船の上での時間の使い方2

 船などの限られたスペースでできる暇潰しといえばカードだろうなと予想はできていた。

 ジケもカードゲームはやったことがある。

 

 酒場でもカードによるゲームは行われていた。

 酔った男たちが集まってお金をかけたりしてゲームを行なっていた。


 ジケもかけをしないゲームで遊んだことがある。

 冒険者も似たようなものなので酒場や冒険者ギルド、夜野営をしている時にカードを使って遊んで暇を潰したりする。


 雑なものだと薄い木の札に数字と図柄を書き込んだものを使ったりするけれど、サーシャが取り出したカードは魔物の素材を使って作られた高級なカードだった。

 紙のように薄いがしなやかで柔軟、人が多く触っても簡単にダメになることがない優れものである。


 サーシャにルールを教えてもらいながらカードで遊び始める。

 最初はよく分かっていなかったようだけど、ウルシュナもエニも頭は悪くないのですぐに理解して楽しみ始めた。


「だはぁ〜負けたぁ〜!」


 ウルシュナがテーブルに突っ伏す。

 その衝撃で船に合わせてゆったりと揺れていたフィオスが大きくプルンと揺れる。


「ねぇ、なんか強くない!?」


 ゲームに勝ったのはジケだった。

 今のところ初心者であるウルシュナ、エニ、ユディットとジケでカードゲームをやっているのだけど、ジケの勝率は高かった。


 そりゃそうだろうとジケは思う。

 何と言ったってジケは初心者ではないから。


 過去のことではあるがカードゲームに興じていたこともある。

 ジケが過去でカードで強かったことはないけれどもまだまだルールを覚えたてな三人よりは強い。


「天才カード師だからな」


「あっ、ムカつく〜」


 カードの経験があるから勝てるんだとは言わない。

 どうせそのうち追いつかれる程度の実力しかない。


「あとウルシュナは顔に出過ぎなんだよ」


「顔?」


「ああ、分かりやすい」


 今は魔物のカードを最後まで手元に持っていたら負けなんていう運要素も強いゲームをしていた。

 ここで弱かったのはウルシュナである。


 ジケがカードを取ろうとするとそれが何なのか明らかに表情に出る。

 周りの騎士もそれを見てこっそり笑いを堪えている者もいた。


「なっ……それなら早く言ってよ!」


 顔に出ていることは無意識だった。

 ウルシュナが顔を赤くしてジケに抗議する。


「ちょっと可愛らしくてな」


「にゅ……」


 分かりやすいのがウルシュナである。

 まさしくそんな感じで顔に出ていてジケも楽しんでしまった。


 ウルシュナは怒りと恥ずかしさが混ざったような顔をしている。


「次は別のものやってみましょうか」


 カードで行うゲームは一つじゃない。

 次にサーシャから教えられたものは酒場でもよくやっている人がいたもので、賭け事なんかにもよく使われるゲームだった。


 運的要素も強いのだけど駆け引きという要素も強いゲームでサーシャの提案でポイント制にして何回かゲームをして一番ポイントを稼いだ人が勝ちというルールになった。


「くっ……」


「へへーん!」


 ユディットは途中大きく出たものの運の良かったウルシュナに持っていかれてポイントがすっからかんになってしまった。


「はい」


「おっ、強いな」


 エニは割と堅実に戦っていく。

 ポイントの増減は少ないが勝てるところはしっかりと勝っていく。


「ガッハッハッ〜! 私の勝ちだぁ!」


 弱弱ユディットに代わってゲームに入ったリアーネは大きく勝負に出るタイプだった。

 勝つと大きいけれど割とブラフだったり勝負を楽しむ感じである。


「……こんなことしてていいのか?」


 割とダメな大人の遊びな気がするとジケは急に気づいた。


「……まあいいか」


 みんなも楽しんでいるようだし、騎士たちは騎士たちで誰が勝つのか予想することでゲームの勝敗に一喜一憂して同じく楽しんでいた。


「懐かしいわね。私もラグカを飛び出して船旅をしている時にはこうして暇を潰したのよ」


 みんなでワイワイとしている様子を見てサーシャも微笑んでいる。


「あの時一緒に船に乗っていた商人はイカサマしてきたから最後には財産全て巻き上げてあげてあげたわ」


 サラリと言ったけれどとんでもないことをしている。

 ジケには一瞬にしてサーシャの微笑みが怖いものに見えてきた。


「大丈夫よ。現金以外は持っていても邪魔だから返してあげたから」


 ジケの視線に気づいたサーシャがニッコリと笑う。

 何が大丈夫なのかと思わざるを得ない。


 でもサーシャにイカサマを仕掛けた商人が悪い。

 それにサーシャが家を飛び出したのはだいぶ前のことなので今からとやかく言えることでもない。


「何をしているのだ?」


「お父様!」


 ルシウスが甲板から降りてきた。

 人が集まっているものだから気になったように様子を覗き込む。


「カードか」


 騎士も暇な時にカードで遊んだりする。

 比較的堅物なルシウスでもカードぐらいは触ったことがある。


「お父様もやる?」


「いや、私はもうカードはしないと誓ったんだ」


「誓った? 何かあったの?」


 カードをしないなんて誓うのは賭けに狂ったか大きな失敗でもした人である。

 まさかルシウスがそんな人には見えないとジケは少し驚く。


「ふっ、なんてことはない。私はサーシャにカードで勝ったことが一度もないのだ」


 上には上がいる。

 そのことを知ったルシウスはたとえ遊びでもカードはしないとサーシャに誓ったのだ。


「あの時に買ってもらった指輪は今でも宝物よ」


 サーシャはルシウスにウインクしてみせる。

 なるほど、痛い目を見たのだなとジケは苦笑いを浮かべた。

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