始まる神炎祭2
そうこうしている間にラグカの首都であるキヨウという都市に着いた。
「うわぁ……」
「なんか……不思議な雰囲気だな」
キヨウの町並みを見てエニとリアーネは呆けたような顔をしている。
なぜならキヨウの町に立ち並ぶ建物の形があまり見ないものなのである。
ジケの国では石やレンガなどで作られた家が一般的だった。
それに比べてキヨウの町では木造の家が多い。
港町では石造りだったのにキヨウの町にある家々は見た目の作りにも違った特徴を持っていた。
魔獣のために大きく作られていることもあるのだろうがそれだけではない。
「なんというか……屋根が出てんな」
ジケの国では家の横に屋根が突き出ていることは少ない。
けれどもキヨウの町の建物は屋根が建物本体よりも大きく外に出ている。
「雨ん時よさそうだな」
雨を防いでくれそうだし日差しなんかも和らげてくれそう。
木造で屋根が出ている建物はなかなか見慣れなく面白いとジケも窓から家々を眺めていた。
独特な建築、それに加えて町を歩く人もウルシュナのように褐色っぽい人も多い。
ただウルシュナはかなり綺麗な肌色をしていて、日に焼けたような人から地黒といっていいような人まで程度にも大きく差がある。
もちろんジケたちと近い肌色の人も普通に歩いている。
服装は特別変わらないのだけど町並みと人の違い、魔獣が多く共にいる様子を総合して見ると異国感はかなり強かった。
「やっぱりすごいお金持ちだよな」
キヨウでやってきたのはオーイシが所有する屋敷であった。
いわゆる別荘というやつでそちらに泊まらせてもらうことになっていたのである。
騎士も含めて全員泊まれるような大きなお屋敷であり、オーイシが到着するとたくさんの使用人ずらっと並んで出迎えてくれた。
本邸の方は最初の屋敷なのだがそれにも負けないぐらいの規模がある。
「お父様、お母様……それにサーシャ!」
「お兄様!」
屋敷からオーイシによく似た男性が出てきた。
男性は爽やかな笑みを浮かべるとサーシャとハグをする。
「ようこそ、皆様のことを歓迎いたします。私はサーシャの兄のクロースと申します」
クロースはサーシャよりも頭一つほど身長が高くて袖から覗く腕は筋肉質である。
キリリとした男らしい顔をしていていい人そうに見える。
「人が住んでいたのか」
どうやらここにはクロースが住んでいるようだ。
使用人が多くいるというのも納得ができた。
「君がウルシュナだね?」
身長の高いサーシャよりもさらに頭一つも大きいのだ、ウルシュナから見たらクロースは見上げるほどに大きい。
「お、おじ様……?」
「うむ」
ウルシュナにおじ様と言われてクロースはパァッと笑顔になる。
やっぱり良い人だとジケはその笑顔を見て思った。
「父上」
「なんだ?」
「やはり神宮の連中……潰しませんか?」
「お前もそう思うか?」
「こんな可愛い姪を勝手に神女なんて許せません」
「今から奇襲すれば一網打尽にできるだろう」
急に真剣な顔になったクロースとオーイシから不穏な会話が聞こえる。
「二人とも、おやめなさい」
「ユミカ……しかしだな……」
「お母様、ウルシュナが……」
「おやめなさいと言っているでしょう!」
「……はい」
「良い考えだと思ったのですが……」
黒いオーラが見える二人を止めたのはユミカであった。
ユミカに叱責されて二人があっという間に小さくなってしまう。
「婚約者のジケ君もいるのです、そう先走りすることはないでしょう」
「コン……ヤクシャ?」
「そうですよ。サーシャの時と同じでウルシュナの信頼する人が神炎祭に参加するから大丈夫」
「…………婚約者」
クロースが厳しい目をジケに向けた。
ウルシュナに向ける目と違いすぎる。
「クロース!」
「い、痛いです、お母様!」
ジケに厳しい目を向けるものだから怖い顔をしたユミカがクロースの耳を引っ張る。
「ごめんなさいね」
「いえ……」
たとえ会ったことがないウルシュナでもこうして可愛がってくれているからこそなのだとジケも好意的にとらえることにする。
「婚約者……消してしまうのはどうでしょうか?」
「ううむ……最初はそうした考えがあったことは否めないが悪い子ではないぞ」
「また何か聞こえますね? ウルシュナ、今日の食事はあの二人は外しましょう」
またしても不穏な会話が漏れ聞こえ、ユミカが二人を睨みつける。
「ちょ、待ってくださいお母様!」
「ならおとなしくしていなさい。もし神炎祭でダメだったらその時は暴れるといいわ」
「了解しました」
「それより年寄りをいつまでも外に立たせておくものじゃないわよ」
「あ、申し訳ありません。皆さん中にどうぞ」
賑やかで、愛の大きな家族。
サーシャがどうしてあんな感じの人なったのかよく分かるような気がしたし、神女という役目をただよしとせずに自由に生きるのは家族の後押しもあったのだなととても納得できた。
「良い人たちだな」
「うん、そうだね」
ウルシュナとしてはちょっと距離を詰めるのが早くて困惑してしまうところはある。
けれどももうすでに家族として受け入れてくれている感じがあって照れ臭くて、嬉しかった。
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