生き残れ!3
「ないな……もうそろそろかな?」
始まるまでに水を見つけたかった。
しかし何も見つけられないままに時間が経ち、日の位置を見ればもうすぐ昼になるところだった。
遠からず試練が始まる。
もう歩き回っている場合じゃない。
「ここらでいいか」
ジケは立ち止まって周りを見る。
森の中のなんの変哲もない場所を選んで試練が始まるのを待つ。
懐に木札があるのを確認してジケは地面に座った。
立っているのも体力を使う。
開始までそんなに時間がないのなら少し体力回復に努めようと思った。
「おっ、これが開始の合図かな?」
空に火の玉が打ち上がった。
高く上がったそれはバンと大きな音を立てて破裂した。
多分これが始まりの合図なのだとジケは理解した。
「……7……8……9……10人ってとこか?」
開始の合図を見て立ち上がったジケは深いため息を吐き出した。
フィオスがおらずともジケがこれまで培ってきた能力がなくなるわけじゃない。
師であるグルゼイに叩き込まれた魔力感知は何者にも奪うことができないジケの力だ。
たとえ目を動かさずとも、たとえ直接見えていなくともジケには視えているのだ。
「出てこいよ」
ジケがどこへともなく声をかける。
「分かってんだ。ずっとつけてきていただろう?」
木の影からスッと人が出てくる。
それはジケと同じ場所からスタートだった子たちであった。
ジケが動き出した後他の参加者たちがジケの後を追いかけてきていた。
隠れてこっそりと監視するように追いかけていたことにジケは気づいていた。
その上で全部を無視して森の中を散策していた。
いつか離れていくかなと期待していたのだけど最後までついてきた。
「目的はこれか?」
ジケは木札を取り出して見せる。
知り合いがいなくて協力できる相手もいない。
神炎祭に本来参加すべきではないよそ者で得体の知れない相手であるジケを真っ先に狙うというのも理解ができない話じゃない。
だからって一人を相手に何人もの相手が徒党を組んで襲いかかるのは感心しないなと思った。
「来いよ」
ジケは与えられた木製の剣を肩に担いで手招きで挑発する。
こんなことする連中に説得など無駄だろうと分かりきっているので最初から手間なんてかけない。
ジケの自信満々な態度に子供たちの方がやや動揺する。
つけていたことがバレていたことや取り囲んでいるはずなのにジケが怖気付くこともなくて困惑しているのだ。
「……出てこないつもりか?」
出てきた子供たちは八人。
ジケの感覚では周りに十人いる。
二人まだ出てきていない。
バレていないとでも思ってるのか、ジケの隙や疲れた瞬間を狙っているのか。
「来ないならこっちから行くぞ!」
このまま突っ立っているとまた人が増えてしまう可能性がある。
囲まれても負けない自信はあるけれど何があるか分からないからあまり余裕ぶってもいられない。
「ぐえっ!?」
素早く近づいてきたジケに一人が木剣で殴り倒される。
見た感じ全員が全員乗り気でジケを攻撃しようとしているように見えなかった。
オドオドとしてジケのみならず周りの子の様子をうかがっている子もいる。
おそらく脅されたか無理矢理誘われたのだろうと思う。
だから狙うのはオドオドとしておらずジケのことを明らかに敵対視している子。
オドオドとしている子はすぐには動けないだろう。
それにきっとジケのことを敵対視していてやる気のある子を倒せば戦意を大きく削ぐことができる。
ジケの素早さに相手に大きく動揺が走る。
相手が持ち直す前にとジケはさらに攻める。
「く、くそっ! やっちまえ!」
三人倒されてようやく相手も動き出した。
しかしもう遅い。
ジケは勢いに乗っているし残った五人のうち三人はいまだにオドオドとしている。
実質的に戦おうとしているのは二人なのだ。
「ぐわっ!」
「うぎゃっ!」
残り二人もジケはサクッと倒す。
実力も大したことはない。
「まっ、待ってくれよ……」
「すまないな」
残された三人は完全に戦意を喪失していたけれどジケは容赦なく切り捨てる。
木札を奪って即終了ならばいいのだけど一日の終わりまでに木札を確保できれば脱落とならない。
また追いかけられたら困る。
できれば夜まで寝ていてもらう。
そうでなくとも動けないぐらいのダメージを与えておけば後の心配を少しでも減らすことができる。
骨まで折らないぐらいには手加減したので許してほしいとジケは思っていた。
あっという間に八人を倒したジケはわざと隙を見せるようにしながら木札を回収していく。
木札の数か、あるいは上位何人かなのか試練を突破できる基準はわからない。
八枚も木札があれば大丈夫などと思えない。
あまり気は進まないけれど人を倒してもっと木札を集めておかねばならないとジケは小さくため息をついた。
「いつまで隠れてるんだ?」
木札を回収し終えたジケは太い木の方を見つめた。
残った二人は最後まで出てこなかった。
ただ逃げることもせず木の影でずっと隠れている。
完全な隙を狙う慎重さはいいけれどずっと付きまとわれるのは勘弁願いたい。
「出て……こいよ!」
それでも出てこない。
ジケがカマをかけているとでも思っているのだろうかと少しイラッとする。
「なっ……ど、どうやって!?」
ジケは魔力を込めて剣を振った。
すっぱりと木が切れて倒れ、後ろに隠れていた相手の姿があらわになる。
ジケよりもいくつか年上そうな少年は木が切れてしまったことに驚いている。
ジケが持っているのはただの木剣のはずなのに太い幹の木を切り裂けるはずがないと顔を青くしている。
「まっ……」
「待つかよ」
ジケは慌てる少年の頭を木剣で思い切り殴りつける。
かなり痛いだろうけど人のことをずっと監視していた罰である。
「……逃げたか」
もう一人の方もと思ったのだけど隠れていることが完全にバレていると気づいて逃げてしまった。
「まあいい、これで九枚か」
わざわざ追いかけて倒すことはない。
逃げる程度の実力ならジケが手を下さずともどこかで倒されるだろうと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます