共闘2

「……ジケ?」


 少しニヤつくような顔をしていたのに今度は真面目な顔になった。


「近づいてきてる」

 

 いよいよ大丈夫かと思ってしまったがジケがそっと手を木剣に伸ばしたのを見てイカサも表情が固まる。


「イカサ、ダマハ、敵が来てる」


「……ホント?」


「ああ。しかも割と数が多い」


 広げていたジケの魔力感知の範囲内に人が入ってきた。

 一人二人ではなく十人ほどいて、まるでジケたちを囲むように近づいている。


 ジケとイカサは立ち上がる。


「……何人来ているか分かるか?」


「ちょっと待って」


 ジケは魔力感知に意識を集中させる。

 ぼんやりと視えていた人影がはっきりとしてくる。


「数は十三人」


 怒りのような表情を浮かべた者、困惑したような表情で周りの様子を窺う者、不安な目をしている者などさまざまいる。

 強固な絆で結ばれた集団には見えない。


 ただ同じ目的を持っていそうだということはジケにも分かる。


「狙いは食料だな」


 気づけばもう二日目も日が傾いてきている。

 前の日の昼ごろから始まり、およそ一日と半分が過ぎようとしているのだ。


 何も食べずに動き回っていたのならかなり消耗しているはず。

 試練は三日と言っていた。


 あと一日なのか、それとも一日半なのかジケにはわからないけれど、もはや限界という子も多いのだろう。

 団結の理由として補給品の食料を狙うというのも十分にあり得るのである。


「……チャンスだ」


「チャンス?」


 最初に体力がないものが脱落して、次に一日の戦いで実力のないものが脱落した。

 まだ残っている子は多いだろうけど大なり小なり厳選されてきていることは間違いない。


 つまり今団結している子たちもあまり油断はできないかもしれないということである。

 囲まれてしまったのならかなりのピンチでありチャンスではないだろうとイカサは思ったのだが、ジケの目は明らかに何かを考えていた。


 ーーーーー


「おい、誰もいないじゃないか!」


「そ、そんなはずは……」


 背の高い体つきのいい少年に叱責されて体の小さな少年がビクリと震える。


「こっちに補給品の箱があるぞ!」


 腹が減った。

 この思いで団結することになった少年たちは補給品の箱を見つけた。


「な、なんだこりゃ!?」


 喜び勇んで箱を開けた少年は中を見て驚いた。


「なんも入ってないじゃないか!」


 少年が驚いたのは補給品が入っていると思ったのに箱を開けてみると補給品がほとんどなかったからである。


「水も食料も……一人分?」


 箱は空ではなかった。

 しかし中に入っていたのは箱の大きさにしてはもの寂しい一人分の水と食料だけであった。


「おいこら! ここに来りゃ食料があるんじゃなかったのかよ!」


 体つきのいい少年が体の小さな少年の胸ぐらを掴んで持ち上げる。

 少年たちを集めたのは体の小さな少年であった。


 補給品の箱を確保していたのはイカサであるが最初から最後までイカサが全員を倒して確保したものじゃなかった。

 イカサの組は中央近くからのスタートとなり、補給品の箱は比較的すぐに見つかった。


 そのためにイカサの組の多くの子が集まって争いとなった。

 勝ち残ったのがイカサでイカサ以外の子同士で戦って倒れた子もいたが中には逃げてしまった子もいたのである。


 それが体の小さな少年であった。

 戦う勇気もなくて補給品の箱の近くをウロウロしていたのだけどお腹が空いてどうしようもなくなった。


 だから体の小さな少年は自分一人でイカサを倒すのは無理なので他の人を巻き込んで食料を確保すればいいと考えた。

 木札も大事だがまず空腹を優先するという子も出てくるだろうと思い、他の子に声をかけて集めたのだ。


 補給品の箱を独占している奴がいる。

 そしてそいつをどかせれば食料が手に入ると声をかけたのに箱を開けてみると一人分の食料しかない。


 それは怒るというものである。


「そ、それは……」


「こ、こいつ!」


 体の小さな少年がどうしてこんなことにと動揺する中で他の子が食料を持って行こうとした。

 さらに他の子がそれを防いで揉み合いになる。


「チッ! それは俺んだ!」


 体つきのいい少年が体の小さな少年を投げ飛ばすように手を離し食料を争う子たちに向かう。


「な、なんでこんなことに……」


 最初の時にチラリと見えた箱の中にはたくさんの補給品があった。

 多少食べたところでまだまだ余っているはずなのにと体の小さな少年は思った。


「放せ!」


「うるせえ! お前こそ諦めろ!」


 いつの間にか一人分の食料をめぐってみんなで争いになっていた。

 元々強い絆で結ばれた相手ではなく食料という目的のために一時的に手を組んだにすぎなかったので一人分しか食料がないのなら争いになるのは当然だった。


 体の小さな少年には見ているしかできない中で体つきのいい少年が他の子を倒していく。

 体格もいいので実力も一つ抜きん出ているようである。


「はぁ……はぁ……」


 結局最後に残ったのは戦いに勝ち残った体つきのいい少年と何もできずに地面に座り込んでいた体の小さな少年だけだった。


「ほら、だから言っただろ? 作戦通り」


「ここまで上手くいくとはな」


「浅はか……だけど腹が減ったら仕方ないか」


 体つきのいい少年が全員を倒したはず。

 なのにまだ他の子の声が聞こえて体の小さな少年は振り返った。


 そこにはジケたちが立っていた。

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