始まる神炎祭3

 神女のお相手は誰でも良いわけではない。

 神女の相手はラグカの王となる。


 例えば年齢が上過ぎれば早くに王の座が空席になってしまうこともある。

 かといって年齢が下過ぎれば王として機能はしない。


 そのために神女の相手を決める神炎祭には年齢制限が設けられている。

 昔は婚姻適齢期なんてふわっとした言葉で区切られていたのだが今は神女の年齢を基本として近い歳の人しか参加できなくなっている。


 神女も女性なのだ、あまり適齢期だからといって歳が離れていても良くないだろうということらしい。


「それでも多くいるな……」


 キヨウの北側にある平原に神炎祭の参加者が集められていた。

 ウルシュナに近い年齢といっても数個上までは認められる。


 条件の中には未婚なんてものもあるがその年齢層の多くの人に当てはまり、ラグカ国内からかなりの数の人が集まっていた。

 ジケより年上の子ならともかくジケと同じぐらい年齢の子ではまだよく分かっていなさそうな子供もいる。


「おっ、きたな」


 多くの人がいるけれどその中にウルシュナの姿はない。

 ウルシュナは連れて行かれた。


 神宮とかいう奴らがきて神女のための準備があると言ってウルシュナを連れて行ったのである。

 以前に会った神巫女のソーネも神宮の人であるらしい。


 ただ何もなく連れて行かれたわけじゃない。

 親であるルシウスとサーシャは一緒に行ったし叔父であるクロースもウルシュナに同行していった。


 よほどのことがない限りウルシュナを好き勝手にはできない。

 そんなウルシュナが到着した。


 豪華な馬車がゆっくりと走ってきて止まり、中から不思議な服に身を包んだウルシュナが降りてきたのである。

 ゆったりとした服装だが布は遠目に見ても高級そう。


 顔はうっすらと化粧がしてあって惚けたようにウルシュナを見ている人も少なくない。

 ウルシュナも美人なので着飾ると周りの人の目を引く。


「すごい可愛い子じゃん!」


「王様になるために結婚しなきゃいけなかったけど……あの子ならいいな」


 周りのざわめきが聞こえてくる。

 仮にジケがいなかったのなら神女は神炎祭を勝ち抜いた男と結婚しなければいけない。


 顔も性格も何もかも知らない相手である。

 ただ一方で神炎祭に参加する男もそのほとんどがウルシュナのことを知らない。


 王様になるために知らない女と結婚するということで、仮にウルシュナが自分の好みでなかったとしても王座のために我慢せねばならないのだ。

 ウルシュナは容姿が良いので神女がどんな人だろうと心配する多くの人にとっては都合が良かった。


 ウルシュナが可愛いとざわつきが広がる中でジケはウルシュナと目があった。


『勝ちなさいよ!』


 なんと言っているのか距離があるので聞こえはしないけれど、口の動きでその言葉はなんとなく理解できた。


「でも……流石に多いよな」


 この人数をどう選別し、どうやって神女の相手を決めるのか。

 ルシウスの時の話は聞いたけれども神炎祭の内容は神宮が決めていて、その時によって競う内容は違うらしい。


 最後に候補者たちによって直接対決することだけは固定のようであるが、ある程度数を絞らねば対決の時間だけで大人になってしまいそうだなんてジケは思う。


「静かにせよ!」


 ウルシュナとはまた別の豪華な馬車から降りてきた。

 男性が神炎祭の参加者たちに呼びかける。


 魔法を使って声を増幅しているのか大声を出しているように見えないのにジケにも声がはっきりと聞こえてきた。


「私はサトル・ラグカ。当代の王である」


 その男性は王様だった。

 意外と若いなとジケは思った。


 若者ではないがおじいさんでもない、中年のおじさんぐらいの人である。

 王様ということで考えればまだまだ働き盛りでこれからということも感じさせそう。


「我が妻であり、神女であったカエデ・ラグカが病により世を去った」


 今回新たなる神女が選ばれたのは一つ前の神女が病気で亡くなったためだった。

 たとえ王様が働き盛りでも関係ない。


 神女がいなくなれば新たなる神女が選ばれて王様は交代となる。


「先日新たなる神女のお告げがあった。ウルシュナ・コウミコトが新たなる神女として選ばれ、我々は次の時代を迎える時が来た。

 よって新たなる神女の相手としてふさわしき者を選別する神炎祭を開催することをここに宣言する!」


 サトルの宣言によってとうとう神炎祭が始まってしまった。

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