おじいちゃん、おばあちゃん2

「靴は脱いで上がるように」


 お屋敷に入ろうとしたら靴を脱ぐように言われた。

 ジケはあまり経験したことがない文化であるが相手に合わせるのが礼儀というものである。


 むしろ家が汚れなくてよさそうだなとすら思った。


「長旅で疲れているだろう? 食事を用意してあるから食べなさい」


 オーイシの案内で屋敷の中を歩く。

 魔獣のためにと広く作られているのはあるけれど、やはりお屋敷そのものも他と比べて大きい。


「食事はここで」


 広い部屋にテーブルが並べられている。

 使用人が忙しなく動いてすでに料理が並べられ始めていた。


「えっ?」


「えっ?」


 お腹も空いている。

 だからもてなしを受けて料理を食べようとしていたのだけど問題は席の配置だった。


 オーイシとユミカの希望でウルシュナはオーイシとユミカに間に座ることとなった。

 ウルシュナは急に決まった席配置に驚いているけれどもそれはまだいいとジケは思う。


「なんで俺、ここなんですか?」


 問題はジケの位置だった。

 オーイシとユミカの正面にルシウスとサーシャが座る。


 そうするとルシウスとサーシャの間が一つ空いてしまう。

 そこにジケが捩じ込まれた。


 これにはジケ自身も驚きを隠せない。

 いいからとりあえず座りなさいと言ったサーシャは呆然とするジケを見てクスクスと笑っている。


 ウルシュナはいいけれどジケは明らかに異質な存在である。


「間空いちゃったから」


「いやいや……もっとなんかあるでしょう?」


 わざわざルシウスとサーシャの間を開けてそこにジケを突っ込む必要なんてない。


「なかったわね。それにあなたはうちの子の婚約者じゃない?」


 どうしても席を変えるつもりがなさそうなサーシャはニコリと笑う。

 助けを求める視線をルシウスに送るけれどルシウスはサーシャに弱い。


 それに今いるのはサーシャの実家であり、そうしたところでもさらにルシウスの立場は弱かった。

 戦場ではあんなに頼もしい人なのにとジケも思わざるを得ない。


 婚約者も仮初のものではあるけれどオーイシとユミカにはただ婚約者とだけ伝えている。

 いざという時にオーイシとユミカに迷惑をかけないためだとサーシャは言っていたけれど少し怪しいものである。


 結局ジケの訴え虚しく料理が運ばれてきてそのままの席で食事をとることになった。


「しかし……こうしてみるとサーシャの小さい頃を見ているようだな」


 オーイシが目を細めてウルシュナを見る。

 ウルシュナはサーシャと似ている。


 ルシウスらしい柔らかさもありながらサーシャの美貌はしっかりと受け継いでいた。

 新所というところを捨てたサーシャはラグカ国内ではやや微妙な立場ではある。


 それに加えてラグカまでは長い船旅を乗り越える必要があるのでウルシュナをオーイシとユミカに会わせたことがなかった。

 ようやく出会えた孫に二人はニコニコである。


「お前が出て行ったのも昨日のことのようなのに孫はこれほどまで大きくなっているのか」


「そうね、ベッドにお粗相していたのも少し前だと思っていたのにね」


「お、お母さん?」


 珍しくサーシャが動揺した顔をする。

 サーシャがウルシュナにやるようにユミカにサーシャがやられている。


 サーシャの性格はユミカ譲りのようだった。


「あの子はね昔からおてんばで……」


 普段ならこうした時はサーシャが場を支配するのだけど今はユミカの方が饒舌だった。

 サーシャの昔話を聞きながら食事を進める。


 サーシャが話を遮ろうとしてもユミカがすぐにサーシャの昔話をぶち込んでくる。

 ほんのりと耳を赤くしたままサーシャは最後までユミカに敵うことがなかった。


 ウルシュナはウルシュナで普段聴くことがない母親の話を楽しそうに聞いていた。


「まあこうした話は新鮮でいいな」


 サーシャにはしてやられることも多い。

 だからジケも楽しいといえば楽しいのだけどやはり最後まで席についてはもっとあっただろうと思わざるを得なかったのである。

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