勇気の試練1

 補給品の箱の近くにいることは危険だと判断した。

 残っている子供たちのレベルも上がってきて子供騙しの作戦が通じなくなる可能性の方が大きいと考えたからだった。


 ジケたちは残りの時間必要な分の食料だけ持って補給品の箱を離れた。

 イカサも商売の真似事がしたかったぐらいで補給品にこだわることもなかった。


 補給品を狙いにきた子たちの木札も回収してみんなで分け合った。

 合格ラインはいまだに不明であるけれどもそれなりに木札の数はある。


 無理をして自ら戦いに行く必要はないだろうと大人しくしていることにした。


「おっ……これが終わりってことかな?」


 一日目の昼から始まり、四日目の昼になって再び空高く魔法が打ち上がった。

 三日目の夜で終わりなのか、そこら辺も少し微妙であったがやはり内容として三日という期間が正しいようだった。


「やっとか〜」


 イカサが体を伸ばす。

 気の抜けない三日だった。


 多くの木札を抱えていつ襲われるかも分からない状況なのはなかなか大変である。

 イカサとダマハがいてくれて助かった。


 一人だけだったらたった三日といえどキツい戦いになるところだった。


「それでどうすれば……」


 始まる時はいいけれど終わったら何をすればいいのか何も聞かされていない。


「ん?」


 まさかもうすでに次の試練が始まってるなんてことはないよな? なんて考えていると一羽の鳥がジケたちの前に降り立った。


「ついてこい」


「おっ……」


 島を飛び回っていた鳥の多くが自然のものではなく神炎祭を管理している神宮の魔獣たちなことは分かっていた。

 何があるのだろうと見ていたら鳥が急に喋りだしてイカサが驚いた声を出す。


「行こうか」


 鳥が飛び上がって近くの木の枝に止まった。

 鳥は短く飛んで木の枝に止まるを繰り返し、ジケたちはその後を追いかけていく。


「はぁ……風呂入りたいな」


「あ、そっか。ラグカではお風呂の文化が盛んなんだっけ」


 三日、それどころか島までの移動も含めればかなり長いこと外で活動し続けていることになる。

 持っているのは自分の服と与えられた武器、木札しかない。


 どこか水辺でもあれば身綺麗にできたのだろうけど、イカサと会って食料を手に入れたからは不要な体力を使わないように捜索はしなかった。

 フィオスがいたなら体も綺麗にしてもらうことができたのにフィオスすらいない時間を過ごしたのですっかり薄汚れてしまった。


 サーシャがわざわざ騎士にもお風呂を用意してあげていたことからも分かるようにラグカにはお風呂という文化が広く定着している。

 体がベタつくような感じがしてイカサはお風呂で綺麗にしたいなとため息をついていた。


 せめて綺麗な布で体ぐらいは拭きたいとジケも思う。


「それよりもフィオスに会いたいな」


 不思議なものでフィオスがいないと手寂しくなる。

 いつも抱きかかえているし、そうでない時だって気づけばフィオスを撫で回したりしている。


 フィオスがいないと何をしていればいいのか分からなくなってしまうほどにフィオスはそばにいた。


「いつまで歩かせんだよ……」


 鳥の後を追いかけ昼からずっと歩いている。

 もうすでに夕方にさしかかっていてかなりの距離を歩いてきた。


 最初に船がついた岸まではそこまで時間もかからないはずなのにどこに連れて行かれているのかイカサも少し不満そうである。


「……なんだここ?」


「全く気づかなかったな」


 もうすぐ日が暮れるぞなんてイカサが文句を言っていたら唐突に森を抜けた。

 そして目の前にはそりたつ崖が立ちはだかっていた。


 木が鬱蒼と茂っていたのでこんな崖が目の前まで来ていたことにイカサもダマハも気づいていなかった。


「他の子も集められているな」


 見ると崖前に木札を失うことなく勝ち残った子が集められていた。


「木札を確認します」


 ジケたちを案内した鳥を肩に乗せた男性が近づいてきた。

 ジケが木札を渡すと男性はその枚数に驚いたような顔をした。


「少しあちらでお休みください。じきに次の試練が始まります」


「えっ……もう次?」


 嫌そうな顔をするイカサの質問に答えることはなく木札を持って男性が離れていく。

 ジケたちは仕方なく他の子たちと一緒の場所で待つことになった。


 最初にいた人数よりもかなり人が減っている。

 見たところ補給品の箱を狙って集まってきた子たちは残っていないようだった。


 昼間の襲撃だったので起きて誰かの木札を奪えばまだチャンスはあったが誰もそんな元気はなかったようである。

 残っている子も割と二極化している。


 顔色のいい子と顔色の悪い子である。

 おそらく食料も手に入れられず三日という時間をひたすら耐え延びた子が顔色の悪いなのだろうとジケは感じた。


 弱そうな子は淘汰されると思っていたけれど隠れていたり襲われることがなかったのか意外とそうした子も残っていた。


「次って……気が重たくなるな……」


 イカサが肩を落とす。

 少しぐらい休ませてもらえると思ったのにすぐに次の試練だなんて聞いていない。


 ジケとしてもイカサの意見に同意である。

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