たくましき商魂2
「ん?」
「なんだ?」
「この先に人がいる」
「人だと? 見えないが……」
「もっと先だからな」
とりあえず何か把握できればいい。
そう思ったジケは魔力感知を目一杯広げていた。
範囲を狭めて集中すればジケの周辺を目で見ているかのように把握することも可能なのであるが、今は別にそんなこと必要ない。
周りの警戒と食料を見つけ出すことが今の優先である。
なので魔力感知を広げて怪しいものはないかと探していた。
離れるほどに魔力感知の精度は落ちてぼんやりとしか感じ取れなくなるもののこうした自然環境の中では人はかなり異質な存在なので、人がいるということだけはしっかりと分かるのだ。
少し離れたところに人がいることをジケは感知した。
森の中でダマハには見えずともジケには分かるのだ。
「一人……箱?」
どうしたって敵対する可能性の方が大きい。
人ならば避けるべきであるが、相手の規模や動向によってどう避けていくのかも変わってくる。
避けた先が相手が動く方向だったら結局かち合ってしまう。
ジケたちのように仲間がいる可能性もあるのでもう少し近づいて相手を観察してみる。
他の人は感知できない。
ということは相手は単独で動いているようだった。
ただジケが気になったのは相手が移動するような気配もないこととその相手のそばに自然物ではなさそうな四角いものが置いてあることだった。
かなり大きめの四角いものは箱のように思えた。
「補給品か?」
個人で持ち込めるサイズではない。
となると島に設置されている補給品の箱なのではないかと思った。
「この先に補給品があるかもしれない」
「本当か?」
補給品があるかもしれない。
ダマハはパッと笑顔を浮かべた。
ジケよりも年上で大人びて見えるダマハだがまだまだ食べ盛り成長期である。
お腹が空いていないはずもなく補給品があるならご飯が食べられると少しテンションが上がる。
「ただ先に見つけている奴がいるようだ」
「……何人だ?」
「一人だと思う」
「ならいけそうだな」
こちらはジケとダマハの二人である。
多少人数差があっても勝てる自信のあったダマハは一人なら余裕だろうと笑う。
「いこう。メシが俺らを待ってる」
「おい、こっちだ。そっちじゃない」
「あっと……悪い」
ダマハも乗り気なので補給品を確保していると思われる相手の方に向かっていく。
一応魔力感知で相手のことを見つつ罠も警戒していたけれど特に何かがある雰囲気もない。
「おや?」
暇そうに空を見ていた少年は現れたジケたちの方に視線を向けた。
「ようこそ〜ミドリ商店へ」
剣を持って現れたジケたちを見ても少年は冷静だった。
目を閉じているのかと思ったけれど感情が読めないほどに細目であるようだ。
「商店だと?」
ダマハは眉をひそめる。
何が言いたいのか分からないと思った。
「お探しのものは食料ですね?」
ニコリと笑みを浮かべる少年から今の所敵意も感じないし後ろにある箱を守ろうとする気配も感じない。
「必要ならお譲りしますよ」
「……対価は?」
「ジケ!?」
ダマハは戦うつもりで剣を構えているけれどジケは相手の話に乗ってみることにした。
ジケが戦わないものだからダマハは驚いて顔を向けた。
「……初めてまともに話の通じる人に出会ったよ」
少年も少年でジケが話に乗ってきたことに驚いたようだった。
「木札二枚。それで一回分の食料を譲るよ」
「なっ……木札を取るのか!?」
少年は二本の指を立てる。
やはり話からして箱の中には食料が入っているのだろうとジケは思った。
食料と引き換えに木札を要求されるだなんて思いもよらなかったダマハは少年のことを睨みつけるように見ている。
「二人分三枚にならないか?」
「……マジかよ」
わざわざ木札を渡すこともない。
ダマハはそう思っていたのにジケはそのまま交渉を始めた。
「…………うーん、うん! 初めてのお客さんだ、特別にサービスしよう」
少し悩んだようだったが少年は大きく頷いた。
「先払いでお願いします」
「手渡した方がいいか?」
「……じゃあそこから投げて」
ジケは自分の手持ちから木札を三枚取り外すと少年の前に投げる。
「毎度あり」
少年は木札を拾うと箱の蓋を開けて中を漁り始めた。
ダマハはどうしたらいいのか分からず剣を構えたままぼんやりとジケと少年の様子を見ていた。
「はい、これが食料。どうせ他の子はいないしこっちもちょっとサービス」
少年は箱の中から食料や水を取り出してジケに渡す。
箱の中には簡易的に食べられて日持ちするようなものが詰まっているようで一回分にしては多めの量を少年は渡してくれていた。
「ダマハ、食べよう」
「あ、ああ……」
まさか木札を渡すとは。
まさか木札をもらって本当に食料を渡すとは。
ダマハは何が起きたのかと理解もできていない。
とりあえずジケから食料を渡されたので受け取ってそれを食べ始めた。
「どうして戦わない?」
ダマハは声を抑えてジケにもっといい解決方法があったのではないかと声をかける。
「平和的に済むならその方がいいじゃないか。それに……」
「それに?」
「あいつ結構強い」
「強い? どうして分かる?」
チラリと少年のことを見る。
ひょうひょうとした感じは強者感があるけれど体格的にはそれほど恵まれているわけでもない。
ダマハの方が体つきは良く、自分の方が強そうだと思っていた。
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