船の上での時間の使い方3
「ゲームはいいが熱中しすぎるなよ」
サーシャという勝てない相手がいるから二度とやらないというのは賢い判断である。
やはりサーシャはカードゲームにおいてかなり強いようであることも分かった。
騎士たちも輪に加わってカードゲームに興ずる。
人が代われば戦略もやり方も代わってくる。
大胆な人もいれば慎重な人もいる。
ゲームに加わる人によって同じゲームでも展開が大きく変わるのだから意外と見ているだけでも飽きないものである。
「おっと、大丈夫か?」
「あ、うん。ありがとう」
突如として船が大きく揺れた。
ジケは隣にいたエニのことをさっと支えてあげた。
男らしい気遣いにエニも笑顔を浮かべる。
「魔物だ! 騎士のみなさん仕事だぞ!」
船の船長が船室に声をかける。
和やかだった空気が一変して緊張感が高まる。
騎士たちは素早く甲板に上がっていきジケたちも続く。
「休んでてもいいぞ?」
「いえ……大丈夫です」
こんな時に丸くなってはいられないとニノサンも来ていた。
けれどやはり顔色はかなり悪い。
「マーマンだ!」
船を襲っていたのはマーマンであった。
半魚人とも言われるような魔物であるが二足歩行なこと以外人といえるような共通点もない。
以前も戦ったことがある相手で騎士たちと一緒にジケも剣を抜いて戦い始める。
時々錆びついたような武器を持っている個体もいるが、基本的には何も持っていなくて爪で切り付けてきたり噛みついてこようとするのがほとんどである。
船に上がってくるとマーマンの動きはかなり鈍くなるし戦うのにも問題はない。
「ウルシュナ、そっち行ったぞ!」
「オッケー!」
熟練した騎士たちがマーマンに遅れをとるはずがないし、ジケたちもしっかりとマーマンを倒していく。
ニノサンはちょっとコンディションが危ないのでエニの護衛になってもらった。
「ふむ、良い動きだ」
ルシウスはあえて動かなかった。
マーマンなら騎士もジケたちも大丈夫だろうと思った。
いつでも助けに入れるように待機しつつここはジケに経験を積ませようと考えたのだ。
続々と船に登ってくるマーマンだが続々と倒される。
「逃げるぞ!」
ジケたちの方が強くとてもじゃないが倒せないと察したマーマンが逃げ始めた。
そろそろ倒して床に転がるマーマンが戦いの邪魔になってくるなとジケが思い始めた頃だった。
残っていたマーマンも海に飛び込んでいく。
恐る恐る海を覗いてみると水面に見えるマーマンたちの影が離れていって消える。
「はっ、襲う相手を間違えたな」
逃げたマーマンを見てリアーネが鼻を鳴らす。
マーマンから見ればただの商船にも見えるのかもしれないが中には手練れの武人でいっぱい。
マーマンの方は運が悪かったとジケも思う。
「まあ良い運動だったな」
体を動かしたい頃だったからちょうどいいとリアーネは笑う。
「よう、ボウズ。まだ若いのにやるじゃないか!」
「いてっ!」
いかにも海の男らしい髭面の男がジケの背中をバンと叩いた。
「ガハハっ! 嬢ちゃんにも負けてないな!」
ジケたちが乗っている船の船長で、実はルシウスとはアカデミー時代からの旧知の仲であるらしい。
ボージェナルの別荘に来た時にはウルシュナを船に乗せたこともあるのでウルシュナも船長のことは知っている。
ウルシュナのことを嬢ちゃんなんて軽く呼べるのも船長の豪快な人柄によるものだろう。
「ルシウスたちが乗ってるなら俺たちが戦うこともなくて楽でいい!」
今回は騎士たちが戦ったけれど普段は船の船員も魔物と戦う。
「ただ戦わなきゃ体鈍ってしまうかもな」
あまり騎士たちにばかり任せていると戦い方を忘れてしまいそう。
そんな冗談を船長は言う。
船の上での時間の使い方として襲いかかってくる魔物と戦うということも一つであるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます