生き残れ!4

「監視か……」


 魔力感知で見てみるとジケのことを見ている鳥がいることに気がついた。

 神炎祭を管理する神宮の配下の魔獣である。


 これ以上倒れている子に手でも出そうものなら失格にさせられてしまうだろう。


「……島の真ん中の方に行ってみようか」


 どの方向に行くのも決め手がない。

 ならばとりあえず島の真ん中に向かってみることにした。


 追いかけてくるのは鳥だけで人はいない。


「うおおおおっ!」


「ふっ!」


「ぐわっ!」


 歩いていると襲いかかってくる子がいた。

 息を潜めてジケに奇襲をかけてきたのだ。


 ただジケにはお見通しなのであっさりとやられてしまう。

 最初に囲まれたようなジケを計画的に狙うものはなくたまたまジケが近くを通りかかったから襲ってきたものだった。


 そんな感じの奇襲を三回ほど返り討ちにした。

 広い島でも参加者の人数が多いので動き回ればこんなこともある。


「おっ、ジケじゃないか」


「……マンサ」


 島の中をのんびりと散策していると五人ほどの集団がいるのをジケは事前に察知した。

 襲われると面倒なので隠れてやり過ごそうと思っていたがその集団は正確にジケの方に近づいてきた。


 集団の中心にいたのはマンサだった。

 島に来るまでの道中しゃべり通しでやかましかったあのマンサである。


「一人なのか?」


「ああ、なかなか友達できなくてな」


 いつ襲われてもいいようにジケはマンサたちと距離を取ったまま会話する。


「そう警戒するなよ。俺たちはお前のこと襲わないからさ。むしろ俺たちと一緒に行動しないか?」


 試練が始まる前とマンサの態度は変わらない。


「俺たちは手を組むことにしたんだ」


 全員敵同士である。

 しかし手を組むこと自体は禁止されていない。


 むしろこんな状況を一人で乗り切る方が困難だといえる。

 上手く誰かと手を組む方が賢い選択である。


「一緒にこの状況を乗り切ろうぜ」


 マンサはニコリと笑って手を差し出す。


「……よろしく頼む」


 悩んだけれどジケは誘いに乗ることにした。

 空を見ると日はすでに落ちてきている。


 ここからは暗い夜の時間になる。

 馬鹿正直に寝てしまう子もいるだろうけれど夜をチャンスと見て動き出す子もいるだろう。


 寝ている間というのはどうしても無防備になる。

 一人では寝ることと警戒することの両立は不可能だ。


 安心して体を休めるためには仲間が必要である。

 他に仲間は当てはない。


 怪しさはあるもののマンサの誘いに乗るしかない。


「まあ仲良くやろうぜ。軽く自己紹介しておこう。こいつはジケだ。それでこいつはダマハで……」


 中でも背の高い子がダマハという名前らしい。

 短髪で表情に乏しくやや威圧感がある。


 他の子もざっくりと名前だけ聞いてジケはマンサたちの集団に加わることにした。


「まだ俺たちは札自分の分しかないんだけどお前は結構持ってるようだな」


 木札はどうしてもかさばる。

 手になど持っておけない。


 その対策として木札の上の方には穴が空けられていて、事前にヒモが配られていた。

 ヒモを木札の穴に通してまとめておけるようになっているのだ。


 ジケはそれを腰につけていた。

 数が多くなると懐に入れておくのも限界があるので周りに見えるような形になってしまうのはどうしても仕方ないのである。


 ここまででジケは自分の分を含めて十三枚の木札を集めていた。

 これだけ確保していれば試練を通過することはできるのではないかと考えているが、基準がわからない以上は油断もできない。


「そんな顔すんなよ。お前から取るつもりはないから」


「別に疑っちゃいないさ」


 流石に複数人で固まって動いていると襲いかかってくる人はいない。

 ただ固まって動いている分見つかりやすいのか他の子も見つからずに夜を迎えてしまった。


「お腹すいたな……」


 夜になるとやや冷える。

 周りから見つかりやすくなってしまうけれどこちらには人数もいるので大丈夫だろうと焚き火で暖を取ることにした。


 枝を集めてダマハが魔法で火をつけてくれた。

 燃える焚き火に手をかざしてぼんやりしていると寒さ以外のことにも意識がいく。


 マンサたちも食料は確保していない。

 そのためにほとんど丸一日何も食べていない状態であった。


 誰かがお腹が空いたとつぶやいたけれどみんなも同じ気持ちであった。

 木札よりも食料問題の方が今は大きいかもしれない。


「早めに寝てしまおうぜ」


 お腹が空いているのに起きていても精神的に疲労するだけだ。

 マンサの提案で早めに寝てしまうことにした。


「俺が起きてるからお前は寝るといいよ」


 全員で起きていることもしないし全員で寝ることもしない。

 襲われる可能性を考えて寝ないで警戒する番を交代で行うことになり、マンサが最初の番に立候補した。


 マンサともう一人が最初の番をすることになり、ジケは寝ることになった。

 毛布の一枚すらもなくただ地面に寝転がる。


 地面が比較的乾燥しているところを選んだけれど寝転がっていると少しじっとりとしてくるような気もする。

 ただジケはどんなところでも寝てきたような過去がある。


 もっと悪い場所でも寝てきた。

 焚き火でちょっとした暖かさがあるだけ最悪の状況ではないと言ってもいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る