たくましき商魂1

「ついてくるつもりか?」


「この試練は協力しあうことも許容の範囲だ。一人よりも二人の方が突破できる可能性は高くなるだろう」


「まあ……それもそうか」


 少しばかり仮眠を取ったけれどダマハはジケに手を出してこなかった。

 見張りを交代して朝まで過ごし、移動を始めたジケにダマハはついてきた。


 王様の命令でジケのことを守ろうとしているのだし当然といえば当然であるが、さも最初から仲間でしたみたいな顔をされるとそれも違うと感じてしまう。

 けれど仲間が必要なこともまた事実。


 まだ完全に信頼はできないもののマンサなんかよりはよほど信頼してよさそうには思える。


「あんたは王様に興味ないのか?」


 ただもう少し探り入れておく。


「王様に? 興味はあるさ」


「じゃあ俺のこと蹴落とした方がいいんじゃないか?」


「興味があることと実際になるかどうかは別物だ。それに大きな問題がある」


「問題? 何があるんだ?」


「俺には恋人がいる」


 思わずジケはダマハの顔を見た。

 真面目に話をしている目をしていた。


「婚約関係じゃないけど将来を誓った相手だ。アルシュナ……」


「ウルシュナだ」


「あの子も美人だが知らない子だし俺にはカヤサがいる。カヤサ泣かせてまで王様になるつもりはないよ」


「そのカヤサって子のこと好きなんだな」


「……ああ、幼馴染なんだ」


 ダマハが頬を赤くした。

 演技ではないとジケは感じた。


 とっさに頬を赤くする演技ができるような人は少なく、まだ若いダマハにそんなことができるとは思えない。

 カヤサという子が好きなのは本当なのだろう。


 王に興味がないわけではないけれども王になるためにはウルシュナと結婚せねばならない。

 王と恋人どちらを取るかでダマハは恋人を選んだ。


「少しは信頼してもいいかもな」


 こんな嘘を用意して完璧な演技をしているのだとしたら騙されても仕方ない。

 背中を預けるほどまで信頼はしなくても味方とみてもいいかなとは思った。


 これが嘘だったら人間不信になってしまいそうだ。


「にしても腹減ったな……」


 もう丸一日何も食べていない。

 過去では二、三日何も食べないこともあったけれど今回は忙しくてもご飯を欠かしたことはない。


 小型の魔物ぐらいいてもおかしくないと思うのだけど人の気配が多いせいかここまで人と監視の魔獣以外のものの姿を見ていない。

 もしかしたら神炎祭を管理している神宮の方で追い払っているのかもしれないなんて可能性も考えた。


「食料がある場所なんかは聞いてないのか?」


 王様であるサトルの命令を受けているなら何か試練に関して有利になる情報でもないのかとジケはダマハのことを見る。


「残念ながら何も。そもそも神炎祭は神宮の管理で王様は関われない。どんな試練があるかは始まってみないと王様にも分からないんだ」


「なるほどな」


 全ての政務は王様が行うけれど王は神女の相手でしかない。

 神宮は普段は口を出さないけれど王様と同じくらいの権力を持っていて重大な事に関しては神宮の方が上の時もある。


 その一つの事例が神炎祭となる。

 王様は神炎祭に口も手も出すことはできない。


 有利な情報どころか試練内容すら知らされていないのだ。

 ダマハだって事前に神炎祭について知ることができたのなら食料ぐらい懐に忍ばせてきたとため息をつく。


「とりあえず食べるもん探さないとな」


 木札はある程度確保した。

 今必要なのは木札ではなく食料だ。


 このままでは最終日もまともに動けなくなってしまう。


「これが狙い……かもな」


 木札は諦められても空腹は襲ってくる。

 どうしても食料を得るためには島に設置されている補給を探し出して確保せねばならない。


 木札以外の争いがそこに生まれるのである。

 島に食料になりそうな生き物が見当たらないのもこうした争いを狙ってのものなのだろう。


「一体どこに食料はあるんだ?」


 そこらへんにキノコは生えているけれど知識もないのにそんなものに手を出すほどジケもバカではない。

 最悪もう一日ほど耐えれば試練は終わるので毒かもしれないキノコに命をかけることはしない。


「フィオスいたらな……」


 こういうときにもフィオスは役に立つ。

 フィオスには毒も効かないので毒でもなんでも食べる。


 そして人に有毒かどうかもフィオスは判別できる。

 食べられないなら出してと教えてやると毒があるものをぺっと吐き出すのだ。


 そうやって毒かどうかの鑑定ができる。

 大丈夫だとしても好んで毒物を食べさせたくはないのでジケが毒を食べさせることはないのだけれども。


「島の真ん中に行こう」


 どこに何があるか分からないけれど真ん中には何かある可能性が高いとジケは思っている。

 リスクも高いだろうけど動けるうちに動いておかねば辛くなってしまう。


「今どのあたりだろうな?」


「さあ……だいぶ真ん中に近くなってきていると思うけどな」


 方角もわからないし、島全体の形も分からない。

 なんとなく海から見た時の島の感じやスタート地点から推測した真ん中に向かっているだけで本当に真ん中なのかも少し怪しい。


「でも進んでいくしかない」


 真ん中に向かっているのか分からなくても立ち止まる選択肢はない。

 不安でも食料を探すしかないのだ。

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