木を切りに1
海に道はない。
当然の話であるのだが陸上とはどうしても違うものである。
陸上の道は人がよく通り、大体木などがなく整備されている。
つまりは人が通らずとも人の気配が道にはあるのだ。
そのために魔物は人の道にあまり近づかない。
魔物は人にとって脅威であるのと同様に人は魔物にとっても脅威たる存在であるからだ。
なので道を歩く限り魔物に襲われる危険性は全くとはいかないもののかなり低いのである。
対して海は道がなく、移動すれば陸上でいうなら森や平原を突っ切っているようなもの。
そのために船は意外と魔物に襲われる。
基本的に襲ってくるのはマーマンのような小型の魔物であるが、一度船の半分ほどの大きさもある巨大な魚が攻撃してきたので魔法でなんとか撃退した。
なんで海の男たちが屈強なのかよくわかった気がする。
「地に足つくって幸せだな……」
リアーネが体を伸ばす。
今ジケたちは今ラグカまでの途中にある国に寄っていた。
別に遊びに来たのではない。
魔物に襲われてしまう以上は船に傷みが出てくる。
大丈夫だろうと放っておくと後にとんでもない破損につながったりもする。
色々と必要なものの補給もあるので余裕があるなら寄れる時にどこかに寄って船の補修を行うのである。
日程を聞いた時にかなり余裕を持って出発したなと思っていたのだが、それは全く魔物にも襲われずに突き進めた時の話であって途中でどこかへ寄るという事は考慮されていなかった。
なぜそんなに日程に余裕を持ったのか理由が分かった。
デカい魚に船が体当たりされたこともあるので念のためにしっかり調べるようで数日留まることになった。
「乗ってると感覚狂うけど……地面が揺れないな」
久々の揺れない地面にリアーネは少し感動したようである。
船の中ではどうしても波によって揺れてしまう。
常に揺れていることを気にしない人もいるけれどリアーネは割と揺れている感覚が苦手な人だった。
「宿見つかったらしいからそっちに移動しよう」
本来ならこうした停泊も船の中に留まるのだが、船のチェックのために外の宿に泊まることになっている。
騎士の人が宿を丸々借り上げたようなので宿に向かう。
海を隔てた国であるが町の感じや人にもあまり大きな違いはない。
港町らしい活気があって道を人や魔獣が行き交っている。
ジケの国よりも肌が日に焼けたような黒っぽい人が多いけれど港町だからかもしれない。
「少しあるこーよ」
基本的な荷物は船の方に置いてあるのでほとんど手ぶらのような感じで宿に来た。
まだ真昼間で眠くもないので暇を持て余している。
フィオスを枕に寝転がっていたジケの部屋にウルシュナとエニが訪ねてきた。
暇だから少し外出しようと誘いに来たのだ。
「そうだな。お腹も空いてきたしどこかお昼でも食べてこようか」
ジケが体を起き上がらせるとフィオスはジケの膝に乗っかる。
時間も昼時。
久々に地上に降りた感動で忘れていたけどだいぶお腹も空いていた。
「ユディットは行くか?」
「もちろんです」
「ニノサンは……休んでろ」
「申し訳ありません……」
ジケはユディットとニノサンと同じ部屋だった。
ユディットは平然としているがニノサンは相変わらず船酔いでダウンしていた。
外に連れ回せるような体調ではないのでそのままベッドに寝ていてもらうことにする。
女性騎士と同部屋だったリアーネも連れて宿から出る。
「散々魚食ったから肉食いたいな」
船で手に入れられる食料はやっぱり魚である。
おかげでジケも釣りが上手くなったのだけど毎日どこかで魚料理が出てきた。
たまに肉料理もあるが新鮮な肉ではなく日持ちする乾燥させた肉なのでちょっと違う。
「そうですね。私も肉がいいです」
ユディットもリアーネの意見に同意する。
「んじゃ肉料理の店だな」
港町のせいかレストランも魚のマークが看板に書いてあるところが多い。
魚料理がメインのお店ということである。
そうしたお店にも肉料理はあるだろう。
けれどもどうせなら肉料理がメインのお店の方がいい。
「あっこは?」
フォークとナイフがクロスした看板の店をリアーネが指差す。
「店前のメニュー、魚ばっかりだよ」
店の入り口横に本日のオススメメニューが書いてあってウルシュナが読んだ限りでは魚料理だった。
「んじゃああっち!」
「お店の名前、魚の名前だよ」
今度も看板に魚が描かれていないお店を指差す。
魚料理のメニューは置いてないけれどお店の名前が魚の名前である。
「んにゃー! なんだよ!」
リアーネが頭を抱える。
偶然なのかもしれないけれどリアーネが良さそうと思ったところは全部魚料理がメインのようだった。
「この際人に聞いてみようか」
ぶらぶらと散策がてらレストラン探しをしていたがいい感じのところが見つからない。
リアーネも空腹でイライラし出しているので人に聞いて探してみることにした。
「肉料理の店?」
身なりと恰幅のいい年配の男性に声をかける。
こうした人はお金を持っていてレストランなどもよく知っていることがある。
「あっちの通りを進んでいくと良い肉料理のお店がある」
「ありがとうございます」
一発目で当たりだった。
男性は人の良さそうな笑顔を浮かべて肉料理のレストランを教えてくれた。
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