勇気の試練2
「なんだかいい匂いがするな」
次は何をやらされるのか想像もつかないままに待っているとお腹を刺激するようないい匂いが漂ってきた。
ダマハは匂いの元を探してキョロキョロと周りを見回す。
「あれか」
子供たちの向こう側にテーブルや焚き火、大型な鍋などがあった。
そこで料理をしているようだった。
「温かい食事を提供します。食べる方は並んでください」
「……これはありがたいな」
他の子も気づいてザワザワとしていると神炎祭の係員が子供たちに声をかけた。
流石に全く休憩も何もないというわけではなかった。
温かい食事を出してくれるらしく子供たちがワッと食事をもらおうと群がる。
ジケたちも温かい食事には飢えているけれど何も食べていない子たちに比べて余裕がある。
我先にと争うような必要はない。
争うまでもなくみんなの分はあるようなのでしっかり待って自分の分をもらった。
「あったかいってだけで美味さが増すよな」
「そうだな」
ジケが料理を受け取る頃にはすでに一杯目を食べ終わってお代わりする子もいた。
今は日が落ちてきたためか大きなかがり火が用意されて周りを明るく照らしてくれている。
「よく試練を勝ち残った。食べながらでいい、聞いてほしい」
王様であるサトルが前に出てきた。
横には護衛らしき人とウルシュナもいた。
子供たちのことをキョロキョロと見回していたウルシュナはジケのことを見つけて嬉しそうに笑顔を浮かべる。
ウルシュナにはジケの木札の数は分からないけれども少なくとも木札を奪われずに残っていることは確実だった。
「この試練はただの通過点に過ぎない。しかしどのような相手がいるのか君たちも気になっているはずだ。ここでこの試練の通過基準と上位の子を教えよう」
ようやく何枚木札があれば通過できるのか教えてもらえるようだ。
「通過基準は……二枚」
サトルは指を二本立てた。
「どのような方法であれ他者から一枚でも木札を奪い、己の木札を守った者が今回の通過者だ」
想像よりもはるかに基準が緩やかである。
拍子抜けだとジケは感じたけれども意外と肩を落としている子もいた。
隠れていただけのような子や戦いを避けた子はこれで振り落とされてしまうということになる。
最低でも一度は戦うか、何か別の方法でも木札を確保しなければ先に進めないということだった。
「一枚しか持っていなかった者はここで脱落だ」
こんなことなら木札が足りるかどうか心配しなくてもよかった。
「そして今回木札を多く集めた上位のものを三名紹介する。まずは三番目、木札を三十一枚集めたムサカ・スケウロだ」
「はぁ!?」
名前を呼ばれた背が高くて少年と青年の間ぐらいの子が立ち上がった。
「こんだけ集めて一位じゃないってどういうことだよ!」
てっきり名前を呼ばれて注目を浴びることになったから声を上げたのかと思ったら違った。
ムサカは三位どころか一位だろうと思っていたのに三位だったから驚いたのだ。
確かに三十一枚もの木札ということは自分の分を抜いて三十人から木札を奪ったということになる。
全員を倒して回ったのではないだろうが、それでもずるい方法だけでは集めることもできない。
「次は二位。木札三十七枚を集めた。ジケ」
「ジケ? 誰だそいつ!」
名前を呼ばれるだけで自ら目立つ必要はない。
自分よりも上のものを敵対視するように探しているムサカから見つからないようにジケは気配を消した。
「あいつみたいに立たなくていいのか?」
「目立ちたくない」
ジケが二位で通過したことにウルシュナも嬉しさを抑えきれないようでニマニマとした顔をしている。
これだけの木札を集めたのは運によるところが大きいのだけど、ウルシュナからしてみればジケがウルシュナのために頑張ってくれたのだろうということになる。
ムサカはジケを見つけようと周りの子を睨みつけているがみんなムサカを避けるように顔を背ける。
多くの子供がいるのでジケという名前だけではジケを探すことも難しい。
「一位は木札四十五枚、ウラベ・カリモトだ」
「ウラベ……!」
「……チッ!」
一位の子が発表されてみんなの視線が一斉にある方に集まった。
そこには木に寄りかかる髪の長い綺麗な顔をした少年がいた。
イカサは驚いた顔をしていて、ムサカはジケの時と違って顔をしかめて舌打ちした。
「ウラベって有名人なのか?」
「この国にいる二人の大将軍のうちの一人、ケンセイ・カリモトの孫だよ。ケンセイが可愛がっていて小さい頃から剣の腕がすごいって噂だったんだ。未来の大将軍なんて言う人もいたよ」
大将軍とは政治的、軍事的にも力を持ってラグカの重要役職で今現在ラグカには二人の大将軍がいる。
そのうちの一人がケンセイ・カリモトで、その孫にあたるのがウラベであった。
昔から才能があって剣に秀でていたためにケンセイはウラベのことをいたく可愛がっていた。
同年代では敵うものなし、未来の大将軍とまで言われる子であり、ムサカもウラベには敵対視するような視線を向けないぐらいだった。
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