木を切りに3
「やっぱり……」
「やっぱり、ジケのせいかな?」
「なんでだよ?」
「ジケがいると何か起こるから」
否定しきれないエニの言葉に渋い顔をしているジケは町を離れていた。
海へ、ではない。
海と逆方向の陸上を歩いていた。
結局早く出発したいルシウスと問題を解決したい町の人たちの思惑が一致して騎士たちが手伝うことになった。
特別見返りも求めずにさっさと出発してくれる無償の戦力は相手としてもありがたかったのだろう。
ざっくりとジケが聞いていた問題としては木の値段が上がっていて、船の修理に使う木もないということだった。
「木こりたちが帰ってこない……か」
騎士たちが手伝うことになってより詳細に話を聞いてみると木材を採りに行った木こりたちが少し前から帰ってこないらしかった。
森に入って作業する以上魔物や事故などのリスクはあるもので、多少帰ってこない人がいても普段は気に留められない。
けれどあまりにも帰ってこない人が増えてしまった。
実は冒険者ギルドの方でも調査は行っていた冒険者を雇い人を向かわせていたのだが、なんの異変もない、あるいは帰ってこないのどちらかだった。
それに伴い無事だった木こりたちも訳の分からない状況に活動を控えてしまったために木の供給が減って値段が上がっているのだ。
港町なので船を直したりすることは頻繁に発生するので船を直す木材が不足していたのである。
海とは逆の方向、町から少し離れたところには森が広がっていて、そこから木は採られている。
ジケも含めルシウスたちは案内の冒険者と共に森に向かっていた。
「もうすぐ森に着きます」
日程に余裕があると言っても遊んでいるような暇はない。
やや早足で移動してきたジケたちは森の手前まで来ていた。
かなり大きな森は外から見る限りなんの変哲もないように見える。
「木こりの担当区域を調べていきましょう」
木こりたちも森の中で好き勝手に木を切り倒しているのではない。
事前に決められた区域があってその範囲の中でやっている。
帰ってきていない木こりたちの担当区域から考えるに森の奥側が怪しいと見られるがまだ正確なことは何も言えない。
ひとまず失踪した木こりの担当区域を調べてみることにした。
「魔物もいますので気をつけてください」
案内してくれる冒険者は時に木こりとしても活動することがある人で、木こりの担当区域が書き込まれた地図を見ながら先頭を歩いていく。
「また植物の魔物かな?」
「その可能性は高そうだな」
森の中といえば植物型の魔物だろう。
ウルシュナは少し前に戦ったウッドベアのことを思い出していた。
またウッドベアじゃないよなとちょっとだけ不安がある。
「森の中だと難しいな……」
エニは顔をしかめる。
植物型の魔物相手ならまたしてもエニの炎の出番であるけれど、炎の魔法はコントロールをミスると周りが燃えてしまう可能性もある。
森の中なら特にそうしたことに気をつかわねばならず、強い魔法を使うのが難しくなる。
いざとなれば魔法使い騎士たちが鎮火もしてくれるだろうけど植物の少ない山岳地帯でウッドベアと戦った時とは勝手が違うのだ。
「まあもしかしたらみんなでお茶会でもしてるのかもしれないしな」
「流石にそれはないでしょ」
できればトラブルなんて無い方がいい。
あっさりと木こりが見つかればいいのにと思いながら森の中を進んでいく。
「そろそろ失踪した木こりの担当区域に入ります」
「みんな、警戒を強めるんだ」
実際森の中に区切りがあるわけじゃないけれど地図上では失踪した木こりの担当区域に入っていた。
ただまだ森の中としては真ん中ぐらいの場所である。
木こり、あるいは魔物の痕跡がないかと探していく。
木こりといっても魔物が出る森の中で活動する。
多くの場合二人以上のペアで魔物とも戦えるような屈強な男たちがやっているので無抵抗でただやられらるなんてことは考えにくい。
魔物がいたなら戦いになった可能性も大きい。
「木を切り倒した痕跡はあるな」
「斧も落ちてるね……」
倒れた木が一本あった。
自然に倒れたものじゃなく切り口から切り倒されたものだということが分かる。
切り株の近くには斧が落ちていた。
かなり使い込まれているけれどよく手入れされている斧は長く放置されているものじゃない。
「戦いの跡はないな」
木を切り倒してそのまま放置して疾走するなんてことはないだろう。
斧が落ちていた周辺を探してみるけれど戦いがあったような痕跡は見られないし木こりの痕跡もない。
「ただ一つ希望はあるな」
「なんでですか?」
何も分からないのに希望があるとルシウスは言う。
ジケはその理由が分からなくて首を傾げる。
「何もない……が遺体もない」
「確かにないですね」
「遺体がなければ何もいうことはできない。生きているとも……死んでいるともな」
その場で死んでいないということはまだ生きている可能性も少しはあると言える。
可能性はかなり低いけれど可能性はあるのだ。
「血痕すらない。もし仮に何かが連れ去ったのだとしたら生きていった可能性は大きい」
「なるほど……」
血でもあれば絶望的だろう。
しかし木こりが怪我をしたという痕跡すらない。
生きて連れ去られたことが推測できて、生きたままどこかに囚われているなんてこともあり得なくない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます