魔獣ではない魔物との共生

 少し長いこと拘束されていて衰弱していた人もいたが木こりたちの命には別状はなかった。

 騎士たちで木こりを運んで町まで戻ってきた。


 ジケたちは宿に帰ってルシウスたちは木こりを治療のために教会に運んでそのまま冒険者ギルドに向かった。

 ルシウスの報告を受けて冒険者ギルドや木こりたちを管轄しているギルドなどが動いた。


 案内を担当した冒険者や拘束されていた木こりに話を聞いてドライアドにどう対応すべきか話し合いがもたれた。

 倒してしまえばいいという意見もあればうまく共生すべきという意見もあった。


 どちらの意見が優勢かといえば共生すべきという方が強かった。

 ドライアドが森にいるメリットは多い。


 木の精であるドライアドの影響力は森全体に及び、木の育成や健全さに恩恵を与えてくれる。

 さらにはドライアドの勢力圏になれば侵入してくる魔物が減る。


 ドライアドは人間に友好的な魔物であるし、木を切ることも森の健全化に必要だと許容してくれる。

 そんなことから木こりの間ではドライアドは森の守り神なんて言う人もいた。


 上手く付き合っていけるのならドライアドは脅威ではなく利益になるというのが最終的な意見になった。


「なんで俺が……?」


「それは君がドライアドに信頼されていそうだからだ」


 木こりたちの伐採担当区域をさらに変更し、ドライアドたちが平穏に暮らせるようにしようと決定がなされた。

 ただそのために必要なことがあった。


 ドライアドの本体となる木の場所の把握である。

 今回事件を起こしたドライアドについては森の奥側にある巨木だろうことは推測も難しくない。


 しかし他にも小さいドライアドがいた。

 大きいドライアドは小さいドライアドを守ろうとしていたのだし小さいドライアドの木の位置を把握してそこを避けて区域を変更せねばならないのだ。


 そこで駆り出されたのがジケだった。

 なんか知らんがドライアドに信頼されて交流してるということからドライアドの交渉役に任された。


 誰が呼んだか、“魔物交渉人”という謎の肩書きまでもらった。


「俺っていうより……フィオスだと思うけどなぁ」


 森の中を歩くジケは小さくため息をつく。

 ジケがドライアドから信頼されているというよりフィオスが信頼されているのではないかと思う。


 ただフィオスが信頼されたならフィオスの契約者であるジケも半ば信頼されたようなものであることはその通りである。


「そう難しく考えることはない。前と同じようにドライアドに声をかければいい」


「そう言われても……」


 本当に話が通じているのか確かめる術もない。

 意外と責任重大な仕事を任されたなと今更ながら思う。


「まあなるようにしかならないか」


 ドライアドの姿が見えた。

 ジケが切り倒した切り株の上にドライアドが腰かけて、その周りで小さいドライアドたちがわいわいと遊んでいる。


 ジケとフィオスが来ているのに気づいて小さいドライアドたちが駆け寄ってくる。

 ジッとフィオスのことを見つめるので渡してやるとフィオスを抱えて走っていく。


 その様子を微笑ましく眺めていたドライアドはゆっくりと立ち上がるとジケに対して優雅にお辞儀する。


「おぉ……ドライアドが敬意を払っている」


 木こりたちの代表がドライアドが頭を下げたことを見て驚いている。


「ええとこっちでまとまった話は……」


 ジケは話し合いの内容や決まったことをドライアドに説明した。

 ドライアドは新緑色の目でジケのことを見つめながら小さく頷いて話を聞く。


「それで他のドライアドの木の場所を教えてほしいんだ」


 木こりたちが伐採するのを避けるために必要なことではあるが、ドライアドにとっては弱点である本体の木を知られてしまうことにもなる。

 教えてもらえないことも考えていたのだけどドライアドは優しく微笑んだまま大きく頷いた。


 ついてこいと言わんばかりのドライアドと小さいドライアドについていく。

 森の中の数カ所を巡ってドライアドの本体と思われる木を教えてもらった。


 ドライアドのような巨木はなくて、どの木もまだまだ若木であって知らなければ伐採で手を出されてしまいそうなものもあった。

 これは確かに守らねばいけないなとジケも感じた。


「それほど浅い場所にはない。これならば担当区域の変更も難しくはないだろう」


 木こりの代表がドライアドの木がある場所を地図にマークしながら自信ありげな表情を浮かべる。


「木こりたちにドライアドのことを周知して決して手を出さないようにしよう。そちらが手を出さなければこちらから手を出すことはしない」


 木こりの代表の言葉にドライアドはにっこりと笑った。

 そしてドライアドは残りの木こりたちも解放してくれ、木こりたちの伐採担当区域は迅速に変更された。


 ドライアドと人間の共生がなされた。

 森の木を切っていると時に新緑色の瞳をした女性や小さい子供が様子を見守っていることがあるなんて話がされるようになるのはもう少し後のことである。

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