共闘3

「まさか……こんな手を使うとはな」


「なかなか面白いと思うよ」


 この状況はジケが作り出したものだった。

 少年たちに囲まれているとジケの魔力感知によっていち早く察することができた。


 だが少年たちはジケたちにバレないようにとゆっくり慎重に包囲網を狭めていた。

 つまり少年たちがジケのところに来るまでに時間があったのだ。


 そこでジケは少しばかり策を巡らせた。


「ちょっとだけ食料残して隠れるなんて意外と思いつかない考えだよ」


「そうだな。敵が目前に来てて戦うか、逃げるかの選択を迫られてるんだもんな」


 相手の狙いは補給品の箱、ひいては中にある食料である。

 ジケたちは補給品の箱に入っていた食料を取り出して近くに隠した。


 そして自分たちも木の上に隠れたのである。

 少年たちは補給品の箱までやってきてジケたちがいないことに疑問を感じたけれども、それよりも優先して箱の方を確認した。


 補給品の箱を確認してみると入っていたのはほんの少しの食料。

 これがミソだった。


 仮に二、三人だったなら分け合うとか、もっと平穏に済ます手段があったのかもしれない。

 だが十数人もいて一人分しか食料がなければ分け合って食べることも難しい。


 となるとお腹の空いた少年たちはどうするか。

 きっと食料をめぐって争いが始まるはずだとジケは考えたのである。


「ここまで完璧に策にハマると逆に怖いくらいだけどな」


 結果的に作戦は大成功。

 少年たちは仲間内で争い、残ったのは体つきのいい少年と体の小さな少年のみだった。


「くそっ……」


 やられたと体つきのいい少年は思った。

 ただお腹も空いていてジケたちを睨みつけながら勝ち取った食料を口に詰め込んで食べる。


「んぐ……お前ら倒してやる!」


 体つきのいい少年は水で口の中のパンを流し込む。

 そして剣を構える。


「そんな焦って食べなくてもいいのにな」


「そうだな。ちょっとぐらいは待ってやったのに」


 どのみち残っているのは二人だけなのだからジケたちが焦る必要はない。

 食料を食べるというのなら待ってやるぐらいのことをするつもりだったけれど体つきのいい少年はさっさと食べてジケたちと戦うつもりのようだ。


「イカサ」


「おう!」


 体つきのいい少年は他の子を倒して疲れ切っている。

 しかし油断なんかしない。


 ジケとイカサの二人で体つきのいい少年に向かっていく。


「お前は俺だ」


「えっ……」


「逃すと思うか?」


 ダマハはこっそり逃げようとしていた体の小さな少年の肩をしっかりと掴んだ。


「卑怯だぞ!」


「この人数で襲い掛かろうとしておいて何言ってんだよ!」


 ジケとイカサに挟まれて体つきのいい少年は防戦を強いられていた。

 そこそこ剣の腕はあるようだけど二人を相手できるほどの技量はない。


 イカサの戦い方は速度を重視したもので普通に戦っても体つきのいい少年に勝てそうだなとジケは感じていた。


「ぐっ!」


 腰に木剣が当たって体つきのいい少年が顔を歪める。

 体つきのいい少年ももう体力の限界だった。


「んじゃ終わらせようか」


 ジケもイカサもまだ本気を出していない。

 相手をいたぶる趣味はないし戦いを終わらせようとジケは思った。


 ついでに今後手を取り合うこともあるかもしれないイカサに少し力を見せておこうと思った。


「えっ?」


 振り下ろされたジケの剣を体つきのいい少年が防いだ。

 けれど体つきのいい少年が持っていた剣が半ばから切れて折れ、体つきのいい少年もイカサも思わず驚きに目を見開いた。


「悪いな。少し寝ててくれ」


 何が起きたのかも分からず体つきのいい少年はジケの剣で頭を殴られて気を失って倒れた。


「よし、終わり」


 振り返ると体の小さな少年もダマハによって気絶させられていた。


「い、今の何だよ? 魔法……?」


 体つきのいい少年は剣に魔力を込めていた。

 金属の切れる剣に比べて魔力を込めても効果は薄いけれど魔力の込められた剣をただの木の剣で切るなんて普通のことじゃなかった。


 ジケが魔法でも使ったようにイカサには見えた。


「技術さ。俺もただの商人ってだけじゃないってことだよ」


 ジケはニヤリと笑った。


「……わざと降参しなくてもジケには勝てなそうだな」


 どんな技術なのかイカサには分からないけれど簡単に身につくものではないことは分かる。

 良い相手と手を組んだのかもしれない。


 イカサもニヤリと笑った。

 ジケとイカサは軽く手を上げてハイタッチしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る