生き残れ!5

「寝てるか?」


「おーい……寝てるようだな」


 完全に日が落ちて真夜中に動き出す影があった。

 それはマンサたちだった。


 ジケ以外の子がマンサによって起こされている。

 他の子は揺すってまで起こしたのにマンサはジケだけは軽く声をかけるだけで本気で起こす様子はない。


「本当にやるのか?」


「もちろんだよ。だってこいつ何枚木札持ってんだぜ?」


「そんなに木札持ってるやつせっかく仲間にしたのに……」


「それにこいつよそモンだ。倒して恨まれたって知らねーよ」


 マンサはジケを闇討ちするつもりだった。

 周りの子は日中マンサがジケと仲良くしていたように見えて困惑しているが、マンサは最初からそのつもりだった。


 ジケに声をかけたのも話して仲良くなったのも話し続けて他の人を寄せ付けなかったのも全部このためだった。


「見つかんなきゃどうしようかと思っていたけど……運が良かった。ついでに木札たくさん持ってきてくれて……あんがとよ」


 マンサたちに背を向けて寝転がっているジケは動かない。

 ニヤリと笑ったマンサは木剣を振り上げる。


「お前はここで終わ……ぐっ! ……な、なぜ…………」


「ぎゃっ!」


「うわっ!」


 静かに響き渡る殴打の音と悲鳴。


「どうしてそんなことをしたんだ?」


 気づけば立っていたのはダマハだけで他の子はダマハにやられて気を失っていた。

 そして寝ていたはずのジケは木剣を手に体を起こしていた。


「……起きていたのか?」


「どうにもあいつ信頼できなくてな」


 消えかけている焚き火にジケは枝を放り込む。

 ジケは最初から寝てなどいなかった。


 マンサが声をかけてきた時から怪しいと思っていた。

 マンサは上手くジケと距離を近づけられたと感じていたようだけどジケはマンサのことを警戒していたのだ。


 ジケのことを仲間に誘い、一番最初に見張りの番をすると言い出した時には寝ないでおこうとジケは決めていたのである。

 マンサが他の子を起こしてジケのことを襲う計画を話しているのも起きていたから聞いていた。


 剣が振り下ろされたら行動して返り討ちにしようと思っていたらダマハが動いた。

 ジケに切りかかろうとしていたマンサをダマハが後ろから切り捨てたのだ。


 マンサに同調してジケを倒そうとしていた周りの子までダマハは倒してしまったが、ジケに手を出す様子はない。

 だから普通に声をかけてみた。


「なんで俺を助ける?」


 助けてくれたことはありがたいが理由が分からない。

 ダマハとしても周りの子を倒すよりジケを倒した方が楽だろう。


 周りの子を圧倒できるほどの力があるならジケを倒した後でみんなを倒してもよかったはずなのだ。


「王の命令だ」


「王様の?」


 ジケは眉をひそめる。

 なぜ王様であるサトルがジケを助けるのだ。


「王はあなたが神炎祭を勝ち抜くことを望んでおられる」


「……なぜだ?」


 話しながらダマハは倒した子たちの木札を回収している。


「理由はさまざま……大きなものとしてはあなたが神炎祭を勝ち抜けば神女は神女でなくなる。新たな神女が選ばれるまで……いくらか時間ができるだろう」


「…………なるほどな」


 ジケはダマハの短い説明を聞いて大体のことを察した。

 現王であるサトルは神炎祭で神女の相手が決まれば王を退くこととなる。


 それは定められたルールであり、たとえ王であっても変えられない。

 だが例えば神女の相手が神女を連れ去ってしまえばどうなるか。


 サーシャの時はルシウスが神炎祭を勝ち抜きサーシャを自国に連れ帰った。

 その結果前の王様が一時的にそのまま政務を続け、次の神女が選ばれてまた神炎祭が開かれることとなった。


 つまりサトルとしてはジケが神炎祭で優勝してウルシュナを連れ帰ってくれればまだ王としていられるということになる。

 ダマハが何者なのか、サトルとの関係はジケにも分かっていない。


 しかしサトルとダマハは関係者なのだろう。

 ジケを手助けするようにとダマハは言いつけられていたのである。


「しかし全部分かっていたとはな……助ける必要もなかったか」


 ダマハは回収した木札から二枚をジケに投げ渡す。


「いや、助かったさ。……ん?」


 ジケは近づいてくる人の気配を感じて木剣を手に取る。

 子供ではない。


 魔力感知で見てみると大人が数人向かってきている。


「大人が……敵か?」


 年齢的には大きくとも数個上までしかいないはず。

 なのに明らかに大人ほどの体格の人が近づいてきていてジケは警戒をあらわにする。


「警戒しなくても大丈夫だ」


「なんだと?」


 ダマハも味方というにはまだ信頼しきれない。

 とりあえず全てを警戒しているとジケからだいぶ遅れて近づく人たちに気づいたダマハはフッと笑った。


「な、なんだ?」


 全身真っ黒な姿をした人たちが森の中から出てきた。

 顔にも黒い布を垂らしていて顔も分からない。


「一日が終わったようだ」


 黒い姿の大人は気を失ったマンサたちを抱えて連れていく。


「お前を蹴落とそうと早めに動いたのが仇となったな」


 黒い姿の大人は神宮の人たちだった。

 一日が終わったので木札を持たない子供たちは脱落となり、退場させるために来ていたのである。


 マンサの作戦としては日が変わるギリギリでジケを倒して木札を奪い脱落させるつもりだったのだ。

 しかし逆にやられてしまったためにそのまま脱落することになったのである。


「……寝ようか。少なくともこの競技では俺は君の味方だ」


「…………そうしようか」


 マンサたちが連れていかれてダマハと二人きりになった。

 何も食べず、全く寝ずでは流石に厳しい。


 少しぐらい寝ておかねば体が持たない。


「じゃあ俺は先に寝る……適当なところで起こして交代しよう」


「なっ……」


 ジケは木剣を振るい、焚き火を消した。

 火がなくなるとあたりは暗闇に包まれる。


 ダマハは敵ではなさそうだけど信頼もできない。

 複数人いる状況では遠慮していたがジケは暗闇でも構わないのだ。


 火を消したジケは素早く木に登る。


「おやすみ。見張り頼んだよ」


 枝に座り、幹にもたれかかってジケは目を閉じる。


「……一人でも大丈夫そうだったな」


 もはやジケがどこにいるのかも分からない。

 ダマハはわずかにくすぶって見える焚き火の近くに腰を下ろして小さくため息をついた。

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