジケに何をするつもりだ?」
その子の横に立っていたのはウラベであった。
闇をうつしたような暗い瞳でその子のことをウラベは見つめている。
「ぐっ……」
「声を上げると……折るよ?」
ウラベの手に力が入って掴まれた手首がミシリと悲鳴を上げる。
「なぜ……」
「それはこっちのセリフだ。なぜジケに手を出そうとする」
「……どうせ俺は脱落だ。なら一人でも道連れにしてやろうと思った。あんただってライバル少ない方が……ぐぅ!」
「くだらない……」
その子は木札が一枚で試練に脱落することが決まっていた子であった。
脱落になった子もまだ返されておらず朝になったら勝ち残った子と別れて帰されることになっていた。
脱落した子は周りの子に手を出そうとももうこれ以上落ちることなどない。
どうせ落ちてしまうのなら一人でも多く落としてしまえばいいとその子は考えた。
ただ周りの子で誰が残って誰が落ちたのかなんて分からない。
しかし確実に残っている子は分かっている。
ジケを含め上位として紹介された子たちである。
ジケはウラベのおかげで結局正体がバレてしまった。
ジケ、ムサカ、ウラベの三人のうちで誰が一番手を出しやすいか。
それはジケだろう。
周りを威嚇するような態度をとっていたムサカは復讐が怖く、ウラベもかなりの実力者であり親も立場のある人なことは有名である。
二人ともラグカに住んでいる子たちで、一方のジケは目立たぬようにしていて他国の人である。
狙うならばジケなのだ。
「どうして……」
その子は手首の痛みに顔をしかめる。
ウラベだってライバルが減れば嬉しいだろうとその子は思う。
特に木札を多く集める子は神炎祭を勝ち抜く上で大きな障害になるのでその子が手をかけてジケが次の試練に進めないようにしてしまえば得になるはずなのだ。
けれどもウラベの力がより強くなってその子の顔が青くなり始める。
「ジケに手を出すことは許さないよ」
「わ、分かった……」
「やるなら……ムサカとかいう子にしなよ」
「も、もうやらない!」
「なら大人しく寝てるんだね」
ウラベが手を離す。
その子の手首は手の形に紫になっていた。
「早くジケから離れるんだ」
「……はい」
有無を言わさぬような圧力があってウラベから視線を逸らしてその子はすごすごとジケから離れていく。
「……せっかく会えた面白そうな子なんだ。こんなことで終わりにはさせないよ」
ウラベはチラリとジケのことを見た。
その顔にはうっすらと笑みが浮かんでいたのであった。
ーーーーー
「なんなんだ……」
朝早く日が昇り始める時間にジケは目を覚ました。
すると真横にウラベがいてジケはひどく驚いた。
寝る時には離れた木のところにいたのにすぐ近くにいたものだから驚くのも無理はない。
ウラベは座りながら寝ていたようでジケが目を覚ますとウラベも目を覚ました。
おはようと一言声をかけてウラベはジケから離れていって、なんだったのかとすごく謎であった。
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