おじいちゃん、おばあちゃん1
「緊張するか?」
「ちょっとだけね……」
ラグカについたジケたちはあるところに向かっていた。
神女の夫の座を奪い合う神炎祭なるものはラグカの首都であるウヨキという場所で行われるのだが、その前に行くべきところがあった。
正確に言えばジケがではなくウルシュナが行くべきところがあるのだ。
首都からほど近い領地にある大都市ドーエンの町の中心にその場所はあった。
魔獣のためにと大きめなラグカの家々の中でもさらに大きな家がある。
周りを塀でグルリと囲まれていて、見上げるほどの門の前にジケたちは来ていた。
大きな門がゆっくりと開き始めて、ジケの隣に立つウルシュナの顔は少し緊張に強張っていた。
ルシウスを先頭にしてジケたちも門の中に入っていく。
「サァーシャー!」
「元気そうね、このじゃじゃ馬娘」
出迎えてくれたのはサーシャやウルシュナと同じく褐色の肌をした老年の夫婦であった。
がっしりとした体格の男性がルシウスはスルーして両手を広げてサーシャを抱きしめる。
隣に立つ女性は穏やかな微笑みをサーシャに向けている。
二人ともサーシャと似ているなとジケは思った。
顔のパーツなんかを細かくみていくとそれぞれ似ているところがあるのだ。
「この子がウルシュナだな? 一目で分かる。初めまして、君のおじいちゃん、オーイシだ」
「私はユミカよ」
何を隠そうこの二人はウルシュナの祖父母、サーシャの親なのであった。
「ほれ、おいで」
オーイシが笑顔を浮かべ腕を広げる。
「う、うん……」
「こんなに大きくなって」
ウルシュナが少し照れたように応じるとオーイシはギュッと抱きしめた。
ほんのりと頬を赤らめたウルシュナも祖父の抱擁に優しく抱きしめ返す。
行くべき場所とはウルシュナの祖父母の家だったのである。
ようするにおじいちゃんおばあちゃんにご挨拶というわけである。
ついでに神炎祭が始まるまで数日泊めてもらうのだ。
ウルシュナはサーシャの方の祖父母とは初対面でなので緊張していた。
「久しぶりだな、婿殿」
「お久しぶりです、お義父さん」
「最後に会ったのは……うちの娘を連れて行った時かな?」
「はは……以来ご挨拶できておらず申し訳ありません……」
ユミカがウルシュナを抱擁している間にオーイシがルシウスに声をかける。
穏やかなようでオーイシの目の奥が笑っていなくてルシウスは笑顔が引きつってしまう。
「可愛い子に育ってるわね」
「お、おばあちゃん……」
「おばあちゃんって呼んでくれるのも嬉しいわね」
ユミカがウルシュナの頬をムニムニと揉むように触っていてウルシュナは困惑している。
ジケの見た感じではサーシャはユミカに似ている。
見た目もそうだけど人としての雰囲気もサーシャが持っているものとユミカが持っているものは近い。
サーシャがそのまま年をとっていけばユミカのようになるだろうなとジケは感じた。
「本当ならこちらから行ければよかったのだけどなかなか忙しくて顔を見せられなくてごめんなさいね」
ユミカがチュッとウルシュナの頭にキスをする。
「ううん、おばあちゃんに嬉しいよ」
「ふふふふ、嬉しいこと言ってくれるわね。あなたをもてなす準備していたのよ」
「むぎゅ……」
ユミカが笑顔を浮かべると再びウルシュナを抱きしめた。
「そして君が孫の婚約者……だね?」
「……はい」
ウルシュナたちに向けるのとはまた違う少し厳しい目でオーイシがジケを見た。
体格のいいオーイシが険しい顔をすると圧力がある。
ジケは圧力に押されないように背筋を伸ばしてまっすぐにオーイシの目を見返す。
そして後ろからはエニが婚約者という話に冷たい目でジケのことを睨むように見ていた。
一応事情は説明して納得してもらったのにと頭の後ろにジケは視線を感じていた。
「良い目をしているな」
オーイシはジケの肩に手を乗せた。
ジケが抱えているフィオスも見えている。
けれどオーイシはスライムを連れていくことなど見ておらず、目の奥に見えるジケの芯の強さを見ていた。
若いのにしっかりとしている。
オーイシがジケのことを見極めようとしているようにジケもオーイシの目の奥を覗き込んでいる。
こんな状況でなかなかできることではない。
「力は意思に宿り、意思は力を与えてくれる。君の目は何ものにも諦めない強さを秘めている」
魔力は人が持つものだが人は魔力ではない。
「娘を連れて行かせてほしい、そんな言葉を吐いた時の義理の息子にも似ているかもしれない」
オーイシがニヤリと笑ってルシウスが恥ずかしそうに苦笑する。
「相変わらずね、お父さん」
「お前の方も相変わらずそうだ。お前が飛び出して俺が苦労したか……」
「前に帰ってきた時も同じ話してたじゃない。さっさと中に入りましょう」
「お荷物お持ちします」
横の方に控えていた屋敷の使用人たちがジケたちの荷物を持って中に入っていく。
「ウルシュナの家ってお金持ち?」
「あんまり知らないから分かんない……」
使用人だけじゃなくお屋敷を守る兵士もいる。
お屋敷の大きさからただの人たちじゃなさそうだということは薄々感じていたけれどなんだかお金や立場もありそうだった。
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