木を切りに2

「おっ、肉のマークだ!」


 教えてもらった通りに進むとステーキのマークのお店があった。

 肉屋っていう可能性もちょっとある。


 窓からチラリと中を覗き込むとちゃんとレストランだった。

 席に空きもありそうだったのでお店の中に入った。


 全く客がいないわけじゃないけどそれなりに空いている。


「ステーキかい。美味いもの食わせてやるよ」


 いかにも美味いもの作りそうといった感じの恰幅のいい店主が注文を受けて店の奥に引っ込んでいく。


「ステーキ楽しみだぁ〜」


 リアーネはすっかりご機嫌になっている。


「まあ肉は美味いもんな」


 魚も好きだが肉も好き。

 魚ばかりの食事だったからリアーネの気持ちも分からなくはない。


「おい聞いたか? ナデアンとこ戻ってこないらしいぞ」


「そういえばヒルテマーも帰ってないって聞いたな」


「大丈夫なのか?」


「さあな。ただうちのが木が高いってぼやいてたよ」


「お前んとこはまだいいさ。うちにはまだ小さいのがいるんだ」


 ステーキを待っていると近くに座っていた他の客の話し声が聞こえてきた。

 空いているために聞き耳を立てようとしなくても聞こえてしまうのである。


「はいよ、ステーキだ」


「おっ、待ってました!」


 店主がジュウジュウに焼けたステーキをリアーネの前に置いた。

 かぐわしい肉の香りが立ち上り、リアーネはお肉の香りを胸いっぱいに吸い込む。


「タイミングがよかったよ。明日には値上げしようと思ってたんだ」


「なにかあったんですか?」


「燃料が値上がりしててな」


 店主は渋い顔をして肩をすくめる。


「燃料?」


「木だよ、木。ステーキ焼くのにも燃料となる木が必要なんだが……最近高くてな。このままじゃやっていけないから値上げするつもりだったのさ」


「へぇ……そんなことが」


「行方不明になってる木こりもいるなんて話があるし何が起きてんだか……」


 店主がため息をつく。

 早く木の値段が安定しないと日常生活にも影響が出てきてしまう。


「んじゃ、さ」


「リアーネ?」


「値上がりする前にもう一枚……いいか?」


「はやっ、もう食べちゃったのか」


「ここいい店だぜ」


「はっはっはっ! いい食いっぷりのお嬢さんだ! 待っとけ。今焼いてやるから」


 ーーーーー


「はぁ〜満足だ!」


 ステーキを心ゆくまで食べ尽くしてリアーネは幸せそうにしている。

 腹ごなしがてら何かお土産にでもなりそうなものはないかと散策しながら宿に戻る。


 木の値段が上がっていると店主から聞いたけれど町中の様子は今のところ普通だった。

 そこまで大きく切迫しているような感じではなかった。


 仮に問題になっていたとしても出来ることなんかないだろうなと思いながらこの国の特産品である特徴的な柄の布を購入した。

 シェリランあたりが喜びそうである。


 あとは特別お土産として買っていきたいものもない。

 生物は帰るまで持たないので買っていけない。


「お嬢様、ジケ様」


「あっ、どうも」


 宿の近くまで戻ってきたところでゼレンティガムの騎士たち数人に会った。

 ちょうどジケたちと入れ替わるタイミングで遅めの昼食を食べにいくらしい。


「ルシウス様が戻ったら話があると言ってましたよ」


「お父様が? 分かった、ありがとう」


 何の話だろうと思いながら宿に帰ってきた。


「お父様、私です」


「ウルシュナか。みんなもいるようだな」


 ウルシュナが優しくルシウスの部屋のドアをノックする。

 ルシウスがドアを開けてジケたちの姿を確認する。


「何か話があるって聞いてるけど」


 部屋の中に入ってウルシュナはポンとベッドに腰掛けた。


「少し問題が発生したんだ」


「……何かあったんですね?」


 何もないのに呼んで話をすることはない。

 薄々勘づいていた。


「船だが航行不能ではないが修理しておいた方が安心なところがあった」


 デカい魚に体当たりされて傷んでいるところが見つかった。

 すぐさま壊れることはなくラグカまで行って帰ってくるぐらいは平気だろうが、こうして時間に余裕のあるうちに直してしまう方が確実な安心はある。


「そこで修理をお願いしようとしたのだけど、そこで問題があったのだ」


「まさか木がないとか言いませんよね?」


「……なぜ分かった? まさしくその通りなのだ」


 こんなところで話が繋がってくるとはとジケはため息をついた。

 ルシウスは問題をピタリと言い当てられて不思議そうな顔をしている。


「ちなみに問題といいますけどどうするつもりなんですか?」


「それについてはまだ冒険者ギルドや町と協議中だ。我々が協力することもあるかもしれない」


「他国の人間なのにですか?」


「利害が一致すれば何でも使うのが人間というものだ。我々は早く出港したいし、向こうは問題解決したい。思惑はさておき手を取る理由があれば協力は惜しまない」


 こういった時に動員されるのは冒険者であるがルシウスたちが無償で協力を申し出れば相手としてもその方が安上がりでいい。

 成功すれば成功したらでいいし、失敗しても自国の冒険者たちが被害に遭うでもないからだ。


「ひとまずすぐに出港とはいかなくなった。幸い日程にはまだまだ余裕がある。決まり次第君たちにもどうするかは共有する」


「分かりました」


 なんとなくではあるけれど、このままただ待ってるだけじゃ終わらなそうだなとジケは思ったのだった。


 ーーーーー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る