生き残れ!1
「もう歩けない……」
また一人脱落した。
「馬鹿みたいだな……」
倒れて連れていかれる子を見てジケはため息をついた。
神炎祭が始まり、何をさせられるのかと思ったら今はただ歩かされていた。
戦闘には神宮の馬車があり、神炎祭に参加する子どもたちは皆ただひたすらに馬車を追いかけて歩いている。
休憩は食事と夜寝る時だけ。
目的も告げられず三日も続く行進に脱落者も続出していた。
ジケは毎日走り込みをしているので体力的には問題がない。
しかし何のために歩かされているのかも分からず苛立ちや不満を覚えていた。
それは周りの子たちも同じである。
ただぐるぐると同じ場所を回っているのではなく真っ直ぐとどこかには向かっているようだ。
何か目的はあるのだろう。
ただそれを告げずにただついてこいと歩かされるのは馬鹿みたいだとジケは感じていた。
「でさ、俺は言ってやったのよ」
さらにジケを苛立たせる要因がもう一つあった。
最初こそわいわいとしていた子供たちであった。
友達同士、あるいは近いグループで参加して固まっている子や新たに友達を見つけるような子もいた。
会話を禁止されているわけではないので互いに話しながら歩いていたりしたのだが、明らかによそ者なジケに声をかけてくる人はいなかった。
それでいいと思っていたのだけど二日目にしてジケに声をかけてくる子が現れたのである。
知り合いになったところでウルシュナを連れて帰るつもりなのでもう会うこともないと適当にあしらっていたのであるけれど、そいつはずっとしゃべり続ける。
口から生まれてきたんじゃないかとジケがウンザリするほど話をするのだ。
「マンサ……少し黙らないか?」
マンサというジケと同い年ぐらいの少年は寝る時以外ずっと話している。
歩くのはいいけどマンサの話で脱落したい気分になる。
「でも暇だろ?」
「歩くのに暇じゃない」
「歩くのだって多少刺激があった方がいいだろ」
話が通じないとジケはため息をつく。
マンサの話に耐えて、さらに脱落者を出しながら二日を歩き続けた。
「ここは……海?」
そろそろマンサの口を力づくで塞ぐことを考えていたジケの目の前に海が広がっていた。
「ここから船に乗る」
一応歩きでの目的地には到着したようだった。
浜辺には大きな船が停泊していてジケはそれに乗り込む。
五日の行進でだいぶ脱落した子供達がいたように思えたが残った子供達もまだまだ多くいる。
それでもみんな疲れ切ったような表情をしているしマンサも流石に疲れているようだった。
「フィオスが恋しいな……」
なぜなのか、神炎祭では認められた時以外魔獣禁止であった。
そのためもう五日もフィオスと会っていない。
エニたちに預けているので悪いようにはされていないだろうがこんなに長く一緒にいないのは過去以来である。
せめて何をするのか教えて欲しいものだ。
目的もわからず移動させられるのは精神的にも結構辛い。
最低限フィオスでもいれば愚痴の相手がいたのになと思う。
「俺は昔から船苦手でさ……」
「まだ話すのか」
ジケの横で青い顔をして寝転がっているマンサは船が得意ではないらしい。
ただ少し休んで体力だけは回復したのか口を開き始めた。
「うっ……」
「黙ってた方がいいぞ」
気分が悪くなってマンサは慌てて口を押さえる。
船酔いは話すだけではどうにも治らない。
ーーーーー
「第二の試練を始める」
丸一日ほど船で移動して着いた先は島だった。
かなり大きな島のようだが住んでいる人などは見当たらない。
島についてからジケたちは一日休みをもらって体力の回復に努めたが、五日の行進と一日の船の疲れは浜辺で休んだくらいじゃ抜けきっていない感じがある。
しかし神炎祭は待ってはくれない。
王様であるサトルが前に出てきた。
もう第二? とざわつきが広がるが第一はあの歩き通しが試練だったのだろうとジケは思った。
確かに結構辛かったし体力や精神的に足りない人は脱落せざるを得なかった。
もうすでにふるいにかけられていたのである。
「君たちには生き残りをかけて戦ってもらう」
なかなか不穏な試練の説明をみんな黙って聞いている。
「これから一人一枚木札を配る。これを奪い合ってもらい、最終的に木札を多く持っているものが試練を通過できる」
サトルは手のひらぐらいの大きさの木札を見せた。
これから行われるのは島全体を使って木札を奪い合うバトルロワイヤルであった。
三日という期限の中で自分の木札を守り、他の人の木札を奪い合う。
いまだに疲労が残る中でいつどこで襲われるかも分からない極限の戦いが始まる。
子供にやらせることじゃないだろとジケは呆れ返る。
「これから十二組に分けてそれぞれスタート地点に移動する。半日後スタートの合図が上がったら試練のスタートだ。それまでに他のものを攻撃したら失格だ。しっかりと監視しているからな」
なるほどなとジケは思った。
少し空を見上げる。
多くの鳥が上空を飛んでいる。
おかしいと思っていた。
天然の鳥にしては数が多い。
これは神炎祭を管理する大人たちの魔獣であるのだ。
島全体を監視するために鳥の魔獣と契約している人を相当用意している。
サードアイなどの魔法を使って不正や行き過ぎた行為がないように監視するつもりなのだろう。
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