共闘1

「俺には二人の兄がいるんだ。二人とも頭も良くて商人としての才能がある。だから父上は二人のうちどちらかを跡継ぎにと考えているんだ」


 食料も確保できたので歩き回る必要も無くなった。

 イカサと手を組んだジケは食料の入った箱の前で時間が過ぎるのを待っていた。


 得体の知れない相手と組むことにダマハは不満そうであったけれどもジケが組むという以上反対もできなかった。

 ジケからしてみれば得体が知れないのはダマハもイカサも同じ。


 むしろ王様の命令でなんてダマハよりも取引という利益のためだとハッキリしているイカサの方が信頼できる感じすらあった。

 二回ほど補給品を狙って襲いかかってくる子はいたけれどそれぞれ一人ずつだったので全く問題にならなかった。


 暇を持て余すと話すぐらいしかやることがなくなる。

 イカサはどうしてジケにあんな交渉を持ちかけたのはポツリと話し始め、いつの間にか身の上話になっていた。


「だから父上は俺のことを王城か、神宮の騎士にしようと昔から剣の練習をさせてたんだ」


 やはりというべきかイカサは結構強かった。

 襲いかかってきた子のうち一人はイカサが倒したのであるが、相手もそれなりだったのに圧倒して倒してしまった。


 イカサの父親はイカサに商会を継がせるつもりがなかった。

 だがイカサは商人になりたいと思っていたし、できるならイカサの家であるミドリ商会を継ぎたいと考えていた。


 でも跡継ぎになってフィオス商会と取引するなんていっていたけれど実際のところイカサはまだ跡取りの候補ですらなかった。


「でも……俺商人になりたいんだ。昔からみんなが働いてるとこ見てきたし、大変なの分かってるけど騎士じゃなくて自分の力で商売してやっていきたいんだ」


 イカサはグッと拳を握る。


「そのために俺も……商人として利益を上げることで俺もできるんだと父上に証明するんだ!」


「それが俺ってことか?」


「国内の取引はもう固まってる。食うには困らないけれど大きな利益はないし俺が入れるような新しいものもない。なら外から何か持ってくるしかない。ラグカはあんまり他の国と交易も盛んじゃないから他の国でいいものがあればいい機会なんだ!」


 せめて跡取りとしてみてもらうためには商人としての能力を証明せねばならない。

 しかし安定的な取引をしているミドリ商会は大きな賭けに出ることはなく目覚ましく結果を出せるチャンスは巡ってこない。


 ラグカ国内でも大きな取引は決まってしまっていてイカサに任されることもない。

 イカサが認められるほどの功績を上げるためには外から何かの取引を確保しなければならない。


 こんな状況でもジケは交渉のテーブルについてきた。

 ただものではない強かな商人の雰囲気をジケから感じ取った。

 

 さらに商品の説明を聞いてイカサは心が躍った。

 ラグカどころか他の国でも仕入れることができない商品をジケは持っている。


 イカサの商人としての勘が叫んだ。

 ジケを逃してはならないと。


「なら……どうしてこんなものに参加してるんだ?」


 神炎祭は商人とはほど遠い存在だと思う。

 神女の相手を決めるなんて綺麗事を言っているが一皮剥いてみると非常に野蛮な戦いを強いられている。


 勝ち残ってしまえば商人としての資質よりも剣の資質の方を証明してしまうことになる。

 それに仮に最後まで勝ち残ると待っているのは王様という立場になる。


「…………父上が参加しろって」


 イカサは神炎祭に前向きに参加したものではなかった。

 父親に言われて仕方なく参加した。


 王様になれればそれでよく、なれなくとも神宮や王城の関係者は神炎祭の戦いを見ている。

 これから騎士になってほしい父親とすればここで目をつけてもらえばいいという考えなのである。


 神炎祭での動きを見て優秀な子は国や神宮、有力貴族などに声をかけられたりするのだ。

 神炎祭で優勝して神女の相手として王になるというよりも後々のことを考えてイカサを参加させたのだ。


「参加しなきゃ仕事も手伝わせてくれないっていうし……」


「ふふっ」


「俺にとっては笑い事じゃないんだ……」


 今のところイカサのことは信頼してもよさそうだとジケは思った。

 将来のことをちゃんと考えてそのために足掻いている。


 ジケはそういう奴は嫌いじゃない。


「ただそれなら勝ち残っていいのか?」


 勝ち残るほどにイカサの剣の方の腕前は証明されてしまう。

 父親も騎士になることに乗り気になってしまうのではと思う。


「それはそうだけど上手くやれば顔を売るチャンスでもあるだろ?」


 剣の腕も見られるかもしれないが有力な人たちに顔や名前を覚えてもらえるチャンスでもある。

 自分を売り込む好機でもあるのでわざと負けるというつもりはなかった。


 どこまでも商人的な利益を考えての行動だった。


「ただジケ相手なら負けるからな!」


 イカサは親指を立てて笑う。

 顔を売るよりも今はジケとの関係が大事である。


 これから先でジケと戦うことになれば上手く負けようと思っていた。


「ふっ、あんがとな」


 イカサはやる気もあるしガッツもある。

 もしかしたら本当に跡取りになってしまうかもしれない。


「いや……むしろ…………」


「なんだ?」


「ああ、ちょっと面白いこと考えてな」


 ぶつぶつと呟くようにして何かを考え始めたジケにイカサは首を傾げる。

 もしかしたらいいこと思いついたかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る